第24回国会 衆議院 外務委員会 第4号 昭和31年2月11日
○池田(正)委員 実は私この委員会ははなはだ不勉強で、たまたま参りまして質問を許していただきましたが、野党の諸君の御同情によりまして簡単に質問をさせていただきます。
まず私からお尋ねいたしたいことは、昨年以来のロンドンにおける日ソ交渉は、回を重ねること二十回、ここで明瞭になって参りましたことは、つまり領土の問題、この日ソ交渉の何と申しましてもポイントであり山となる領土の問題に関しまして、ソビエト側から公式に歯舞、色丹だけは返してもよろしいということを明確にして参りました。ところでけさのロンドン電報によりますと、ソビエト側はこれを返還するという言葉を使わないで、特に譲渡といい言葉を使っておる。このことは、われわれ日本人として、軽く聞き流すわけには参りません。これについて一体外務当局は、譲渡という言葉を使っておるソ連の意図が那辺にあるとお考えになるか、そしてこれでいいのか、このことについて一言お尋ねいたしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/5
006・森下國雄
○森下政府委員 歯舞、色丹をそういうふうに考えてはおりません。歯舞、色丹は、元来これは歴史的にもそういう何ものもないのでございます。これは北海道の一部とも考えておるのでございますから、断じてさようなことはございません。
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007・池田正之輔
○池田(正)委員 政府はつまり譲渡という言葉では承服できない、あくまでも日本の領土であるから、返還を要求するという建前を堅持するというふうに了解いたしてよろしいのでありますね。
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008・森下國雄
○森下政府委員 さようでございます。その通りでございます。
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009・池田正之輔
○池田(正)委員 それならば私も了承いたします。
そこで問題は、わが日本国といたしまして、ソビエトに要求しているのは歯舞、色丹だけではなしに、南千島というものをはっきり要求しておるはずであります。しかるにソビエト側は歯舞、色丹だけ、そして南千島のいわゆる択捉、国後については、何らこれに言及しておらぬ。これに対して政府は、歯舞、色丹だけでがまんしようとするのか、南千島をも返還するのでなければがまんはできない、あくまでもこれを強硬に主張しようとするのか。私はこの際これをはっきりさせておきたい。それは何となれば、国内のいろいろの説を見ますと、いろいろな政治的な意図や、いろいろな角度から、この際は領土問題はあとにして単に国交の調整だけでよろしいのだというような説さえなされておる。従って、これに対して国民は非常に迷っておる。これを明確にするためにも、これはここで今最終的な段階に当って、歯舞、色丹だけは返してもよろしいということを正式にソビエトから回答があった以上は、これに対して日本政府としては、この際——松本君は懸命に、これだけではいかぬということを言っておるようでありますけれども、政府としてこれに対してそれで満足するのか、これでは満足できないのか、この点の政府の決意を明確にしてほしいと思います。
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010・森下國雄
○森下政府委員 お答え申し上げます。これは松本全権の主張を全面的に、かつ強力に支持するものでありますことを、ここにかたく言明いたします。
それと同時に国後、択捉につきまして、一つここでよく御説明を申しておきます。
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011・池田正之輔
○池田(正)委員 ちょっと待ってください。つまり今政務次官の言われるのは、南千島も当然あくまでも要求する、こういう建前に立つということなんでしょう。
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012・森下國雄
○森下政府委員 さようであります。
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013・池田正之輔
○池田(正)委員 そこでこの南千島をわが国があくまでも要求する、政府があくまでもこれを堅持していくということについては私も同感なんです。このことについては、当然わが党にいたしましても、党のいわゆる緊急政策として天下に公表してあるところであります。同時にまた政府もこれを強く要求しておるはずなんです。しかるに一体何の根拠に立って、南千島というものをわれわれは強く主張するかということについて、残念ながら一般の国民は実は御存じない。実は驚いたことには、この院内におきまして、社会党の方々は賢明だから御存じであるかもしれませんけれども、わが党の諸君も外務委員会に御出席のこれらの方々はいずれも御存じですけれども、それらに関係のないような方々は御存じない。言論界の方々も、きょうおいでのような外交専門におあずかりになっておるような方々は御存じかもしれませんけれども、他の方々に開いてみますと、いかなる理由に基いて、日本は南千島を要求するかということについて、これを明確に知っておる人に、私は今日まで不幸にして一人も出くわしておらぬ。(岡田委員「根拠がないからだよ」と呼ぶ)賢明な岡田君でさえも、ただいまかようなヤジを飛ばすほど、いかにこのことが国民の間に不明確になっておるか、なぜ一体それを明確にしないか。これは私の考えるところによりますと、当然南千島というものは歴史的に日本のものである。その根拠はどこにあるかといえば、すなわち幕末、徳川末期に千島北辺が危うく、常に騒がしかった。これを何とかしなければならぬというので、詳しくは申し上げませんが、いわゆる安政元年に下田港において調印された俗にいう下田条約の第二条においてそこで初めて当時のロシヤと日本との国境というものは明確になった。このことを残念ながら世間の一般の方々は御存じない。あの下田条約の第二条によって見ますと、これは得撫から北側がソ連の領土であって、択捉から南が全部日本の値土であるということをここに明確にした。(発言する者あり)これは諸君もはっきりしたらいい。社会党の諸君もそういうふうに知らないからヤジを飛ばす。その次の条約は明治八年の樺太・千島交換条約において明確にしておる。このことは国民が御存じない方が多いのです。これは現実です。理屈でありません。こういう歴史的な事実の上に立って、従ってロシヤと日本との国境というものは得撫島と択捉島との中間であることは明確になっておる。(「ロンドンに行ってやれ」と呼ぶ者あり)このことを外務当局はなせ一体国民に知らせない。この歴史的な事実によって——外務大臣、総理大臣の演説においても、そういう抽象的な演説によって国民に知らす努力をしていない。何というばかな……。怠慢もはなはだしいじゃないですか。そこに日本の外務省の弱体性がある。日本の外務省の役人諸君が私は無能だとは申しません。しかしながら日本の外務省の弱体は何であるか、国内情勢を知らぬからだ。君らが不勉強のためなんだ。外務省というものは何もわが党の外務省ではない、日本の外務省だ。それだからわれわれはこれを言うのだ。ここに日本の外交の弱体性がある、本質的なものがある。日本の国民はこういう問題についてどういう知識を持って、どういう感覚を持って、どういう考え方を持っておるかということに対する思いやりが諸君の中にない。これは日本の外交の最も弱体の本質的なものです。なぜこれをやらないか。外務当局はこの歴史的な事実を明確にして、国民に知らせる義務を諸君は持っておるはずだ。何という怠慢だ。外務政務次官、この点を明確にしてもらいたい。
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014・森下國雄
○森下政府委員 サンフランシスコ条約は千島の範囲を決して決定してはおりませんし、これを放棄したようなことはないのでありまして(「その通り」)その点を……(「二条C項を見ろよ」と呼ぶ者あり)南千島は入っておりません。
[「入ってないということを反証しろ、具体的に言えよ」と呼ぶ者あり〕
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015・前尾繁三郎
○前尾委員長 静粛に願います。
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016・森下國雄
○森下政府委員 一応それでは今の南千島の問題のそういう誤解を解くために、ここにはっきりと一つ声明をいたします。
この南千島、すなわち国後、択捉の両島は常に日本の領土であったもので、この点についてかつていささかも疑念を差しはさまれたことがなく、返還は当然であること。御承知のように国後、択捉両島の日本領土であることは、一八五五年、安政元年下田条約において、ただいまお述べになったように調印された日本国とロシヤ国通好条約によって露国からも確認されており、自来両島に対しましては何ら領土的変更が加えられることなく終戦時に至っております。一八七五年、明治八年の樺太・千島交換条約においても、両島は交換の対象たる千島として取り扱われなかったのであります。
サンフランシスコ平和条約はソ連が参加しているものではないが、右平和条約にいう千島列島の中にも両島は含まれていないというのが政府の見解であります。同会議において吉田全権は択捉、国後両島につき特に言及を行い、千島列島及び南樺太の地域は、日本が侵略によって略取したものだとするソ連全権の主張に反論を加えた後、日本開国の当時、千島南部の二島すなわち択捉、国後両島が日本領であることについては、帝政ロシヤも何ら異議を差しはさまなかったと特に指摘しておるのであります。また連合国はこの今次戦争について領土の不拡大方針を掲げていたこと、また太平洋憲章、カイロ宣言、ヤルタ協定、ポツダム宣言はすべて過去において日本が暴力により略取した領土を返還せしめるという趣旨であり、日本国民は連合国が自国の領土的拡大を求めているものでないことを信じて疑わない。日本の固有の領土たる南千島をソ連が自国領土であると主張することは、日本国民一人として納得し得ないところであります。
この南千品は日本人の生業に欠くべからざる島であることも、これを伝えなければなりません。国後、択捉両島は北海道に接近しており、沿岸漁業の獲得高から申しましても、戦前千島列島の年十万トンに対し、この国後、択捉両島のみで年十五万トンに達していた事実等でも明らかな通り、両島は日本国民の日々の平和な生活を続けてきておったものであります。
ここにこれをかたく声明をいたす次第でございます。
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017・池田正之輔
○池田(正)委員 最後に、ただいまの御答弁でやや明確になってきましたが、実はそれだけでは私あまり感心しないのであります。ということは、つまり樺太・千島交換条約の際における条文の内容等についても、もう少し詳細に説明すべきだと私は思う。それはたとえば第三款に、この条約の中にはっきり書いてある。これは日本全権は榎本武揚、ソビエトの全権はアレキサンドル・ゴルチャコフ、この両全権によって調印された。この内容を見ますと、クーリール列島上に存する両者の権利を互いに相交換する、こういうことを書いてある。そういったことから、もう少し詳細にいくべきで、ここに第二款には千島列島のことを、第一占守島から第二阿頼度島というふうに、第十八得撫島とも計十八島の権利、こういうふうに明確に書いてある。こういうことをもっと詳細に国民にわかるように、外務当局はこれを知らす必要がある。そういうことを諸君はやってない。それから今の千島という概念、これはどこからきておるか。なるほど明治以後の行政区画として、今の歯舞、色丹だけは北海道という行政区域に便宜上入れた。南千島のこの二島は、便宜上千島という行政区画に入れたというところに社会党の諸君などは錯覚を起している。そういうところに誤解の根源があったように思う。従って南千島と北千島と同じじゃないかという概念を国民が抱いておる。日本の国民にそういう考えを抱かしめておいて、そうしてソビエトに向ってそれをよこせ、返還せよ、これは無理なんだ。そういう感覚で諸君が外交をやったんでは外交が成功するはずがない。いやしくもわが党は、南千島を断じて要求する、一歩も譲らぬということを天下に声明しておる。それに従って政府もそれを声明しておるはずでありますから、あくまでもこれを堅持して、どこまでも一歩も下らぬという態度をもって今後臨まれんことを私は切に希望いたしまして、私の質問を打ち切りたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/17
018・穗積七郎
○穗積委員 関連して一問だけ。実は日ソ交渉における領土問題については、私は重光外務大臣に今まで二回にわたってお尋ねいたしております。しかしそのたびごとに時間が制限されておりまして、いまだ質問の継続中の状態にあるわけでございます。本日も外務大臣が出席されたならば、ぜひその点をお尋ねしたいと思っておったのですか、こまかいことについては、外務大臣が次会に出席される約束ですから、そのときにいたしまして、きょうは一問だけ政務次官にお尋ねしたい。
第一にお尋ねしたいのは、いろいろな順序がありますが、われわれの考えでは、終局的には南樺太、千島全体にわたって領土権の要求をすべきであるというふうに考えております。ところが政府は、ソビエトとの交渉において、南千島だけで最終的に打ち切られるつもりであるかどうか。それが一問。それから第二には、もし北千島その他についても、領土権をいろいろな順序を踏んで交渉されるつもりであるならば、なぜ一体北千島と南樺太をサンフランシスコ条約で放棄されたか、その理由を明らかにしてもらいたい。この二点を一括してお尋ねします。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/18
019・森下國雄
○森下政府委員 ただいま申されましたそのほかの島は、国際的な機関を通して解決したいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/19
020・下田武三
○下田政府委員 桑港条約におきまして、日本は千島、樺太に関します一切の権利、権原等を放棄するということをいっております。それはまだ連合国側の間におきまして、その最終的帰属についての意見の一致を見ないので、とりあえず日本だけは権利を放棄するということを宣言させるという、何と申しますか、中途半端な領土問題の解決をせざるを得なかったというのが、桑港会議当時の情勢であったのであります。(「桑港条約なんてやめたらいいじゃないか。なぜやったんだ。なぜ放棄すべからざるものを放棄したんですか」と呼ぶ者あり)。ポツダム宣言におきまして、われらの決定するというところに日本は従って、領土問題の処理を向うの決定に一任したわけでございます。でございますから、桑港会議におきましてもう文句を言えない立場に、日本は降伏の際からあったわけであります。ところがその決定なるものが、最終的の決定に到達しなかったのであります。日本の手から一応とるということだけの決定しかできなくて——通例の平和条約におきましては、領土の処分については、何々国のために譲渡するなり、放棄するなり、そういうことを書くことが普通でありますが、桑港会議のときにはそこまでできなかった。連合国側の意見が一致しなかったのであります。そこで半分しかきまらなかった。
〔「一致するはずがない」と呼び、
その他発言する者あり〕
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/20
021・前尾繁三郎
○前尾委員長 静粛に願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/21
022・下田武三
○下田政府委員 一致するはずはないのであります。ですから今日になりまして、なぜ桑港条約を受諾したのかということを提起されましても、これは終戦の経緯にかんがみまして無理なことであります。
それからもう一つ、先ほどの件に関連して言えますことは、クーリールといいまして、クーリールなるものの範囲も、これも連合国間で何ら意見の一致を見ていないのであります。従いましてその意見の一致を見ていないクーリールなるものの範囲について、固有の日本の領土たる国後、択捉はクーリールに含まないと言うことは、日本の自由なりということになっているのであります。であるとするならば、今日日本が、最終的の領土処分を行いました平和条約がない以上は、日本の利益に従ったところを最大限まで主張するということは、これは当然のなすべき処置であると私は考えます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/22
023・穗積七郎
○穗積委員 ただいまの外務省当局の御説明ははなはだしくあいまいであって、そんなことで領土問題が国際的に解決できるなんと思ったら、大間違いだとわれわれは思う。だからわれわれは、あくまでやはり終局的には千島列島全体と南樺太について領土権を主張すべきだと思う。それには正当なる国際条約における論理をもって当るべきであって、因縁情実をつけて、そういうことで交渉すべきではないとわれわれは思う。従ってただいまの答弁ははなはだわれわれは納得することができない。ということは、日本の利益のためにという、そのような論理では国際的に通用いたしません。ですからその答弁についてははなはだしく不満でありますが、きょうは開進質問でございますし、責任者であります重光大臣もおられませんから、この問題についての質問は留保いたしまして、私はきょうは打ち切ります。
