1941年8月、英国首相チャーチルと米国大統領ルーズベルトが大西洋上で会談して発表した共同宣言。
第二次大戦と戦後の世界秩序についての構想を示したもので、領土の不拡大、政体選択の自由、各国間の経済協力、恐怖および欠乏からの解放、公海の自由、武力行使の放棄などを内容とし、のちの国連憲章の基本理念となった。
意訳
両国は、領土的たるとその他たるとを問わず、いかなる拡大も求めない。
両国は、関係する人民の自由に表明された願望に合致しない、いかなる領土の変更も欲しない。
両国は、すべての人民が、彼らがそのもとで生活する政体を選択する権利を尊重する。両国は、主権および自治を強奪された者にそれらが回復されることを希望する。
両国は、現存する義務に対して正当な尊重を払いつつ、あらゆる国家が、大国小国を問わず、また勝者敗者にかかわらず、経済的繁栄に必要とされる世界の通商および原料の均等な開放を享受すべく努力する。
両国は、労働条件の改善、経済的進歩および社会保障をすべての者に確保するために、経済分野におけるすべての国家間の完全な協力を実現することを希望する。
ナチスの独裁体制の最終的崩壊後、両国は、すべての国民が、彼ら自身の国境内で安全に居住することを可能とし、すべての国のすべての人が恐怖と欠乏から解放されて、その生命を全うすることを保障するような平和が確立されることを希望する。
このような平和は、すべての人が、妨害を受けることなく、公海・外洋を航行することを可能とするものでものでなければならない。
両国は、世界のすべての国民が、現実的および精神的なるいずれの理由からも、武力行使の放棄に到達しなければならないと信じる。陸・海・空の軍備が自国の国境外に侵略の脅威を与え、もしくは与えそうな国々によって行使される限り、いかなる将来の平和も維持され得ないのであるから、一層広範かつ恒久的な全般的安全保障システムが確立されるまで、こうした国々の武装解除は不可欠であると信じる。両国は、同様に、平和を愛好する国民のために、軍備の圧倒的負担を軽減するすべての実行可能な措置を支援し、かつ促進させるであろう。
原文
(一九四一年八月十四日大西洋上ニテ署名)
アメリカ合衆國大統領及ヒ連合王國ニ於ケル皇帝陛下ノ政府ヲ代表スル「チャーチル」總理大臣ハ會合ヲ爲シタル後兩國カ世界ノ爲一層良キ將來ヲ求メントスル其ノ希望ノ基礎ヲ成ス兩國國策ノ共通原則ヲ公ニスルヲ以テ正シト思考スルモノナリ
一、兩國ハ領土的其ノ他ノ增大ヲ求メス。
二、兩國ハ關係國民ノ自由ニ表明セル希望ト一致セサル領土的變更ノ行ハルルコトヲ欲セス。
三、兩國ハ一切ノ國民カ其ノ下ニ生活セントスル政體ヲ選擇スルノ權利ヲ尊重ス。兩國ハ主權及自治ヲ强奪セラレタル者ニ主權及自治カ返還セラルルコトヲ希望ス。
四、兩國ハ其ノ現存義務ヲ適法ニ尊重シ大國タルト小國タルト又戰勝國タルト敗戰國タルトヲ問ハス一切ノ國カ其ノ經濟的繁榮ニ必要ナル世界ノ通商及原料ノ均等條件ニ於ケル利用ヲ享有スルコトヲ促進スルニ努ムヘシ。
五、兩國ハ改善セラレタル勞働基準、經濟的向上及ヒ社會的安全ヲ一切ノ國ノ爲ニ確保スル爲、右一切ノ國ノ間ニ經濟的分野ニ於テ完全ナル協力ヲ生セシメンコトヲ欲ス。
六、「ナチ」ノ暴虐ノ最終的破壞ノ後兩國ハ一切ノ國民ニ對シ其ノ國境內ニ於テ安全ニ居住スルノ手段ヲ供與シ、且ツ一切ノ國ノ一切ノ人類カ恐怖及缺乏ヨリ解放セラレ其ノ生ヲ全ウスルヲ得ルコトヲ確實ナラシムヘキ平和カ確立セラルルコトヲ希望ス。
七、右平和ハ一切ノ人類ヲシテ妨害ヲ受クルコトナク公ノ海洋ヲ航行スルコトヲ得シムヘシ。
八、兩國ハ世界ノ一切ノ國民ハ實在論的理由ニ依ルト精神的理由ニ依ルトヲ問ハス强力ノ使用ヲ抛棄スルニ至ルコトヲ要スト信ス。陸、海又ハ空ノ軍備カ自國國境外ヘノ侵略ノ脅威ヲ與エ又ハ與ウルコトアルヘキ國ニ依リ引續キ使用セラルルトキハ將來ノ平和ハ維持セラルルコトヲ得サルカ故ニ、兩國ハ一層廣汎ニシテ永久的ナル一般的安全保障制度ノ確立ニ至ル迄ハ斯ル國ノ武裝解除ハ不可缺ノモノナリト信ス。兩國ハ又平和ヲ愛好スル國民ノ爲ニ壓倒的軍備負擔ヲ輕減スヘキ他ノ一切ノ實行可能ノ措置ヲ援助シ及助長スヘシ。
フランクリン・ディー・ローズヴェルト
ウィンストン・チャーチル