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024・前尾繁三郎
○前尾委員長 並木芳雄君。
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025・並木芳雄
○並木委員 私も領土問題のことについて質問いたしたいと思っておりましたが、幸いに池田委員から発言がありましたから、その点は省略したいと思いますが、ただ一点だけ、手続の問題になりますが、ただいま問題になりました千島、南樺太の処理をする場合に、あらためて国際間の相談にまかせたいという政府の方針でありますが、その場合の国際間ということは、具体的にはどことどこの国を予定しておられるか、それを伺っておきたいと思います。要するに、平和条約であのような取りきめができておりますから、平和条約に参加した国々全部との間で、事実上は平和条約の条項を変更していくような話し合いを進めていくのか、それとも別個の新しい国際的なグループに頼むのか、どういうことを予定しているか聞いておきたいと思います。
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026・森下國雄
○森下政府委員 これからやることであって、今それは予定してありません。
「そんなことで交渉ができるか」
と呼び、その他発言するあり」
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/26
027・前尾繁三郎
○前尾委員長 静粛に願います。——並木君、領土問題はきょうは留保して……。
中略
○岡田委員 船田さんにお伺いしたいのですが、その前にちょっと一点だけ。先ほどからだいぶ重大な問題が出ているので、原水爆禁止の国会の議決の問題に関連してあとで御質問があるようですから、これは私はこの場合に参おいては遠慮いたします。
日ソ交渉の領土問題について、先ほど森下政務次官と下田条約局長から御答弁があったのですが、私は先ほどのお話を伺っておって、これは国際法上の通念から見て、どうしても納得のできない点を条約局長も言っておられるが非常に不思議に思うのです。それはどういう点かというと、池田君から先ほど古い帝政ロシヤ時代における条約の問題が出された。これに基いてこれが生きているではないか。従って南千島の諸島は日本に所属すべきものである、こういうように解釈をすべきであるし、これについて日本の外務省がなぜ主張しないか、こういう点についての主張があった。これに対して先ほど森下政務次官は何か書いたものを読まれたわけでありますが、読まれているところを聞いていると、サンフランシスコ条約の第二条の(C)項に書いてある千島列島の中には、南千島が入っておらないのだ、こういうような解釈の規定を一貫して、外務省としてはとって主張しているのであるというように私は受け取った。そこで国際法の通念ということを申し上げたのだが、国際法の通念からいうと、戦争宣言が発布された場合においては、相手の国において従来取りきめられておったところの条約というものは、どのようになるかということについて、国際法上の通念の規定がある。一つの解釈をもってするならば、これは当然今まできめられておった条約というものは、全部破棄されるのであるという解釈が一つの解釈であります。(「冗談言うなと呼ぶ者あり)二つの解釈があるんだよ。一つの解釈はこれだと思う。第二の解釈は、その条約というものは戦争の済むまで一時効力を停止する、こういう形になるのだという通説がある。大体この二つであると私は解釈しておるのであるが、そうすると第二の解釈の説をとってみても、既存の条約というものは一時停止されておると理解しなければならない。そうして戦争が終結後においてこの問題をどうするかということが、平和条約によってきめられると理解しなければならないと思う。とするならば、日本のその当時の政府である吉田政府が、日本は戦争が終結したという立場に立って、その間においていろいろな事情があろうとも、サンフランシスコにおいて平和条約を結んだ。この平和条約において千島列島についての取扱いというものが、日本の国の立場として規定されているわけだ。そこで私の申し上げたいのは、もしこの平和条約において、従来の条約についての取扱いが規定されているものとするならば、この千島列島の領土の地域というものはどこどこであるということの解釈の規定が行われなければならないと思う。クーリールに南千島が入っているか入っていないかという問題を規定するのは、もし吉田政府の立場が日本の立場に立つものであるとするならば、平和条約のときに明らかに何らかの解釈規定が行われていなければならないと私は思う。とするならば南千島の二つの島が入っておらないということが、サンフランシスコ条約のときに吉田政府のもとにおいて、アメリカその他の国と何らかの交渉の行われた事実があるのかどうか。正式の議事録なりその他においてこのような規定が残されているかどうか、こういう点が一番この交渉の問題としては重安な問題になってくる。私はこの点についてまず伺いたいのだが、そういう交渉の経過があるかどうか、議事録にそういうものが残っているかどうか、こういう点をまず伺いたいし、残っておらないとするならば、日本がいかに主観的にそれを主張したとしても、日本の権利、権原を放棄したという、この平和条約の第二条(C)項によっては、千島列島のどの島をも返せということを日本の国から主張するという立場がないことだけは明らかであるし、主観的に日本の国民の感情をもって、ただ要求しますといったところで、これは国際法上通らないということを、先ほどから社会党の諸君も言っているわけだ。ただ感情的に何を返せ、かにを返せといっても、それは国際通念上通らないものは通らないのだ。そんなものはばかにされるだけですよ。ばかにされるようなことをやるような日本の外務省なら、おやめになった方がよかろうというのがわれわれの意思なんです。そういう点について、国際法の立場をはっきり守っていかなければならない。条約局長として、あるいは政務次官でもけっこうです、この点はどのようにお考えになるか、この点だけをまず領土問遜については伺っておきたいと思うのです。
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052・下田武三
○下田政府委員 岡田先生の法律論、私どもその大部分につきましては同感なんでございます。千島・樺太交換条約の効力も、日ソ平和条約でそういう政治的条約の運命を決する条項が入ると思います。現に交渉中の何にもそういう条項がございます。それでそれらの効力は、最終的には日ソ平和条約で規定されることになると思います。それまでの間、それじゃどういう意味を持つかということが私根本問題だと思うわけであります。その意味のいかんによっては仰せの通り日本はもう主張できないのかもしれません。しかし私どもの見解によれば十分主張できると信じておるわけであります。
第一は桑港条約の当事国の問題であります。これはソ連は桑港条約の当事国ではないという点から、桑港条約にいかに規定しておりましても、それが直ちに日ソ間には妥当しないという大前提がございます。それはそれといたしまして、もう一つ大きな点は、桑港条約の今の第二条の(C)の点でございますが、いろいろ桑港条約の主たる起草者たる米国政府その他に聞きまして、クーリールに限ってソ連に引き渡すという言葉を使っております。それが出ましたのはヤルタにおけるチャーチル、ルーズヴェルト、スターリンの三巨頭会談から起ったわけであります。三巨頭が一体ソ連にクーリールを引き渡すという場合において、どういう範囲の島のことであるかを三巨頭が認識しておったのであるかどうかという質問に対しましては、いや、実は三巨頭はそんなことはちっとも知らなかったという話でございます。クーリールに日舞、色丹が含まれるのであるか、あるいはクーリールに南千島が入るのであるかどうか。大体日本語の千島とクーリールという言葉とはちっとも一致するとは感じていないのでございます。偶然訳語にクーリールのことを千島と訳した条約もございますけれども、しかしこれは千島という言葉は、日本人が勝手に昔から使っていた言葉でございまして、クーリールという言葉もロシヤ人その他が勝手に使っておった言葉でありまして、クーリールと千島が一致するという見解は一つもないのであります。そこで一八七五年の条約あるいは五五年の条約を、それでは今日いかなる角度から取り上げるべきかというと、これは日ソ交渉において双方の主張を根拠づけるところの資料としての価値であると思うのであります。そうしますと、三巨頭の間にクーリールの範囲について、実に何も御存じないできめてしまったというのが実情なんであります。ですから、北海道の一部であった国後、歯舞、色丹等もクーリールの一部であると主張することができるかもしれません。しかし、そんなことはちっとも知らないで勝手に行われた。かつて日本の固有の領土であって、一度も外国の支配下になかった国後、択捉、それも取り上げることを主張しておったのかどうか、そんな明確な主張はちっともなかったということであります。そうでありといたしますと、歴史上直接の関係国たる日本とソ連が当事国となっております条約上の定義というものが、最も権威をもって現われてくるわけであります。日ソが直接の両当事国であって、先ほど申されましたように一八五五年条約では日ソ両国の境は択捉と得撫の間にするということになっておるのであります。さらに七五年の条約ではこれは千島・樺太交換条約、ロシヤ皇帝が日本に千島を譲渡するというときに、譲渡するというからには、自分のものであるから譲渡できるわけであります。ロシヤ側ではこの得撫以北の十八島を自分のものであると認めたからこそ、これを日本にやる、しかしそのかわり樺太はおれの方にやる。今日領土問題に直接の関連を持つ日ソ両国の過去の歴史上における条約上のデフィニションがそうであるとすれば、しかもそのデフィニション以外に三巨頭初め何ら明確な考えを持っていなかったとしますならば、この最もオーセンティックな条約上の規定を資料として今日の交渉上に取り上げるということは、私は、これは十分できることであり、またしなければならないことだと信じておるわけであります。
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053・岡田春夫
○岡田委員 今の問題にはその説明それ自体に非常に論理的な矛盾がある。なぜ論理的に矛盾があるかというと……。(「ないさ、ないさ」と呼ぶ者あり)ないかあるか言わなければわからない。
〔発言する者あり〕
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/53
054・前尾繁三郎
○前尾委員長 静粛に願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/54
055・岡田春夫
○岡田委員 なぜあるかというと、あなた自身が言っておられることは、三首脳の話も出ているけれども、もしその三首脳の話が出ているとするならば、その面に関してはポツダム宣言に——今私の言おうとしていることは、この戦争が終結したということはポツダム宣言に基いて政争が終結したのである。だとするならば領土の問題、千島の問題に関してはソ同盟だけと交渉して解決のできる問題ではないはずだ。こういう立場をもし外務省がおとりになるとするならば、ソビエトだけに千島の所属の問題を交渉するのではなくて、ポツダム宣言に参加しておる連合諸国との交渉というものが行われなければならないと思う。だとするならば、サンフランシスコの平和条約のときにこの点についての何らかのそれを取りきめ得る機会があったわけなんですが、その機会を放棄しておいて、今ソビエトに対してのみこれを交渉するということ自体、外務省の立場として論理的な矛盾があると私は思う。こういう点からいっても、あなたの御説明だけでは私は承服ができないのです。この点についてはあとで重光さんが来たときに、もっとゆっくりいたします。
それからもう一つは、先ほど私の伺った点についても、その私の質問に対する論拠としては下田さんは言われたけれども、なぜ議事録にこれを載せなかったかという点については、お忘れになったのかどうか知らないが、私は御答弁がなかったように記憶をいたしておりますが、こういう点について私今ここでいろいろ聞いていると、船田さんの問題がおそくなるので、議事録にあるのかないのか、この一点だけを一つ伺っておきたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/55
056・下田武三
○下田政府委員 その点は実はお答え申し上げるのを忘れたのでございますが、桑港条約の会議の当時、吉田全権は歯舞、色丹にも、国後、択捉にも触れておられます。しかしその吉田全権の主張というものは連合国側にその際取り上げられてはいなかったのであります。ということは拒否されたということではなくて、ポツダム宣言にいうところのちれらの決定なるそのデシジョンができなかったということであります。デシジョンはできなかったが、日本側の主張、言い分は吉田全権が言っておられ、これは桑港会議のオフィシャル・ミニッツにちゃんと記載されております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/56
057・岡田春夫
○岡田委員 それでは吉田全権は、南千島すなわち択捉、国後は返してくれ、こういうことを正式に議事録に載るような形で述べている、こういうように今の御答弁を理解してよろしいのですか。それならば、今後この問題は重大ですから、その資料を提出していただきたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X00419560211/57
058・下田武三
○下田政府委員 その資料はアメリカでも市販にされておりまして入手し得るものでございますから、その部分をタイプいたしまして御提出いたしたいと思います。
第24回国会 衆議院 外務委員会 第50号 昭和31年5月25日
○田中(稔)委員 総理に最後に一言お尋ねいたします。よろしゅうございますか、領土問題です。南千島というところが歴史的に一貫して日本の領土であったという事情は私ども認めるわけであります。だからこれが日本の領土としてとどまることができるならば、日本にとって非常に喜ばしいことだと考えるわけであります。しかしこの南千島を今度の日ソ交渉において日本側が要求する、また要求し得るということはおのずからこれは別個の問題だと思う。このことにつきましては既存の国際協定その他をわれわれは十分に考慮しなければならぬ、そこでポツダム宣言におきましては、日本の領土は本州、四国、九州、北海道そのほか連合国の決定する島々ということになっておる。しかもこのポツダム宣言をわれわれは受諾したのだ。ところでその連合国が決定する島々ということでありますが、その決定は一度はやはりヤルタ協定によって一応行われたわけであります。そのヤルタ協定が秘密の協定であって、日本としては好ましくないという意見はもちろんあり得ることでありますが、当時ルーズヴェルト、チャーチル、スターリンという連合国の最局巨頭が決定されましたことでありますから、これらの諸国に関する限りは、これはもちろん有効なものだと考えなければならぬと思います。こういうごとならばまだ日本の関係しないことでありますけれども、吉田茂氏を首席全権とするサンフランシスコの講和会議において、日本全権団は平和条約第二条において、南千島まで含めた千島全島の放棄をすでに約束している。このことはきわめて重大であります。昨日の会合でも、吉田茂氏が南千島については何か領土権があるように主張することができるように言っておりますが、その放棄の責任があるというならば、吉田茂氏がこれが最高の責任者なのです。その当時自分はこの南千島に限っては保留をしたというようなことを言っておりますが、その保留はアメリカだってイギリスだってどこだって、承認はしていない。そういう既成事実をすでにみずから作っておきながら、みずから放棄しておきながら、その返還が行われぬならば、日ソの国交回復はすべきでないというようなことを吉田氏が言うことは、これはとんでもない考えだと私は思う。全く責任を解しない態度だと思うのであります。そこで重光外相はむしろその意見に同意して、またきのうの元外交官の会議によって大いに勇気づけられて、われわれはあくまで南千島について領土権を主張すると言われる。そうして、また外務委員会あたりでは、主張することとそれが通ることとは別だが、とにかく主張はしなければならぬとおっしゃる。しかしながら、私は心中しましたように、大体今度の交渉にこういうことを持ち出すことが、もうすでに間違いだと思う。もう既存のいろいろな国際協定は累積されておるのです。だからどんなに希望しても、できるかできないかということを大体判断するのは外務大臣の能力だと思う。それがないというなら、私は外務大臣としての能力を疑う。しかもそれが交渉の当初持ち出すなら別でありますが、一たび大体歯舞、色丹、これでよろしいという話が閣内できまりかけていたときに、これを突如として持ち出した。それはまだ私は許すことができるけれども、今日の段階では、河野農相がモスクワにおいてブルガーニン首相といろいろ話をして、そうしていろいろな判断をして、もうだめだということが大体わかっておるのに、これを持ち出すということは、ただ主張するだけ主張するという態度よりも、むしろ日ソの国交回復をじゃまし、これを不成立に終らせようとする底意があっての外交的なゼスチュアだと思うのであります。もしそのことがわからぬならば、重光外相はもう頑迷不霊の徒だと私は言いたい。私はそんな頑迷な人だとは思わない。だから私はあなたの心底に何があるか、非常に疑問だと思う。だから持ち出すことが無理だったが、持ち出しても、今日はもう最後的な決意をし、判断をしなければならない段階だ。それをやらなければ日ソの国交回復はできません。そこで私は、鳩山総理と重光外相との間に重大な意見の食い違いがあるということを認めざるを得ないのであります。これにつきまして、電光外相のお考えと、さらに総理のお考えもあわせてお聞きしたい。
○鳩山国務大臣 私は日本固有の領土の返還を日本人として今日強く主張するということは当然だと思います。しかし、交渉によって日ソの見解の相違がどうかして調整されればいいと希望するのも、これまた当然だと思うのです。それをソ連がどうしても聞かない、日本はどうしても主張すると言って物別れになっているということは、私はよくないことだと思います。どうにかして調整されてもらいたいという希望を今持っておるという以外に、外務大臣はどこに出ても話はできないと思います。外務大臣として、自分は領土権を主張はしない、ソ連が強く主張する以上は自分は主張しないというような発言は、外務大臣自身としてできるはずはないと思うのです。ですからソ連がどうしても聞かないから、日本は本来持つべき領土権を主張はしないのだということを外務大臣として言えば、それは外務大臣の非常な失態となります。外務大臣としては最後まで日本の領土権を主張して、そうしてどうしてもソ連との意見が調整できるようにこいねがうことは、私は外務大臣の義務として当然だと考えております。
○重光国務大臣 私は今鳩山総理からはっきりとお答えがありましたから、もうつけ加えることはございませんが、交渉をする場合に、かような問題についておのおの交渉する国の立場があることは、これは当然でございますが、その交渉の前から、相手国の言うことを全部承認しなければならぬ、その意向をくんでこっちの主張をしない方がよかったのだという議論には、私は何も賛成するわけには参りません。私は日本の正当と信ずる立場は十分に、またあくまで主張することがいいと思う。またそれが私の義務であると考えます。しかしながら日本の国際関係の全局を失ってはなりません。それは常に考えて、最後の場合には十分それを考えて処理しなければならぬということも、今総理大臣の言われたことに私は全く御同感であります。しかし主張することをあらかじめ曲げるようなことは、私にはできません。方針をそのままやります。
○前尾委員長 穗積七郎君。
○穗積委員 鳩山総理大臣が時間がないというので、ただいま委員長との申し合せで、一回だけの質問を許されましたから、折り返して質問ができないのは残念で、あなたも残念だと思うけれども、一同で済むように一つ御答弁を願いたいと思います。
先ほどから私どもの方の松木、田中両委員の質問に対して、党内の一部の諸君の間に、日ソ交渉についてあなたの考えと違った意見を持っておる者があるようであるが、そういうことを顧慮することなしに、自分の考えを実行したい、その段階に来ておるという決意を示されたことに対しては、私は鳩山さんはまだ健在であるということで、敬意を表するとともに、喜びにたえません。しかしあなたは今までいろいろなことをおっしゃいましても、おっしゃることはなかなかいいことを言うのだが、いざとなると決断がつかないのがあなたの玉にきずなんです。どうぞ今度は決断の段階に至りましたから、私は向うと交渉する腹だとかつもりなんかを聞きたくないので、最後のぎりぎりの決断を聞きたいのですから、そのつもりでお答えをいただきたい。今あなたの考え方を促進するについては、残っておる問題は、内容と方法並びに時期の問題でございます。従ってそれに順を追うてお尋ねいたしますから、簡潔に順を追うてお答えをいただきたい。
まず第一に内容につきましては、今田中君からお尋ねがありましたが、領土問題、特に南千島の処理の問題でございます。これについては私は簡単に明確にお尋ねいたしますから、あなたも結論をお答えいただきたいと思うが、それは何かというと、昨年の十一月、あなたの方の自民党というものができたときの臨時緊急の外交政策におきましては、事前に南千島の返還が実現しなければ、いかなる方式においても国交回復をしない、調印はしない、そういうことをひとまずおきめになったわけでございます。ところが交渉をした結果、それは要求はあくまで要求としておるすわけにはいかぬが、早期妥結するためにはこれは実現不可能だという見通しになったわけでございます。これは松本さんが帰ってもそのことを報告しておりますし、それから今度河野さんがブルガーニンと会いましても、相手の態度は終始一貫いたしまして変らない見通しが明確になりました。そこであなたにお尋ねしたいのは、南千島を事前に最終的にこれを取り返さなければ、ソビエトとの間には国交を回復しないという政治的方針をあくまで堅持されるつもりであるかどうか、これをお尋ねしたいのです。このことについては、今申しました通り、その後の情勢の変化もあるし、相手の態度を検討した結果、この要求は下げないけれども、それはそのまま留保するなり、次の交渉に期待をかけて、ソビエトとの間に国交をひとまず回復したいという原則をとるべきだ、そういう方針をとるべきだということを重光外務大臣にお尋ねいたしましたら、先般の当委員会におきましては、重光外務大臣は、それに対しては考慮する余裕があることを声明されました。すなわち、再び国交を回復するこの交渉を始める以上は、そういう根本の問題についても再検討すべきことは当然だと考えますというお答えがあったので、その点については、従来の動きのとれない、事前奪還をしなければ国交回復をしないという原則に対しては、修正的な意見が出たわけでございますが、これに対しては総理は一体どういう考えを持っておられるか。われわれその通りであるべきだと思いますが、このことを一つ確かめておきたい。
第二は、それと関連いたしまして、この内容と関連して、国交回復の方式に関連してくるわけでございますが、本来いえば、ロンドン交渉は南千島問題だけを残しまして、その他のことは松本・マリク全権の努力によってほとんど文書まで確定的に話し合いが妥結しておるわけなのです。従って、南千島の問題に対して、日本の態度が今言ったように事後の交渉にゆだねるという方針が決定いたしますならば、ロンドン交渉の方式、すなわち平和条約方式によって即時妥結ができる段階にきておるのでございます。しかしながらこの問題は一にあなたの方の党内事情にかかってきておる。それに対しては、古きを知って新しきを知らない悲しむべき二部のいわゆる外交長老と称する諸君、これは私をして言わしむるならば、古きことも、新しきことも知らざる人々よりはもっと悪いと思う。古きことのみを知って、新しきことを知らない人の意見が、それでも党内の意見としてある以上は、従ってそれを緩和する、調整するという意味におきましては、南千岳を最終的に放棄するということをきめないままに、いわゆるアデナウァー方式、あるいはその中間をとって、たとえば国連の加盟問題、内政不干渉の問題等を明記いたしました暫定的な方式——最近はそれを松本方式と世間では伝えられておりますが、広く申しまして、そのいずれもアデナウァー方式と言えると私は思うのだが、そういう方式でいくこともまた抜け道として考えられる。ブルガーニンが河野さんに向って、平和条約ということに対して、その方式にこっちは必ずしもこだわらない。ロンドン会議では両方とも平和条約方式を目標にしてや、ろうという話し合いで進んだか、しかし今の段階になったならば、情勢の変化と見合って、アデナウァー方式でもけっこうだということは、これは明確に自民党内部または閣内の空気を察知して、そういう方法もあり得るということを、抜け道を向うから最初に示したものであるということすら考えられるのだが、それに対しては、これはあなたの決断によって決定することですから、あなたのああでもない、こうでもないという御希望ではなくて、決断を伺いたい。あなたはそれに対して、河野が帰って聞いた上でということをおっしゃるかもしれないが、河野さんもその問題については、お開きになるまでもなくほぼ明瞭でございます。従って、相手の態度が問題でございますし、問題は、河野さんの態度ではない、党内の問題ですから、交渉相手のソビエトの態度が明確になり、党内の態度は河野さんが帰らなくてもわかるはずですから、それと見合って一体いずれをお選びになるか、これを第二点としてお伺いしたい。国交回復の方式についてのことでございます。
それからその次は場所でございますが、再びロンドン交渉を再開するという形式をおとりになるつもりであるか、あるいはブルガーニンに河野代表が話したような東京またはモスクワ方式をおとりになるつもりであるか。おそらく東京またはモスクワ方式をおとりになるつもりだと思うが、そういうことになれば、私どもとしては共産国であるソビエトの新たなる実情や、かの国の人々の空気を見るためにも——そういうことも副作用として効果がございますから、御老体はなはだお気の毒だが、あなたが一ぺんモスクワまでお出かけになって、率先して一つ談判されることもけっこうだと思うが、そういうおつもりはないかどうか。これも一つあなたの決断できまることですから、これを伺っておきたい。事のついでに帰りに周恩来と会って国交問題について話をされれば、これは国のためにも、あなたの最後の政治的生命を飾るためにもまことにけっこうなことですから、一つそのくらいの勇気をお出しになったらどんなものですか。これは一つあなたのために激励しておくわけですから、あなたは気持よく自分の御所信を明らかにしてもらいたい。
○前尾委員長 穗積君、簡潔に願います。
○穗積委員 その次に第四として、七月三十一日までが交渉再開の約束日になっておりますが、妥結が問題で、国交回復が効果を発することが、今度の漁業交渉その他一切の効果を発することになっておるわけでございますから、従って、交渉を再開するだけの義務を負っているということで、これをまただらだらと党内の事情によって引き延ばし戦術にひっかかって、領土問題についてああでもないこうでもないというふうなことからだらだら延ばすというようなことでは、国際信義にも反するし、あなたのからだもそれまで長持ちせぬだろうから、早期に妥結するということが必要だが、一体いつまでにやるつもりであるか、大体の見通し、決意を伺っておきたい。日にちを切る必要はありませんが、早くやるつもりなら早くやるつもりだということ——その交渉再開の日ではない、妥結の日です。これはアデナウァー方式でいくにいたしましても、講和条約方式でいくにいたしましても、今の領土問題に対する態度さえきまれば、行った翌日にはもう妥結し得るわけです。ですから、そのことはこちらの決意一つできまることですから、このゴールを伺っておきたい。すなわち、スタートは七月三十一日またはそれ以前でございますが、このゴールに対する心がまえを伺っておきたい。
最後に第五点として、あなたはさっきソビエトのみならず中国をもこれを敵視せずして、平和な国交を回復していきたい、貿易をやりたい、文化交流をやりたいという決意を示されました。そういうことであれば、そういうあなたのお考え方に対して、先般閣議でお取りきめになりました共産圏との間の渡航の制限、これは明らかに旅券法十三条の精神に反するのみならず、今言ったあなたの外交、政治方針とも全く反するものであって、この鎖国政策は物笑いでございます。ですから、これに対してはつまらぬ措置はとらないで、従来以上に両国の人間、文化の交流の道を開くつもりであるとお答えをいただきたいが、そういうふうに理解してよろしいかどうか。あなたのさっき言われた敵視しないで、国交回復、平和交流をしたいということであるならば、この矛盾した閣議の政治的お取りきめというものはお考え直しになるべきだと思うが、それに対してあなたの御決意を最後に伺っておきたいと思います。
以上逐次明確にお答えをいただきたい。
○鳩山国務大臣 穗積さんにお答えをします。
領土問題につきましては、先刻の答弁によって御了承を願いたいと思います。(穗積委員「いや、そうじゃないのですよ。これは事前奪還をしなければ国交回復をしないか、あるいはそれは自後の交渉にまかせても国交を回復するつもりであるか、どっちの方式をとるかということです。」と呼ぶ)それはあなたが第四において時期の問題についてお話がありましたからそのときに申し上げます。第二には方式についての御質問があり、第三には場所についての御質問があり、第四には時期の問題について御質問がありました。これらの点についてはまだ内閣で決定をしておりません。ただいま発表する時期ではないと私は考えます。
第五にソ連や中国を敵視しないというのに、旅行券の制限をする、そういうような事実はございません。制限をするはずはない。(穗積委員「しているのですよ。」と呼ぶ)これは目的は——私は知らないのです。全然知らないのですが、目的が文化の交流とか、あるいは通商貿易を緊密にしたいとかいうようなことの明瞭な場合においては、旅行券を出さないはずはないと思います。ソ連と日本との間におきましても今度の平和条約、松本君が行きました平和条約の中においてもお互いに内政には干渉しない。ソ連は日本に来て共産主義の宣伝はしないというような約定があるのであります。そういうような疑いがある場合に中国から日本に来て、そうして共産主義の宣伝をするというおそれがある場合に外務省が考えるのじゃなかろうか。私はそう推測しているのです。事実知らないのですから、それですから旅行の免状を制限するというような意味をもって無理やりに旅行券の発行の制限はしていないと確信をしております。
○前尾委員長 戸叶里子君。簡潔に願います。
○戸叶委員 時間がないようですから、簡単に伺いたいと思います。まず先ほどから鳩山総理大臣の御意見を伺っておりますと、日ソ交渉については早期妥結という信念には多少の意見が食い違っても変りない、こういうふうな力強い御答弁がございまして、私どもとしてはまことに喜ばしいと思います。ところが自民党内の一部の人たちの中には党議が前からきまっているからとか、あるいは党の基本方針がこうこうであるというようなことを言われる方がございます。しかし党議というものは当然国際情勢の変化に伴って私は変ってこなければならないと思いますが、この点はどうお考えになりますか。もしそうであるとするならば、そのことをもう少し具体的に申し上げてみるならば、鳩山総理大臣の公約を果すためには挙党一致でなくても、この日ソ交渉はやる、こういう信念であろうと思います。すなわちロンドンでの交渉がだらだらに終ってしまいましたけれども、今度はそういうふうなだらだらに終らないで、ある実を結ぶという線で一歩前進の踏み切りをつけられるのだ、鳩山さんの信念がそこにある、こう了解してもよろしいかどうか、この点を伺いたいと思います。
それからその時期というものは、はっきりまだきまっていないからお話になれないというお話でございましたが、大体の見通しとして、この前の選挙のときにも鳩山さんが日ソ国交回復ということをうたわれたのにかんがみましても、参議院選挙を有利に導くような時期に大体妥結をされるおつもりであるかどうか、この点も伺いたいと思います。
それからもう一つはこの委員会におきまして幾たびも領土問題について重光大臣に質問をいたしました。ところが重光外務大臣はなかなか領土問題については慎重審議に考えなければいけないし、そうしてまた十分話し合って、そうして発表をするというふうな御答弁でございました。ところが昨日は北澤委員の質問に対しまして、領土問題についていろいろとこまかく御発表になりました。このことはすなわち慎重審議に考慮して、そうして当然鳩山首相ともお話し合いの上でそういう発表をされたのかどうか。鳩山首相はこの点をお聞きになっていらっしゃるかどうかを伺いたい。
○鳩山国務大臣 忘れないうちにさきに申しますが、領土問題についての交渉について私と外務大臣の話し合いはありませんでした。
それから党議に反してこれをやるかというお話でありましたが、私は党議が私の意見の通りにまとまるものと確信をしております。党人として党議に反する行動はできませんわけですから、党議は日ソの交渉の妥結するのに反対はないものと思っております。
それから参議院選挙に利用するのだという話は、それはちょっと夢想もしておりませんでした。参議院選挙と日ソ交渉と別に何の関係もないと私は思います。あなたも今までの同情者である。私も今までは非常にいいことだと思います。私は誠実は守るつもりであります。絶対誠実であります。
第24回国会 衆議院 外務委員会 第63号 昭和31年8月30日
○菊池委員 まずまっ先にお伺いしたいことは、去る二十七日の本委員会におきまして、わが党の植原長老が発言された中に、西村条約局長の答弁として、南千島は千島列島の中に含んでおるということを局長が言っておる、であるからしてわれわれは南千島を要求することはできないと思うがどうかというようなことを言われたのに対しまして、大臣はそれについては何とも言えぬという不明瞭な怪しい答弁をなさいましたが、大臣にお伺いいたしますか、大臣は当時の西村局長の答弁とそれから鳩山総理大臣がしばしば本会議において、委員会において言明したように南千島は日本の領土である。それから重光外務大臣も同じことを言って、歴史的にも理論的にも南千島は厳然として日本の領土であるということをしばしば言い切っておる。それから自由民主党の党議においても、この線に従って南千島は取らなければならぬと決定しておるのであります。それで、西村条約局長の答弁と総理大臣及び外務大臣の答弁とどちらが正しいと考えておられますか、その点についてはっきりと御答弁を願いたいと思うのであります。
○高碕国務大臣 先般の委員会において植原委員から御質問がありまして、私は西村条約局長がどう言ったということは存じなかったものでありますから、何とも言えない、こういうお答えをしたのでありますが、いろいろこの問題につきまして検討いたしました結果、私の考えといたしますれば、サンフランシスコ講和条約におきまして、日本全権ははっきり、日本の固有の領土は含まれない、こういうことを言っておりますから、私は、日本固有の領土ということが択捉、国後についてはっきりいたしますればこれは含んでいない、こう解釈いたします。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/3
004・菊池義郎
○菊池委員 ダレス長官の発言は日ソ交渉が停頓したあとでもってなされたので、従ってこの警告が果して日本支援の熱意があってなされたものであるかどうかということはちょっと疑う余地があるのでありますが、停頓の前になされたというならば、彼らは非常な熱意を持っておるということを察することができるのです。ところがダレス氏は、これまでも幾たびか日本に対しまして同じような警告を発したということを伝えられておりますが、それは事実でありましょうか、お伺いしたいと思うのです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/4
005・高碕達之助
○高碕国務大臣 ダレスさんの発言についていろいろな憶測が新聞紙上で伝えられますが、これはいずれ重光全権か帰ってからよく検討いたしたいと思いますが、今日の段階においてはっきり申し上げられますことは、ダレス長官の声明は少くとも日本の対ソ交渉に対して日本のためにあと押しをしてやる、この趣旨から出たものであるということは、ただいまの状態でははっきりしております。それが一点と、それからもう一つ現在の階梯におきましては、日本の対ソ交渉に対しては、サンフランシスコの条約を無視したようなそんな大きな利益をソ連に与えることによってこれを妥結するというような考えはいたしておりませんから、従いましてこの問題を取り上げる必要はないと存じております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/5
006・菊池義郎
○菊池委員 私がお尋ねしているのは、今までもそういったような警告が外務省に対してあったかどうか、その点でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/6
007・高碕達之助
○高碕国務大臣 今までダレスさんが個人的に何かお話しになったことはあるかも存じませんが、公文としてそういう話は聞いておりません。ただダレスさんはあのサンフランシスコ条約を作りれた一番の親玉として、日本がほかの国に対して、あの条約以上のいい利益を与えるということになれば、この条約を締結した国は承知しないぞということが二十六条で書いてあるぞ、こういうことを言われたのだと存じております。それはダレスさんの方針でありますから、お漏らしになったことはあるだろうと思いますが、公式にはわれわれは受けていないわけであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/7
008・菊池義郎 (検索語が含まれています。)
○菊池委員 ダレス長官の警告はまことにずさんなものであって、まるで日ソ交渉に水をさすような疎漏な、理論的にも何もなっていないと思うのでありますが、こういう人がアメリカあたりで条約の草案の起草に当ったということを考えると、まことに不思議に考えられるのであります。もしこの二十六条に領土の問題が含められることになりますると、条約の加盟国でありました四十八ヵ国にも同じような領土を与えなければならぬ。これだけでももうすでにこの警告はむちゃであるということがはっきりわかるのでありますが、外務省といたしましては、やはりこの、ダレスの意見を不当なりとして、独自の見解によって今後の日ソ交渉に臨むつもりであるということははっきりしておるのでありますかどうですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/8
009・高碕達之助
○高碕国務大臣 これは御批評になることは自由でございますが、外務省といたしますれば、ダレスさんの声明というものはそうでたらめなものであるというふうなことは解釈いたしておりません。従いまして、あの条約もそうでたらめにそういいかげんにやられたものとは解釈いたしておりません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/9
010・菊池義郎
○菊池委員 それは理論に合わない警告であるといたしましても、アメリカの国務長官であり、しかも条約の起草に当った人の発言であります以上は、日本といたしましてはこれを尊重するということは当然であって、外交というものはしばしば理論を超越しなければならぬ場合がある。でありますから、日本としてもこれを尊重しなければならず、従って今後の交渉に当っては、このダレスの警告に相当拘束されなければならぬということをわれわれは心配するのでありますが、その点外務省としてはどうお考えになっておられましょうか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/10
011・高碕達之助
○高碕国務大臣 私はごく短期間外務大臣を代理させていただいておりますが、私の外交交渉に対する考えを率直に言わしていただきますれば、どうもえてすると、ダレスさんはこう言ったとか、あるいはソ連のシェピーロフはどう言ったとかいうことにつきましては、御本人が言っておることを通訳する人の主観によっていろいろ解釈される、こういうことによって両国の間に誤解が起ることがたくさんあるということを、身をもってしみじみと感じたのであります。まず第一にこの機会に私がお話し申し上げたいと思いますことは、シェピーロフがこの十一日に垂光さんにお会いしたときに、十三日までになるべく回答してもらいたいという希望条件を言ったのであります。それをある新聞は、これは十三日を期限として最後の通牒を出したんだ、こういうふうに翻訳した情報を私は得ております。またこの二十二日に、重光さんが日本に帰りたいから一時交渉を中絶したい、こう申し出たときに、彼はちょうどわれわれも八月一ぱい働いておるから九月には休暇をとりたい、またブルガーニン、フルシチョフも八月に休暇をとってないから九月に休暇をとりたい、九月は休んだ方がいいと思う、こういうふうなことを言ったと思いますが、それが鳩山総理が行くことになったから九月一ぱいやらない、こういうふうな想像をもって翻訳された新聞もあったのであります。今回のダレス言明に対しても、これをいろいろ翻訳する人が、ダレスさんの心にもないことを翻訳されて入ってくることが、ただいまの委員の御質問のように私は感ずるのでありますが、世の中のことというものは、リンゴはまるいが、切りようによってこれは四角にも三角にも料理人の手によってなる。食べる人はこのリンゴは元来はまるいものであるという感じで、世の中のすべてのことを処理していくということが大事だと思います。そのことはごく短期間でありますが、外務大臣代理をいたしまして感じた点でございますから、どうかこの点につきましてはよろしく御了解を願いたいと存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/11
012・菊池義郎
○菊池委員 下田条約局長はアメリカでシーボルド氏に会いまして、ダレス長官のあの警告の真意についてただされた結果、よくこれがわかったということを言っております。ところが朝日新聞の論説はこれを取り上げて、下田条約局長の言うことは、これはどうも不思議であるというようなことをいって、これを非難したような論文が書かれてある。それで下田条約局長はこのダレスの警告を是認し肯定しておるのか、あるいはまた理論上間違っていて、自分たちはそれに従うことができないけれども、とにかく聞き置くにとどめるというような態度であるか、どちらであるか、これをお伺いしたいと思う。もちろん本人でなければわからないかもしれませんが、外務当局といたしましては、全く同じ頭を持っておられるはずでありますから、おわかりになると思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/12
013・高碕達之助
○高碕国務大臣 これは下田条約局長が帰って、本人から聞かなければわかりませんが、大体私どもの考えと同じ考えで進んでおることと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/13
014・菊池義郎
○菊池委員 つまりそれには拘束される必要はないという考え方でございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/14
015・高橋通敏
○高橋説明員 私どもとしましては、第二十六条は前段も後段もやはり三年で満了するのじゃないか、たとい満了しない場合でも、領土問題のごとき特殊な問題には適用がないのじゃないかと考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/15
016・菊池義郎
○菊池委員 米国に日本を支援する意思がありますならば、この際この機会を逸せず、われわれは米国に頼み込んで、国際会議を開いてもらって、そしてこの領土問題を決定してもらうことが外交上の手であると考えるのでありますが、その実現の見通しはどんなものでございましょう。できるかできないか、その点について外務省の見解をお伺いしたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/16
017・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいま菊池委員のおっしゃったような方法で頼み込むことがいいか悪いかということもまた十分検討する必要があると存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/17
018・菊池義郎
○菊池委員 全権団はインドあたりを仲介としてアデナウアーの方式でいったらいいというような意見も漏らしておられるということでりますが、これについて外務省の御意見があったら承わりたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/18
019・高碕達之助
○高碕国務大臣 そういうことも一案でありましょうが、またアデナウアー方式で進むことを直接ソ連と話すことも一案だと存じております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/19
020・菊池義郎
○菊池委員 重光全権は、ロンドンでダレス長官に会ったあとで、モスクワで調印しておけばこういうめんどうは起らなかったと漏らしておられます。日本では強硬論を唱えて行きましたが、向うへ行って急に豹変した。われわれはこれをはなはだ遺憾に思っておるのでありますが、今調印しなければ歯舞、色丹までもとることはできないというような請訓を仰いでおります。そういった態度の急変は一体何が原因となっておるのでありますか、外務省の御見解を承わってみたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/20
021・高碕達之助
○高碕国務大臣 九月三日の午前八時四十五分に重光さんが帰りますから、よく聞いてお答えいたします。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/21
022・菊池義郎
○菊池委員 岸幹事長は、過日外人の記者団に向ってこういうことを言っております。日本領土の解決の根本方針として三つある、一つは南千馬の潜在主権を認めさせる、もう一つはアデナウアー方式によって日ソ国境の画定を延期する、第三は南千島を含む千島列島と南樺太を日本が放棄するとして、この島々の領土権の所属を明記しないでおく、この三つのうちの一つを選びたいと言っておりますが、これは外務省も同じ意見でありますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/22
023・高碕達之助
○高碕国務大臣 いろいろな意見がありますが、相手のあることでありますから、私どもはここではっきり申し上げることはできません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/23
024・菊池義郎
○菊池委員 そうすると、これは岸幹事長が勝手に自分だけの意見を発表しておるのですか。外務省は、こういった意見にはどれにも全然御賛成なさらないのでありますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/24
025・高碕達之助
○高碕国務大臣 これはやはり各自てんでんに自分の所信を述べて、これを一括して国策として打ち出すのが外務省の方針だと存じます。従いまして、岸幹事長の御意見等も十分尊重して傾聴するつもりでございますが、外務省としての意見は発表する機会でございません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/25
026・菊池義郎
○菊池委員 大臣は河野農林大臣にしばしば会っておられて、モスクワにおけるブルガーニンとの会談の内容についてもお聞きになったことであろうと思うのでありますが、ブルガーニンが南千島は日本としても譲りたくない、ソ連としても譲れない、両方とも譲れないのだからこれは一時たな上げにして話を進めようじゃないかというようなことを言ったと言っております。ところが向うの方ではそういうことは全然ない、河町全権はソ連の意見を承認しておると言っております。そうだと思うならば議事録も見せると言っておりますが、こういう点について農林大臣からどういうふうにお聞きになっておるのでありましょうか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/26
027・高碕達之助
○高碕国務大臣 前回の委員会においてお答え申しました通り、河野さんからは、この問題につきましては、漁業問題で交渉に行ったときにブルガーニンに会った、そのときに択捉、国後両島については、ソ連としても放棄することにできないが、日本としても放棄することばできないだろう、こういうことを言った、この事実だけは私は河野さんから詳しく聞いております。それ以後の問題につきましては、交渉をどうするか、あるいはアデナウアー方式にするとかなんとかいうふうなことは、河野氏はそういう権限を持って行っていないわけでありますから、こういう点については自分は触れることは困るといって河野氏は拒絶したはずでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/27
028・菊池義郎
○菊池委員 話をきめることは、河野全権としては権利がないからできないが、話し合うことは自由自在であります。それで向うが南千島を譲ることができないという場合においては、こちらの方としても自分の意見を述べるべきであるが、そのときに河野全権は沈黙を守ってしまった。沈黙を守るということは、向うの意見を承認したというように向うに解釈されても弁明の余地はないわけでありますが、こういう点についてどういうようにお聞きになりましたか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/28
029・高碕達之助
○高碕国務大臣 沈黙したからといって向うの条件を受け入れたわけではなく、自分はその交渉には権限を与えられてないから、これ以上入ることは困ると言っただけの話でありまして、その点を私は詳しく河野さんから聞いておりません。ただいま御報告申し上げました程度しか私は河野氏から聞いておりません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/29
030・菊池義郎
○菊池委員 河野全権が通訳もつけないで単身乗り込んで行ったということについて、世間でもってだいぶ疑惑があります。何らの秘密もなく、堂々と話し合うならば、すべからく通訳をつけて行くべきである、単身乗り込むところに不思議な点があるということでもって、世間で非常に誤解を受けておりますが、通訳をつけないで行ったという点について、河野君からどういうようにお話を聞かれたのでありましょうか承わりたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/30
031・高碕達之助
○高碕国務大臣 そういう点は、私河野氏に話を聞いておりません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/31
032・菊池義郎
○菊池委員 それではこのくらいにして……。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/32
033・松本七郎
○松本(七)委員 議事進行。前回の委員会で、西独の共産党非合法化の問題について御質問したのに、政府はまだそのとき答弁できないというので、次会の冒頭に御答弁願うという約束になっておりますが、もし見解がはっきりきまっておれば、一つ発表していただきたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/33
034・高碕達之助
○高碕国務大臣 前会で御質問がありまして、さっそくこの点は検討いたしました。ただいま政府委員から御回答申し上げます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/34
035・森治樹
○森説明員 西独の共産党非合法化につきましては、かねて西独の政府が一九五一年に連邦憲法裁判所に対して非合法化の違憲性の確認の訴えを提起しておったのであります。その口頭弁論が昨年のたしか七月に終りまして、そうして今年の八月の十七日だったと記憶しておりますが、連邦憲法裁判所によりまして非合法であるという判決が下った次第でございます。以上が概略の経緯でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/35
036・松本七郎
○松本(七)委員 経過報告ではなく政府の見解を聞いておるのです。そんな経過報告を求めているのじゃない。大臣に政府の見解を聞いておる。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/36
037・高碕達之助
○高碕国務大臣 これはこの間の質問がありましたから、その経過についてよく調べたのでありますが、これは全く西独そのもののことでありまして、政府としてはこの見解を述べることはできないわけなんであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/37
038・松本七郎
○松本(七)委員 全然質問の的にはずれている。きょうはそれでよろしい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/38
039・前尾繁三郎
○前尾委員長 岡田春夫君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/39
040・岡田春夫
○岡田委員 大臣に二、三お伺いしたいと思いますが、この前の委員会ときょうの委員会に比べて、その間に非常に大きく変った問題が幾つかあります。その問題は先ほど菊池君も取り上げられましたように、ロンドンにおけるダレス発言の問題について高碕外務大臣代理として、はっきり言われたことは、そういう事実はないという公電が入っているということの御答弁があった。ところがそれから旬日を出ずして、そういう事実はあるということをダレス長官の記者団会見があり、あるいは重光外務大臣もそれを肯定しているような態度が出てきたわけであります。これは大臣の発言としては私はきわめて重大だと考えているのだが、先ほど菊池君の御質問に対する答弁では、あまり責任をお感じにならないで、しゃあしゃあとこの点については触れておられないような気がするのですが、あまり責任をお感じになっておられないのでございますか、いかがでございますか、この点が第一点。
第二の点は、ダレス長官の発言の中で特に重大な点は、ロンドン会議以前においても数回にわたって日本政府に連絡しているということを明らかにしている。ところがこれに対して根本官房長官は、そういうことは全然知らないと答えた。私がきょう根本官房長官の出席を求めたのは、この関係を明らかにしたかったからでございます。しかし根本官房長官が出られないので、これは大臣にお伺いいたしたいと思いますが、大臣はこの前あのような間違った答弁をされた責任の上からいっても、数回の連絡があったかないかをお調べになっているはずだと思うのだが、この点についても日本政府としてどういう関係になっているのか、この経過をまず第一にお伺いいたしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/40
041・高碕達之助
○高碕国務大臣 前回の委員会において私が申し上げたことは、沖繩問題その他についてアメリカはそういう要求をしたことはあるか、領土問題について話があるか、こういうことでありまして、そういうことについては全然ないということは重光全権から参っておる公電があったのでありますからその通り報告したのであります。今日においてもそれはその通りでございます。何も曲げる必要はないと思います。ただこの条約の締結に至ったことにつきましては、この法律的の解釈等につきましては、ダレス長官はよく検討してまた知らす、こういうことを言っているわけでありまして、そのことも事実であります。従いまして今日問題になっております、日本があのサンフランシスコ条約において調印した以上は、そのほかの国に対してより以上の利益を与えた場合には、われわれはこういうふうなことを要求するぞ、こういうことを言われたことはあるいは事実だと存じます。このことは領土問題とは関係ないと私は存じております。従いまして、私の申し上げたことは今日とちっとも変らないわけであります。
それから第二の問題につきましては、これはあらためてそういうふうなことはダレスさんからこうだとか、ああだとかということを一々言ってきたことは私も記憶いたしておりませんが、あのサンフランシスコ条約を作られたダレスさんとしてみれば、日本に対してお前の国がほかの国に対してより以上の利益を与えるような条約を締結するなれば、われわれはまたこれに対して要求する権利があるぞということは、おそらくは何かの機会に話されたことはあるだろうと思いますが、私どもは外務省に対して直接その話があったということは記憶いたしておりません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/41
042・岡田春夫
○岡田委員 大体の要旨はわかりましたけれども、それではダレス長官が数回にわたって連絡をしたという事実はあったということになるのですか、なかったのですか、あったのかもしれないが御存じないということになれば、あなたも大臣であったのですからそういう連絡は聞いていないとするならば、あなただけが御存じないのかもしれない。ダレス長官がうそを言ったのですか、それともどうなんですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/42
043・高碕達之助
○高碕国務大臣 これはダレス長官に聞かぬとわかりませんが……(岡田委員「日本政府が受け取っているのですよ。」と呼ぶ)日本政府はそういうふうな主張をされることは当然だと思っておりますが、あるいはあったかもしれませんが、私は当時外務大臣でないから外務大臣に直接お話があったかどうかということは、私は今お答えできません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/43
044・岡田春夫
○岡田委員 そういう主張があったのは当然だと思うからという意味は、二十六条によって同一の利益を求められるということは当然であるという意味にあなたはお話しになったわけでございますか、その点はいかがですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/44
045・高碕達之助
○高碕国務大臣 日本はサンフランシスコ条約にきめられた条約以上の利益を特殊の国に与えた場合には、二十六条によってこの条約国もこれと同じだけの利益を請求することの権利があるということはちゃんと書いてあるのでございますから、その通りのことだろうと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/45
046・岡田春夫
○岡田委員 それが問題なんですよ。高橋条約局次長もそう言っておる、三年間の期限をつけてそういうことは認められるのであって、三年以降はそういうことはないんだとはっきり言っているじゃありませんか。あなたの場合には三年以降においても、他の国から利益を求められたならばアメリカに対しても同一の利益を与えなければならぬという解釈をあなたはされておられるのですか、その点は重大ですからはっきり御答弁を願いたい。三年以降においても同一の利益をアメリカに与えなければならぬ、そういう意味で、当然であるとあなたはお考えになっている意味でありますか。その点はどうなんですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/46
047・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいままで外務省におきましては、二十六条につきましては問題としたことは一度もないのであります。従いまして、そういう問題は今後検討すべき問題だと存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/47
048・岡田春夫
○岡田委員 そんなことはありません。この間条約局次長が答弁しているじゃありませんか。三年以内の問題——三年というのは二十六条全体にかかると答弁して、あなたもおられたじゃありませんか。そういう答弁をしているのに、あなたはそういうことは知らないし、外務省は問題としたことはないとおっしゃるのだが、言っているじゃありませんか、はっきり言っているのに、あなただけはそういうことはないとおっしゃるのですか、そういう解釈を新聞にも発表しているじゃありませんか。同一の利益を与えない、与えるものであるというのではないんだという解釈の反対をしているじゃありませんか。それじゃ二十六条の解釈を外務大臣代理からはっきりもう一度伺いましょう。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/48
049・高碕達之助
○高碕国務大臣 この二十六条の解釈につきましては、三年経過すれば日本は自由にできるということは言っておるわけでありますが、この問題につきましては、まだアメリカから正式に何ら言うてきたことはないのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/49
050・岡田春夫
○岡田委員 それじゃ日本政府はアメリカから解釈を聞かないと解釈できないのですか。あなた自身の態度はどうなんです。日本政府の態度はどうなんです。日本政府の態度を聞いているのですよ。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/50
051・高碕達之助
○高碕国務大臣 日本政府の態度といたしますれば、これを法律的に解釈して、かくあるべきことが正しいということであれば、これはどこに対しても主張できることだと存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/51
052・岡田春夫
○岡田委員 重光外務大臣ははっきり三年以内であって、三年以降は無効だと言っていますよ、あなたの場合は解釈をまだなさらないのですか。条約局次長も言っていますよ。あなただけなぜそういう答弁をされないのか。アメリカに遠慮されているのですか。ダレスが今そういうことを言っているから慎重にかまえて言っているということは、アメリカからひもがついているということを意味しますよ。あなたはそういう意味で御答弁を避けているのですか。はっきりここでおっしゃったらどうですか。重光外務大臣だって言っている。外務省の官僚だって言っている。それを外務大臣代理は言えないんだということは、どういう理由ですか。はっきり三年間と、三年の期限以内ということを言っているじゃありませんか。それ以降は無効だということをはっきり言っている。それ以外の解釈ができるならどういう解釈ができるのですか。政府は今研究しているのですか。今みんな解釈の回答は出しているんですよ。あなたはなぜ御答弁できないのですか。もう一回御答弁を願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/52
053・高碕達之助
○高碕国務大臣 この問題につきましては、法律の問題でありますから、法律の解釈ということについてよほど検討しなければならぬと思いまして、私自身といたしますれば、短期の外務大臣で法律は知らないということは、岡田委員も御承知の通りだと思います。従って私は今ここで自分の意見を申し上げることはできないのでありますが、少くともはっきり申し上げられることは、私は決してアメリカへ遠慮してどうだとかこうだとか言うのじゃありません。ただ私の法律の知識がないということをここで暴露しただけであります。さよう御了承願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/53
054・岡田春夫
○岡田委員 それじゃあなた自身御存じにならないとしても、今までに委員会で唯一の発言である高橋条約局次長の答弁が、政府の答弁であるとわれわれは解釈して間違いございませんね。あなたがこの委員会において何らかの否定をされない限りにおいて、それは正当なものであると解釈せざるを得ない。しかも重光外務大臣もきのうの新聞記者団会見で、三年以内という期限付であるとはっきり言っているのですから、あなた自身は御存じなくとも、政府の見解はこの見解であると解釈して間違いないと思うのですが、どうなんですか。いいですね。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/54
055・高碕達之助
○高碕国務大臣 間違いないと解釈していただいてけっこうです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/55
056・岡田春夫
○岡田委員 それがわかればけっこうなんです。問題はこの点なんです。日本が日ソ交渉をやる場合に、アメリカからひもをつけられてやれないというような態度を見せるということは、断じてわれわれは許さない。日本の国の外交政策は、日本の国が独立だとあなた方が言っているならば、ほんとうに自主独立の立場で外交政策を進めてもらわなければならない。そこであと二週間か一週間かしてからダレスから何を言ってくるか知れません。何を言ってくるか知れないが、その場合においても、今の三年の解釈に基いて、二十六条の拘束を受けないという考えでソビエトと交渉をされる決意があるのかどうか、 この点をぜひ伺っておきたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/56
057・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいま申し上げました通りに、日本政府の方針として、法律的に解釈してこれが正しいということは、私はだれが何と言おうが、特にアメリカが何と言おうが、それに制肘を受けるべきものでないとはっきり申し上げます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/57
058・岡田春夫
○岡田委員 それじゃもう一点。この点についてあまり時間がなくなりますから伺っておきますが、先ほど、ダレス長官の言っていることは日本を支援しているんだ、こういう意味にお話しになっている。これは新聞にもそう書いてあるが、しかし私は、支援しているにしてはきわめて奇妙な支援の仕方だと思う。どうしてかといえば、南千島の領土問題について、ダレス長官が、南千島の領土は日本に明らかに主権がある、固有の領土であるというようなことをもし言ったんだとするならば、これは明らかに日本を支援している態度だと思う。ところがダレス長官の言ったのはどうですか。ソビエトが南千島をとったならば、それと同一の利益をアメリカがとるであろう。これはどういう支援の仕方だ。あなたの背後から銃剣を突きつけて、ソビエトと決戦をしなければうしろの銃剣がこわいのだぞという、こういう支援の仕方なんですが、これはどういう支援の仕方なんですか。アメリカが日本の国を植民地のような形でこき使おうという、そういう支援の形じゃないですか。そういう支援の仕方でけっこうだとあなたはお考えになっているのですか。これはほんとうの支援じゃないのです。アメリカの言っているのは、領土根性がアメリカにもあるということを言っているのですよ。南千島をとろうというなら、アメリカは沖繩をとろうということを言っているんですよ。火事場どろぼうの根性ですよ。こういう根性に対して、日本政府がほんとうに自主独立の考えがあるならば、いかにアメリカといえども、日本と友好関係にあるアメリカであるならばなおさら、はっきりと日本はそういうような支援では困るという立場を断言すべきじゃないかと思うのです。この点について、この二十六条の問題あるいは第二条の問題に関連して、すなわち日ソ交渉で領土の問題はサンフランシスコ条約に抵触するものではないということを明らかにするような政府の声明を発表するお考えがありますかどうですか。抵触するとあなたがお考えになっているのだとするならば、その理由を一つお答え願いたい。私は抵触しないと思う。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/58
059・高碕達之助
○高碕国務大臣 サンフランシスコ条約において日本が南樺太及び千島を放棄したということは事実であります。それで放棄したが、これに対してソ連との間に特殊の所有権について協定をするということは、これは日本は差し控えなければならぬことだと存じております。これは日本が放棄したものを、さらに自分がこれに対する主張をするということになりますので、その意味におきまして、ソ連との間にある一つの取りきめをすることについては、少くとも連合国との間のある了解を得る必要があるだろうと存じます。またアメリカの支援につきましては、岡田委員は、アメリカは獅子の分け前を取りたいからこう言ったんだと、こういうお考えでありましょうが、私は断じてそうではないと思う。自分の友だちが、困った、どうもあれとの交渉には困るのだ、こう言うと、まあ、しっかりやれよ、そんなこといって譲るようなら、おれだってこれくらいのことはあるぞというぐらいのことは、お互いに話し合うことがよくあります。私はあなたよりも老人ですから、そういうことは苦労しておりますから、そういう意味から、決して悪くとらずにやるのがいいと存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/59
060・岡田春夫
○岡田委員 あなたは老人なだけに非常に危険な人だと思います。あなたは、お前が譲ったらお前のものをおれもとるぞという、そういう友人ですよ。とんでもない老人の友人だと私は思う。あなたの言っているのはそれじゃありませんか。お前があの人にとられるなら、おれもお前のものをとるぞと銃剣を突きつけているんですから、これが友人としての支援ですかというのです。支援などとごまかされてはいけない。日本の国の独立を考えれば、こういうことは断じて許すべきことではないと思う。こういう点についてやはり外務大臣としてははっきりした態度をこの際に、二十六条の法律解釈についてもアメリカ政府と違うのだから、その解釈の違った点を明らかにして、態度を鮮明すべきだと私は思う。こういう点についてはあまり申し上げていくと時間がなくなるから、続いて進めますけれども、いいですか、ともかくあなたのそういうような形ではわれわれはだまされない。国民はだまされませんよ。もしあなたがそういうようなやり方でやるなら、非常に危険な人としてだれも相手にしないでしょう。
そこで私は次に進みますけれども、サンフランシスコ条約と抵触するようなことがソビエトの交渉においてあったら困るんだ、こういうようなお話ですが、サンフランシスコ条約の場合には完全放棄なんでしょう。完全放棄をして、千島をソビエトに渡すということにこの間のモスクワ交渉でなっておるわけですね。これは何も日ソ交渉が初めてじゃないんですよ。台湾の場合どうです。台湾だって、完全放棄をして、日華条約で台湾所属というものがきまっておるじゃありませんか。それ以外に、新南群島あるいは西沙群島はどうですか。新南群島、西沙群島というのは、これは日本の国が発見した固有の領土であるということになっておる。これがどうです。完全放棄をして台湾関係の帰属に納められておるじゃないか。千島はこれと同じじゃありませんか。そうなったらあなたどうなんです。こういう例があるのに、ソビエトの場合だけは、それはサンフランシスコ条約に抵触するというのは理由にならぬじゃないですか。それだったら前の場合にも抵触するじゃありませんか。前が抵触しないなら、今度だって抵触しないのは当りまえじゃありませんか。こういう法律解釈はどうなんですか。
〔発言する者あり〕
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/60
061・前尾繁三郎
○前尾委員長 静粛に願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/61
062・高橋通敏
○高橋説明員 桑港条約との関係でございますが、これはいろいろの解釈、いろいろの見解が成り立つかと思うわけでありますが、ただいままだ考究中であるというふうに申し上げたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/62
063・岡田春夫
○岡田委員 それはどういう意味ですか。研究中ということは抵触しないという意味なんですか。抵触するかどうか研究しているのですか。二十六条は抵触しないというあなたの御解釈がありますね。そうするとどの点で抵触するのですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/63
064・高橋通敏
○高橋説明員 ただいまの問題は、二条のc項の問題とソ連が提案されたと伝えられる領土条項の関係でございます。二十六条の問題ではなくて、二条のc項において一切の権利、権原を放棄したという条項と、ソ連が提案したとしました領土条項との関係でございますが、いろいろ解釈その他の問題がありますので、ただいま考究中であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/64
065・岡田春夫
○岡田委員 研究中とおっしゃるけれども、あなたは前条台湾の問題に関してはそういう点は桑港条約と抵触しないということで明文化されているわけでしょう。だから日華条約ができているわけです。ところが今度の場合はそれと同じような形をとって抵触をするという理由はあるのかないのかということを伺っておるのです。特にこれは台湾の場合にはいわゆる外国から盗取した地域としてこれは幾らか南千島と違うという解釈ができても、新南群島、西沙諸島の場合にはそういう解釈はできないわけです。しかも日華条約の中でそのサンフランシスコの関係が書いてあるわけです。しかもそれに対して財産権の放棄までうたってあるわけです。事実上向うに帰属されている関係ができているわけです。ですからそれが条約上抵触しないとすればこっちだって抵触しないのは当りまえじゃありませんか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/65
066・中川融
○中川説明員 日華平和条約の問題でございますが、御承知のように平和条約は台湾、澎湖島を日本が中華民国に渡したという意味の規定はしていないのでありまして、台湾及び澎湖島についての日本の権原及び新南群島、西沙群島に関する権原を桑港条約の規定の通りに日本は放棄するということをまず大原則として規定しているわけであります。従って領土条項に関しましては、少くとも形式上は桑港条約をそのまま中華民国政府に対しても認めたということになっているわけでございます。もっとも具体的な内容につきましては、たとえば財産権の問題あるいは住民の国籍の問題等につきましては、台湾が中華民国政府の管轄権のもとにあるということを前提とした規定は事実ございます。しかしながら領土に関する限りこれは桑港条約をそのまま認めたという形になっておるわけでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/66
067・岡田春夫
○岡田委員 それは条約技術の問題ですよ。事実問題としてはあなたお認めになったように、台湾に帰属するという意図のもとにおいて作られたのですよ。そういうことであるから、そういう内容を持っているのなら同じだということを言っているのです。これは大臣よく覚えておいて下さい。こういう内容を持っているのですから抵触しないのですよ。
条約問題ばかりやっていると時間の関係がありますから先に進みますが、いいですか、最後にこれは大臣にどうしても伺っておかなければならないことは、この間のあなたの答弁を伺っていると、妥結する気でもあるようであるし、決裂してもやむを得ないというような気でもある。一体妥結するのですか、やる気なんですか、やらない気なんですか、この点まず一つどうしてもあなたに伺っておかなければならない。日本の国民は、鳩山内閣は妥結してくれると考えているのですよ。領土の問題についてはいろいろな国民感情もありましょう。しかし今表面に現われていない国民感情をあなたは無視しているのですか。ことしの十一月には安保理事会で国連加盟の問題が出てくる、この問題をどうするのですか。あるいはソビエトにいる人たちの引き揚げの問題をどうするのですか。決裂さしてあなた方は引き揚げのあの人たちは帰ってこなくてもいいと考えているのですか。あるいは漁業条約の問題をどうするのですか。あるいはこのまま戦争状態が続いて、ソビエトといやな関係を続けていくことがいいのですか。日本は妥結をしなければならない。だから鳩山内閣が公約しているじゃありませんか。これをなぜ万難を排して妥結をするのだというように努力をしないのですか。決裂するかもしれないというようなことで、私はこの国交回復の問題について、少くとも鳩山内閣で野党側からいえば一番信頼のある高碕さんからそういう意見を聞きたくなかった。あなたがなぜ野党から信頼があるか。あなたは誠意があるからです。その誠意を裏切るようなことをしていいのですか。今度の自民党の中を見ていると、自民党の中に、ほんとうに日本の国内の百年の大計を考えて即時妥結をするという勇気を持っている人がいないのです。あなただってそうじゃありませんか。百年の大計を考えるならば、こういう日本の国の問題について万難を排して妥結をするということにまで努力をする決意がないというのは私は残念だと思う。そこで、もしこれが妥結ができなくて決裂になったら、あなた方はこれはソ連が悪いのだなどといってしゃあしゃあとして鳩山内閣に残るつもりですか。決裂した場合には、鳩山内閣のたった一つの公約じゃありませんか、鳩山内閣がやめるという決意があるでしょう。鳩山内閣が命をかけてもやるという決意があるのですか、どうですか。決裂した場合にあなた方は総辞職しますか、どうなんですか。国民をだますつもりですか。公約だといってだますつもりですか。相手が悪いのだといって、あなた方の責任はてんとして恥じないで平気な顔をしてそれをやっていこうというのですか。あなた方は命をかけた問題じゃありませんか。公約を果せられないどういう事情があったのか。公約を果せられなかったならば、決裂したならば、あなた方は総辞職しなければならないという決意を持ってやっておられるのですか、どうなんですか。この点が一点。
第二の点は、ほんとうに国交の回復をやるのならば、ソ連が悪いのだ、悪いのだといってわめき立てるよりも、問題は、引き揚げの問題が解決できるか、国連の問題がどうなる、漁業の問題がどうなる、こういう点に立って、日本国家の百年の大計に立って、小村寿太郎のような気持になって、ここで国交回復をやらなければならないと思うんだ。それをなぜやらないのですか。日本の国民の気持の中には、領土の問題もあるけれども、しかしほんとうに妥結してもらいたいという気持のあることをあなたは忘れないでがんばってもらいたいと思うのです。この点はっきりあなた自身が決意をされて国交回復をやられる決意があるか。そのためにはアメリカ一辺倒の外交政策をとっておったらだめだ。日本の国は自主独立の立場に立って、そうしてあなたが行かれたバンドン会議のようにアジア・アラブの諸国と仲よくして日ソの国交回復をやって、日本もアメリカと対等な立場に立って友好関係を結ぶという関係を作らなくちゃだめだと思う。今の鳩山内閣の政策の行き詰まりというのは、結局アメリカに依存しながら中ソと仲よくしようというようなやり方があるから、これが行き詰まりの原因なんです。外交政策の根本を改めなければならない。ダレスがあのように言っているときには、日本の国は独立しているのたからとはっきり言って、外交政策を改めて、日ソ国交回復をやられる決意があるかどうか。これは国民の一番考えている点ですから、この点だけを伺っておきたいと思います。もうあまり時間が許してもらえないらしいですから、この程度にしておきます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/67
068・高碕達之助
○高碕国務大臣 前委員会においてお答えいたしました通りに、鳩山内閣は組閣以来日ソ交渉を一日も早く妥結したい、この熱意に燃えておるのであります。特に今日これが決裂するといった場合はいろいろの差しさわりもありましょうが、特に鳩山さんが心配しておりますことは、あの千人以上にならんとする引き揚げ問題が解決できないということについては、非常な政治的な責任を感じておるのであります。従いましてこの問題は身命を賭して、もちろん早期妥結をするという考えで進んでおるわけなのでありますけれども、しかしながら国の将来というものは非常に大きな問題でありまして、それがために悔いを千載に残すようなことがあっては困るということも考えなければならぬ、これがためには鳩山内閣が一つつぶれるとか、内閣が一つ二つつぶれるとかいうふうなことを考慮しておってはいけません。いわんや私どもの個人の立場などというものは断じて考えないで、国のために一番いいということについて十分の努力をいたしたいと存ずる次第であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/68
069・前尾繁三郎
○前尾委員長 植原悦二郎君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/69
070・植原悦二郎
○植原委員 私は政府当局に対して四、五の質問を試みたいと思います。
実は、与党に属する議員でありますがゆえに質問を避けたいと思いました。しかし、重要なる問題に当って、国家国民を誤まるようなおそれのある場合には、勇敢にその所見を述べることが国民として忠実なるゆえんとして、この質問を試みることを御承知願いたいのでございます。
私は、今や日ソ国交調整下の問題は、非常にデリケートな段階に逢着していると思います。一歩誤まるならば国家百年の計に禍根を残すのではないかとさえ考えて、非常に憂慮しているのであります。従って質疑も応答もきわめて慎重を要すると思います。私は、現政府の外交の基本的観念は、世界のあらゆる自由国家との親善提携、特に米国との緊密なる提携を保つということで、これがわが国外交の基調であるべきものと信じておるのであります。この私の見解に対して政府が異論があるならば伺っておきます。これが第一の質問であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/70
071・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいまのお説は、私ども同感であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/71
072・植原悦二郎
○植原委員 次に、質問の要旨はほぼ了解しておるから、あえて質問する必要はないと思いますけれども、私は順序を追って書きましたから申し上げておきますが、第二十六条の規定に関する解釈題あります。これは一党一派や一国の便宜のために解釈さるべきものではない。条約の解釈は世界に通ずる、万古に通ずるものでなければならないと信じております。従って、この条約の解釈は、先日条約次長が申されました通り、賠償と通商関係に関係するものであって、これを領土にひっかけようとすることは、この二十六条の曲解であると私は考える。これに対して条約局次長は御異論がないと思いますが、いかかでしようか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/72
073・高橋通敏
○高橋説明員 御所見の通りだと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/73
074・植原悦二郎
○植原委員 ややもすればこの条約の二十六条の解釈が、領土問題にも適用し得るかのごとき諸説が流布されて、これによって日本が千島諸島に関してソ連の領土権を容認すれば、米国はこれに準じて沖繩諸島の領土権を要求するであろうというような宣伝が試みられているように感ずるのでありますが、この宣伝の出所はいずこであるのか。よしこれが米国の一部から起るにせよ、もしくは日本の一部から起るにせよ、これほど両国民の国民的感情、特に日本国民の感情を害するものはないと信じて、私はすこぶる憂慮しているものであります。これに対しても、私はこの場合に政府の所見をただしておく必要があると思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/74
075・高橋通敏
○高橋説明員 その点は、先ほどの大臣からの御説明で、ダレスが沖繩のことに関連してそういうことを述べたことはないということを御回答になったかと思っております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/75
076・植原悦二郎
○植原委員 この問題は、大臣からもはっきりお答えがあってしかるべきだと思う。現在世間に流布されているような宣伝は、これほど日米両国の親善関係を傷つけるものはないと信じております。ただいま申す通り、日本は独立国であります。一つの国交回復の問題を他国と交渉する場合には断固たる信念を持って向わなければならないのであります。それに対して、他国の世論によって左右されるとか、あるいは日本の国民のある一種の一派の宣伝によって左右されるようなことがあったら、これは国家百年の計を誤まるものであります。現在世間に流布されているところの宣伝ほど両国の国民の感情をそこなうものはないと信ずるが、これは大臣も同感であろうと私は思うが、お答え願いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/76
077・高碕達之助
○高碕国務大臣 私は、これは必ずしも宣伝とは思っておりませんが、解釈の相違で、そういうことを言う人はあると思いますけれども、先ほどお答えしました通りに、アメリカの今度の発言は領土問題ということについては触れていないのでありまして、この二十六条ということにつきましていろいろの話がありますが、これは主として日本を擁護せんがための話題ある、こう解釈しております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/77
078・植原悦二郎
○植原委員 宣伝であるか宣伝でないかはものの見方ですから、これ以上私は議論しませんが、昨今国論が乱れているのはいろいろな策動や宣伝によっておることと私は思いまして、これを痛感しておりますからあえてこの発言をなしたことを御了承願いたい。宣伝か宣伝でないかの議論は私ここでいたす気はありません。
次に、千島列島の帰属の問題であります。これは太平洋に国を連ねるすべての国に対して防衛上の非常に重要なる地位を占めるものであり、重要なる関係を持つものでありますがゆえに、太平洋に面する国日本はもちろんのことでありますけれども、米国もカナダもこれに対して深い関係を持つのは当然であります。従って、これらの国が日ソの交渉について深甚なる注意を払われておることはあり得ることで、さようでなければならないと思いますが、千島については実は議論になると思いますけれども、私は、この問題は国会の議事録にリファーしておきます。西村条約局長は、この問題が国会において取り上げられたときに、千島列島の中にはっきり南千島が含まれておることを声明しております。当時吉田総理は非常にあいまいな言葉を使っておりますけれども、それを突っ込まれて、やむを得ず西村条約局長が立ってこの問題をはっきりいたしております。これに対していろいろの意見の立場から御議論なさるは自由でありますけれども、条約の解釈として、その当時の実情として、私は西村条約局長の答弁については一点の疑問を差しはさむべき余地がないと思いますが、これに対して条約局次長のお答えを得たいと思います。西村条約局長の当時の答弁を御存じであるか、御存じでないかお答え願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/78
079・高橋通敏
○高橋説明員 西村条約局長の答弁は、速記録で私も読みまして、十分承知いたしております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/79
080・植原悦二郎
○植原委員 もし西村条約局長の答弁を見たといたしますならば、先日私が申した通り、南千島は国際公法上からいえば無主地であります。主人公のない土地であります。おそらく世界の国際公法学者はこれは無主地であるというこの説を肯定されると思います。それゆえに、ソ連の要求通りこれがソ連に帰属するということに日本が立ったならば、これは非常な問題がありましょう。なぜその問題があるかと申しますれば、サンフランシスコの条約の際に、ソ連は、日本が千島列島の問題を放棄するについては、ソ連のフェーバーにおいてという文字を入れることを主張したけれども、これは全体会議において拒否されて、その一句は削除されております。それゆえにソ連がこれをソ連の領土なりと主張することも私はできない問題だと思います。ここに大きな問題のあることを冷静に考えて、日ソ交渉の問題に強き信念を持って当らなければ、この問題は解決できぬのだ、条約上においても他の意見を聞く要はない、はっきりとした文書がある。それを日本独自の立場において、独自の解釈、独自の信念をもって国家百年の計のために解決するという方針に進むべきであると思います。だからして、この問題は非常時むずかしい問題で、日本が放棄した、しかしソ連のために放棄したものではないといって、この問題を連合国の連合会議を開いて決定したらよかろうでないかというような説がありますが、私は今の世界の列強で、この火の中へ飛び込んでこのクリを拾おうというような愚かな国はないと思います。それゆえに、この問題を列強の会議によって決定せしめようなんということも、少くも国際関係を知っている者からいえば、愚論この上なしと私は申さなければならないと思うのであります。これに対して政府はかなりお困りだろうと思いますから、私はあえてこれに対して答弁を求めようとも思いませんけれども、私のこの議論は、世界に通じて誤まらざるものである、また日本の国家の立場としてかようになければならないと確信いたしておりますがゆえに、あえて与党の議員の一員であるにもかかわらず、このことをこの場合に公けにして、世の批判を求めておく次第であります。
次に、ソ連はヤルタ協定または戦勝国の建前で、諸島の領有を主張しておりますが、日本がこれをたやすく承認することはなかなかむずかしい問題だと思います。この問題につきまして私は政府に希望することは、今まで政府は、この千島列島、南千島の問題とサンフランシスコ条約の意味を徹底的に国民に知らしておりません。これは政府の怠慢であります。これを西村条約局長の言う通り、サンフランシスコ条約において日本は南千島の列島を放棄したのだ、これの所有権の問題を日本はかれこれ言えない立場にあるということです。これをはっきり国民に知らして、これはすでに日本の領土ではないのだ、サンフランシスコの条約を見てこれを正当な解釈をするならば、ここに一点の疑問はないのです。なぜ政府は全国民に向って、この南千島列島のサンフランシスコにおけるところの日本の協定を国民に知らせないのですか。これを知らせないところに国民が惑って、今日の国論が沸騰しておるのもここにあることをよく御了承願いたいと思うのであります。
私は日・ソ交渉に当る者は、日本の国家の運命を賭する重要なる問題でありますがゆえに、私心や野心や、自分の地位のことを考えていくような外交官は、だれであろうともだめだ。御承知でありましょう、小村寿太郎外務大臣はポーツマスに出かけて、日露戦争のあとの跡始末をする条約を結ぼうとするときに、日本はたくさんの金を使ったからソ連から賠償金を取らなければ承知しない、国論は沸騰するがごとくだった。小村外相はそんな世論に少しも惑わされず、自分の信念に向って償金を取らず、そのときの国論からいえば、日本は敗北したのだ、小村ぶち殺してしまえというような意見があったにもかかわらず、小村は泰然として横浜に帰って参りましたが、上陸をすることができなんだ光景を御記憶でありましょう。かような決心をもって日ソの国交回復に当らなければ、右顧左眄するような状態では私はだめだと思う。命をかけて日本の国家百年の計を立てるか立てたいかが、今度の日ソ交渉の責任者であるということを御了承下さって、だれが行くにしても、そういう信念をもって国家のために命を捨てるものでなければならぬということを僕は政府当局に警告しておきたいのであります。
私は重光外務大臣の交渉を見まするに、もっぱら法理論にとらわれておって、一八五五年の安政条約、あるいは一八七五年の南千島、権太交換、それらの条約で実は南千島の所属は日本である。ソ連はヤルタ協定を言うが、ヤルタ協定は日本題認めておらぬものだ。そんなものを引き出してもしようがないといって、法理論にとらわれた交渉でありますが、私は日ソ交渉の正常化については、もっと高い高所から外交政策、政治論をもってこれに当らなければだめだと思います。ソ連は世界の平和を希望するといっている。ことに極東の平和については熱心だという。日本はアメリカと親善関係を保っていかなければならないのでありますが、ソ連は日本の一衣帯水の隣国であります。この国とけんかし合っておって平和を求めても、なかなか容易でないということをまず第一に考えなければならない。そこでこの平和問題を論ずるについては、御承知の通り、ヤルタ協定がどうだとか、あるいは一八七五年の条約がどうだとかいうことよりは、竿頭一歩進めて、どうすれば日ソ両国の国民が融和できるか、国本の国民の感情を害しておってソ連が日本と国交を結んだところが、決して平和にはなりません。また日本も誤まって国民を指導しておって日ソの関係を結ぼうとしたって、これもだめであります。それゆえに、どうしても両国民の国民感情の融和をはかることが、日ソ両国国交回復の先決問題であると思います。残念ながら、重光君はこの問題に対して一言半句触れておりません。のみならず、抑留者をソ連は戦争犯罪者と申します。私どもは日本はソ連に戦争しておりません。日本の立場からいえば、日本人に関する限り、ソ連に戦争犯罪者はないわけであります。これはソ連が抑留者を勝手に使用するためにいっているのである。これはいわばソ連が口に平和を唱えるといいながら、内心また平らかならざるものがあるがゆえに、これを人質にとっているということであることは、どんなことがあっても争われない事実であるから、これをはっきり言うたらよい。この抑留者を帰さないでおいて極東の平和なんどどうして望めるのだ、なぜこういう政治論をなさらなかったのか。のみならず漁業の問題、魚族を保存するについては、これは日本のような海の国では人後に落ちてはなりません。けれども、公海においての漁業権は、これは強く主張してしかるべきだと思います。のみならず、海難船の救助に対しては、人道上申すに及ばずいたさなければならない問題であるが、これらの関係にも考慮いたさなければならない。なおさらソ連は平和を望むといい、日本と国交を回復したいという。にもかかわらず外蒙のようなソ連のほとんど衛星国とも思われるような国を国連に加盟せしめようとして、日本の国連加盟を拒絶しておるがごときは、ソ連の誠意を疑うものである。日ソ両国の国民感情を融和しようとするならば、まずそういう問題をはっきり片づけていこうではないかという立場をとりまして、道の問題を解決し、領土の問題は両方とも議論のあるところでありましょうから、これらは互いに歩み寄ってこの問題を片づけることが、日ソ国交正常化の根本問題であると思います。政府はこれに対して御意見があれば伺いたいし、御意見がなかったら、参考としてよくお聞きおきを願いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/80
081・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいまの御意見は、政府といたしましても十分尊重いたしまして、今後も善処いたしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/81
082・前尾繁三郎
○前尾委員長 田中稔男君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/82
083・田中稔男
○田中(稔)委員 重光外相がモスクワに参りまして、急に態度を変えた。重光豹変ということがいわれております。しかしながら私は決してそうではないと思います。
〔委員長退席、須磨委員長代理着席〕
重光外相は外務委員会その他管公開の席上でもたびたび言われたのでありますが、日本の外務大臣として領土問題で初めからソ連の主張をそのままのむとは言えない。外務大臣としてもちろん正当な要求は堂々としなければならないが、相手あってのことであるから、どうしてもソ連が聞かない場合には、それは考えなければならぬ、こういうお話があったのであります。その重光外相のお気持をそんたくすれば、私はああいうふうな態度に変られることは、一つの必然性を持っておると思う。それだけでなく重光外相がモスクワに御出発に当って、鳩山総理との間に私は十分話をやっておると思うのです。その場合鳩山総理としては、君、一つ必ずこの交渉はまとめてくれ、その他のいろいろな条件については君にまかせるという話くらいはやっておると思う。だから私は重光外相がああいう態度をとられた際に、これを鳩山総理はしっかり支持すべきであったにかかわらず、これをやらなかったということは、総理ははなはだ男らしくないと思いますが、こういうことにつきまして高碕外相代理はどういうふうにお考えになりますか。これは非常に大事な、いわばスタート・ラインのようなものなのです。これを御答弁願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/83
084・高碕達之助
○高碕国務大臣 重光全権がモスクワに参りますときに、総理との間にどの程度の話し合いがあったかということにつきましては、これは機密に属することで、私どもはそれに参画いたしておりません。どういう話があったということも私は存じません。また重光全権がどういうお考えで今日の心境になっておられるかということも、今日は想像いたすだけでありまして、これはもう近いうちに重光全権が帰ってくると思いますから、よく確かめた上において、全権からお答えいたします。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/84
085・田中稔男
○田中(稔)委員 今は一切が重光全権管帰国待ちという情勢であります。それで今はっきりしたことは言えないとおっしゃれば私ども仕方がないのでありますが、しかし私どもがたびたび言っておりますように、今度の日ソの交渉はすでにロンドンにおける交渉においてほとんどすべての問題が論じ尽されて、いわばトランプでありますと、双方カードを全部机の上に並べて相手に見せておる、こういうことだと思うのであります。重光全権が出発の際に、日本政府の最終的態度はきまっておらなければならなかった。ところがああいうことになるときまっていなかった。しかし今日はもうきめなければならない。重光さんが二、三日後にお帰りになるにしましても、それを待っているのでなく、今すでにきめるだけの材料が全部そろっておる。どうかこれから私が質問をいたしますのについては、そういうつもりで御答弁を願いたい。
もう一つ申し上げたい点は、高碕外相代理は代理でありますから、しばらくのことだということでありましょう。しかしながら国の外交は一日といえども休んではいない。重光外相のいない間あなたがかわって外相の地位にあられるということは、私はただ腰かけという気持ではいけないと思う。やはりあなたのおいでになる間に国の外交の大事がきまっていくのです。いやしくも外相を引き受けた以上は、やはりあなたとしての判断と見解を持たなければならぬと思うのです。そういう意味でありますから、あなたの誠意ある態度はこの間から私ども評価しているところでありますから、お逃げになるような態度ではないと思いますが、きょうは一つそういう点において特に御注文しておきたい。
そこで申し上げたい点は、この間の委員会におきまして、穂積委員の質問に答えて、あなたはモスクワにおいてはまだ交渉の余地がある、こういうふうにおっしゃった。実は私どもは交渉の余地がないと思う。イエスかノーかだけだと思う。しかしあなたはそうおっしゃった。それでは一体具体的に領土の問題で、ソ連で従来シェピーロフが述べ、あるいはブルガーニンが述べたところ以上に日本側に有利に譲歩する余地があるとお考えになるか、一つあなたの御見解をお聞きいたしたい。交渉の余地が一般にあるかどうか、特に領土問題についてはシェピーロフ外相、ブルガーニン首相が今まで公けに言ったところよりもっと日本に向って譲歩する、そういう可能性があるかどうか、あなたの御見解を聞きたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/85
086・高碕達之助
○高碕国務大臣 私は重光外務大臣が留守中、外務大臣のあとを引き受げたのでありまして、これはきわめて短期間でありますけれども、外交の事というものは対外的のことでありますから、日本の信用を高める上におきましても、これはその間にとぎれては困る、こういうふうな考えでありまして、田中委員のおっしゃるごとく、私といたしましては、できるだけの勉強をしてこれをやっているわけなのであります。そういう点から考えまして、重光全権から参りました電信そのほかの情勢から見まして、私はまだソ連に対しては政治的の折衝をする余裕が十分ある、こういうふうに考えておるわけであります。しからば具体的にどれどれということの御質問でありますと、はなはだ残念ながら今後重光全権が帰りましたときに、私の所見はよく申し上げるつもりでございますが、この席上におきまして申し上げることは、どうかごかんべん願いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/86
087・田中稔男
○田中(稔)委員 そこでブルガーニン・河野会談の内容でありますが、あなたもこれはお聞きになったと思います。あなたのお聞きになった範囲内のことは、南千島についてはソ連も譲れぬが、日本もあきらめることができないのだ、そういうふうな話だ。それ以上それではどういうふうに措置するかうという具体的な話は出なかった、こいうことです。そこでその場合といえども南千島がはっきりソ連の領土であると確認することはないにしても、日本にこれが戻ってくるという可能性はまずないということですね。これは河野農相も感じておられたと思うのでありますが、そういうふうに解釈してよろしゅうございますかどうか、一つお考えを聞きたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/87
088・高碕達之助
○高碕国務大臣 今私はすぐにこれは日本に返ってくるものでないという断定をすべきものでないだろうと存じます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/88
089・田中稔男
○田中(稔)委員 そこで今度はさらに、先ほどもこれは菊池君の御質問にありましたが、党の幹事長である岸氏が外人記者に対してこの間話をされております。その中で、自由民主党としては領土問題については具体的には三つの方式のいずれかによって解決したいと考えておる。それがいわば交渉の余地ということだろうと思う。その具体的な三つの方式は、第一には沖繩、小笠原同様南千島に日本の潜在主権を認めさせる、これが一つ。第二にはこの南千島を日本は放棄はする、放棄はし、暗黙裏にこれがソ連の領土であるということは認めるにしても、しかしながらはっきりこの択捉、国後と日本領土との間に国境線を画する、こういうことはしない。そこを条約の表現その他でぼかそう、これが第二の方式。第三は一切の領土をたな上げするいわゆるアデナウアー方式、この三つの方式を考えるという、こういうお話であった。この三つの方式はいずれもこれはもう択捉、国後、すなわち南千島が日本に返還されないということを前提とした話ですね。返還はされないけれども、その善後措置としてこの三つの方式を考えている、こういうわけでしょう。これが党の幹事長であります、単なる個人の放言でもないと思う。このことについてはあなたも自由民主党の大幹部であり、現在党では外交のことを内閣にいてやっておられるわけでありますから、そういう意見をいろいろ参酌して外務省は態度をきめますという今のお返事であったが、それは私はやっぱり逃げ口上だと思う。与党の大幹事長がこの三つの方式を言った。だからこれは岸さんが言った、だれが言ったということを別にしまして、この三つの方式のいずれかが実現する一体見込みがあるかどうか、これを一つあなた独自の御判断としてお聞きしたいと思う。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/89
090・高碕達之助
○高碕国務大臣 これは私独自の見解を申しますとあるいは誤解を受けるかと存じますが、しかしながら岸幹事長の申しましたことにおきましてもアデナウアー方式であるということは、これは択捉、国後の主権を捨てたものでない、捨てたもんだということを断定することはできないのであります。そういうような工合に私は今からいろいろなこの領土の問題につきまして断定したる考えを持っているということはすこぶる危険だと思っております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/90
091・田中稔男
○田中(稔)委員 私は捨てたと言ってるのじゃない。実は対日平和条約第二条で捨てておりますけれども、捨てたというのじゃなくして、要するに南千島が今度のこの交渉で日本には返らない、少くとも即時返らない、条約成立と同時には返らないということだけは前提としているわけですね、そうでしょう。だからあなたも今日この国難に逢着した日ソの交渉において、いずれにせよこの南千島が条約成立と同時に日本に返らないということは、これはもう大体お考えになっていると思う、これはどうですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/91
092・高碕達之助
○高碕国務大臣 現在におきましては、私はこの国際情勢が緊迫しておるとき、米ソの関係が大いに緊迫しておるときに、ソ連が一応占領して軍事的の考えを持つときには、なかなかソ連としても、択捉、国後は譲ることはできないことだと想像しております。ただ択捉、国後は日本といたしましては全面積の二・七%になっておるのであります。ところがソ連といたしますれば一万分の五以下なんでありますから、それだけの小さなものについて、ただ領土問題だけで利益を得るためにソ連は主張するものでないだろうと私は考えますことと、これは私の想像でありますけれども、サンフランシスコ条約におきましても、わが全権は日本の固有の領土は譲ることはできないということをはっきり言っておるのであります。またソ連といたしましても大西洋憲章におきまして、戦争の結果によって各国が領土を取ったり分け合ったりするということはやめようじゃないか、これは巍然としてきめられたる事実であります。これからおきまして日本は、戦争によって拡大したる領土は全部出すということは言っておりますが、日本の固有の領土を捨てるということは言っていないわけでありますから、こういうことによってソ連の名誉のために、私は日本の固有の領土をこの戦争によってソ連が取ったということはソ連のためにもとらないことであります。また日本のためにももちろんとらないことと存じております。これは私の偽わらざる所見であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/92
093・田中稔男
○田中(稔)委員 南千島が日本に返ってきたらいいということは、これは国民の気持であります。わが党ももちろんそう考えます。しかしながら今御答弁にもありましたように、択捉、国後をソ連が今日保有しておるということ、自国の領土に編入しているということ、これは単なるソ連の領土欲に基くものである、こういうふうには私は考えない。あなたも考えないとおっしゃった。それでは一体これはどういう理由かということ。太平洋憲章もありましょう。しかもそれにもかかわらずこれをソ連が現在支配しておる。そのためにはもちろん対日平和条約もあります。ヤルタ協定もソ連はこれは一つの主張の根拠にしております。あるいはポツダム宣言もありましょう。しかしとにかくそういういろいろなことを抜きにしても、事実上ソ連がこれを占領しているんですね。それは単なる領土欲でないとすれば他に理由がなければいけない。あなたは一体その理由はどこにあるとお考えになりますか。私の方からも答案を出せば、すでにわが党が多年言っておりますように、これは日本とソ連との関係よりもソ連とアメリカとの関係に問題があるんですね。日本がほとんど全土をあげてアメリカの軍事基地になる、アメリカ一辺到の外交政策、沖繩、小笠原は今アメリカにほとんど取られてしまった形でしょう。こういう日本であってみれば、そうして極東における国際緊張が依然として続いておる現在、ソ連はアメリカの極東軍事政策というようなものに対する顧慮から、これをなかなか渡さぬということが、私は理由の最大なものだと思うのであります。あなたの御所見を聞きたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/93
094・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいまお答えいたしました通りに、私は単純なる領土欲でどうこうということよりも、むしろその点に、つまり現在の国際情勢、これはアメリカとソ連の関係ということでしょうが、現在の国際情勢から考えて、ソ連が一応占領してしまっておったときに、軍事的の価値からいって、かりにこれを、きのう穂積委員の御質問にあったがごとく、またお考えにあったがごとく、あれを日本が取って、すぐにまたそこにアメリカが軍事基地を作るというふうなことになれば、これはソ連としても許すことができない点だと存じます。そういうふうな点が今後の政治的折衝として残された問題だと存ずるわけであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/94
095・田中稔男
○田中(稔)委員 そこで問題はやはりきわめて深刻な問題になるわけであります。日本が安保条約の体制下に置かれているということですね、これは事情が変らぬ以上はなかなかソ連はこの領土は返さないと思うんです。安保条約、日米行政協定がある以上は、やはり日本の領土になった以上は、千島だってどこだってアメリカの軍事基地が設定される。そこでこの方面の外交、アメリカに対する外交上の努力が行われて、そうして日本がほんとうにアメリカに対する軍事的、政治的、経済的従属を脱する、そういう状態が実現しなければ、今度の交渉で、しかも口先だけの交渉で私はなかなかこの領土は返らない、こう考えるのが国民の常識だろうと思うんだな。いわんやいろいろな事情がおわかりになっており、ソ連との折衝でソ連側の腹も一切わかっていらっしゃるあなた外務大臣として、国民も大体常識としてわかることがどうしてわからぬか。わかっていても、しかし外務大臣としてそれは言えないとおっしゃるならそれまでですけれども……。
もう一つ聞きますけれども、つまり南千島は今度の交渉で、日本にこれを返してもらうということだけはちょっとむずかしい。条件があって将来のことは別ですよ。今度の交渉で鳩山内閣の手で今交渉しても、これが日本に戻らないということ、戻らないからソ連の帰属をはっきりさせるということはそれはまた別の問題ですけれども、戻らないということは、あなたにはおわかりになっているのじゃないですか、どうでしょう。まだ戻る可能性はありますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/95
096・高碕達之助
○高碕国務大臣 その点はさらに交渉してみなければわかりませんが、現況におきましては、現在すぐに戻るということは私は考えられないというのが常識だと思います。ただ戻らないといって、これは永久にソ連領であるということをきめるということはこれは別問題であります。だからその問題はたな上げにするということは一つの方法だとは存じております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/96
097・田中稔男
○田中(稔)委員 私はそこが聞きたかったところなんです。つまり領土問題については、どうしても日本政府の主張は通らぬから、いっそのこと全部これを未決の状態にしておいてたな上げしよう。これだと結局はいわゆるアデナウアー方式になりますね。そうして河野農相がブルガーニン首相と会って、そしてその間話があったときに、その話は結局はアデナウアー方式でもやれますぞという向う側の話だったと私は思う。それ以上何も私は何か色よい話があったとは思わないのです。なるほどアデナウアー方式といっても、国交は一応それで回復します。漁業協定の効力は発生します。あるいは帰国の問題、国連加盟の問題というのはこれはある程度解決するでしょう。だからこれは決裂よりもいいですね。しかしながら私どもの考えますことは、先ほど植原委員からお話がありましたように、いやしくもソ連と国交を回復するならば、これはやはり積極的に友好関係を実現しなければならぬ。アデナウアー方式を結んだ西ドイツの今日の国交は、開いたけれどもいわゆる冷たい講和でありまして、不信と疑惑の中にただ国交を結んでいるだけだ。これじゃいかぬ。国交を回復する以上は、やはり完全な友好関係を打ち立てなければならぬ。もちろんわれわれはアメリカとも友好関係を打ち立てなければならぬ。われわれは両陣営に対して、ひとしく友好関係を打ち立てようというのがわが党の主張であり、私の主張でありますが、とにかくそういう私の考えであります。アデナウアー方式では半ば開かれた国交であり、不完全な国交である。それではほんとうに友好関係というのはできないのだな。そういうことになりますと、やはりいろいろな点で日本は損をする。まず領土だって、歯舞、色丹はこれまで放棄しなければならぬ。ところが歯舞、色丹だってやはり確保しておきたい。それだけの実利を収めておきたいというのが、北海道あたりの道民の考えであり、国民の大部分の常識だろうと思う。また千島の帰属にしましても、どう片づくにしても、やはり何かはっきりけじめをつけませんと、北洋漁業関係者が、漁業上の基地をここに設定しようとした場合に、ソ連の領土とはっきりわからぬその地域に対して、ソ連に対して基地の借用を交渉することが論理的にできないわけなんだ。そういうことは実利の問題でありますが、今後日本がやはり今の両陣営に対して友好関係を持ち、そうして平和外交を進めていく。これがつまりあなたがおいでになったバンドン会議のバンドン精神だと思う。そのバンドン会議の精神によって、アジア・アフリカの諸国と広くつき合おう、こういう外交を今後行う場合に、日本がソ連と何か疑心暗鬼でつき合っているような関係では、やはりアジア・アフリカ諸国との国交はうまくいかぬと思うのだな。そういうわけでありますから、私はこの際アデナウアー方式はとるべきではないと思う。しかしあなたはアデナウアー方式も一つの方法だとお考えになりましたから、一つ私の所見を述べて、あなたの御答弁を促しておきたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/97
098・高碕達之助
○高碕国務大臣 このソ連との間の国交関係を回復するために条約を結ぶということの根本の趣旨は、ソ連との間の友好関係を確立するということが目的でありまして、これはその手段にすぎないのであります。従いまして、私は今日アデナウアー方式というものにとらわれる必要はないと思いますが、アデナウアー方式をやった結果、西独とソ連との間は決してうまくいっていないということが事実だとすれば、私は決してアデナウアー方式というものはとらないということでありますけれども、しかしながら、この方式はともかくといたしまして、目的はそこにあることでありますから、できないむずかしい問題、あるいは領土問題等はたな上げしておいても、両国の条約関係をお互いが結んでいくということも一つの案だと存じまして、その条約を結ぶということは、ただいま申しました通りに、両国の親善関係を増進するためであるという根本方針は曲げることはできないと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/98
099・田中稔男
○田中(稔)委員 それでつまり決裂を避けたい。平和条約で国交の回復ができなければ、最後はアデナウアー方式とおっしゃる。その気持はわかる。私はさっき言ったように決裂よりは、これはいいと思う。しかしさっき言ったように、それじゃ不十分であるから、一つ平和条約で何とかしてもらいたい。それには領土問題は、少くとも日本にこれは戻るという公算はないのでありますから……。そうしてそれ以外に岸さんがお考えになった潜在主権方式、あるいは桑港条約方式、あるいはアデナウアー方式、こういうのは向うがのまないのですから、そうとすれば、最悪の場合は重光全権が決意されたような態度で、私はやはり国交を結ふべきではないか、条約を成立さすべきではないかと思うのです。しかも鳩山首相だって、私そんたくするのに、歯舞、色丹だけだって最後はやむを得ない、それだけでも妥結しようというお考えは私はあったと思う。しかし総理の心理をごそんたくしての話で、ここで御答弁を要求しません。
そこで最後に聞きたいのは、今度重光さんがお帰りになりますが、交渉をやめるのじゃないから、だれか行くわけだ。重光全権が再び行くか、あるいは重光全権にかわって鳩山総理が行くか、鳩山総理が行く場合に、それに重光全権が同行するか、あるいは河野農相が同行するか、こういう四つのケースがあると思う。この全権の人選いかんによって私はこれは妥結するか、決裂するか、あるいはまた妥結する場合、平和条約方式でいくか、アデナウアー方式でいくかが大体きまると思うのです。だから全権の人選は大事です。この四つの場合はどういうことになるか、今あなたの外務大臣としてのお考えはどうか聞きたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/99
100・高碕達之助
○高碕国務大臣 この問題は非常に重要な問題だと存じます。従いまして現在日ソ交渉は継続中であります。わが政府、国民を代表して重光全権が現在全権の地位にあります。その全権の意見によって私は決すべきものだと存じております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/100
101・田中稔男
○田中(稔)委員 そこでこの日ソ交渉についてもっと聞きたいのですが、時間がないということで、あと渡航関係のことで三点聞きたい。
七月二十八日の外務委員会において、私の質問に答えて高碕外務大臣代理は、現在外務省にある渡航制限の内規は国際情勢の変化によって変るべきものと思いますから、私もこれを確固不動のものとしてきめることは間違いだと思います。情勢の変化によってはこれは再検討しなければならぬ、こう御答弁になっている。まあ、ついこの間のことでありますから、最近盛んに中国に行こうとしてたくさん旅券の申請が出ているときでありますから、この点について何か御検討の結果があればお尋ねしたい。これが第一点です。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/101
102・高碕達之助
○高碕国務大臣 現在の情勢におきましては、非常な情勢の変化があったものと認めない方針で進んでおります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/102
103・田中稔男
○田中(稔)委員 それじゃはなはだ困るのです。そして何でも一部の地方議員の中国行きは大体お認めになっておるということで、すでに実績はできつつあるようですが、どうか一つたくさんだまっておる中にも、日青協から行くことになっている二十六名、これは与党の川崎君だとか田中君だとかいろいろな人があっせんしまして、日本の各府県の青年団の代表二十六名は中国にやるとちゃんと内諾が与えられておりますから、これはぜひ渡航を許していただきたい。そのほか最近また青年婦人会議から三十何名か参ります。こういう中に実は公務員が若干おりますが、それを含めて一つやっていただきたいということを要望しておきます。
第二の質問は、共産党の野坂、宮本両君が、中国共産党の大会に招かれて、近く向うに行きたいということをかなり前から外務省に言っておるのですが、これに対して外務省の態度はノーということらしい。しかしながらこれは私はおかしいと思います。というのは、日本共産党といえども、これは堂々たる合法政党であります。いわんや野坂君のごときは国会議員の職責を持っておる。そういうふうな人に対して旅券を出さぬというのは一体どういうのか、これは重大な理由がなければならぬ。その理由を一つはっきり示してもらいたい。旅券法には拒否する場合の事由がちゃんと書いてあります。その具体的な内容をはっきり御答弁願いたい。
なおつけ加えておきたい点は、日本社会党といえども社会主義インタナショナルの会合に行きますし、アジア社会党会議の会合にも行きます。各国の社会党に招かれたら行きます。私は党によって扱いを異にしてはいかぬと思う。それからまた中国の共産党といえば、中国における政府与党なんです。この中国といずれは国交の回復をしなければならぬと思うのです。ことにあなたは御熱心です。その中国の政府与党である中国共産党の大会に、合法政党である日本共産党の代表が招かれて行くということを阻止するについては、よほど重大な理由がなければならぬ。その理由を明示していただきたい。理由がなければ一つ出してもらいたい。もちろん出してもらいたいことが私の第一のお願いです。これは憲法上の権利だと私は思う。これについての御答弁をしてもらいたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/103
104・高碕達之助
○高碕国務大臣 私は、中国の渡航につきましては、できるだけ緩和する方針をとっていきたい。この間議員団の方のことにつきましても、これはできるだけ認めたのでありますが、今日問題になっております日本青年協議会につきましても、できるだけ何とか実現できるように努力いたしたいと思っております。
また野坂さんの問題につきましては、これは直接御意見も聞いたのでありまして、私といたしましては、どうか好意的に何とか渡航できるように検討してもらいたいということで、現在事務的に検討中であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/104
105・田中稔男
○田中(稔)委員 今野坂君らのことについては、事務的に検討中ということで、まだ最終的にノーじゃないそうですから、それなら今申しました諸点の理由に基いて、これはぜひ出していただきたい。これは私の党じゃないけれども、広く日本国民の権利を擁護するという立場から望んでおきます。
最後に、現在大牟田に四十七名の朝鮮人の諸君が、帰国を待って待機しております。これはこの間も申し上げましたが、日赤のお世話で、イギリスのバターフィールドの船かなんかで帰ることになっておった。行きましたところが、何か李承晩の方から苦情があって乗船できない。そういうことで困っておりますが、これは早く帰れるように外務省の方でごあっせん願いたい点が一つと、もう一つは、厚生省の保護課長が見えているそうですからお尋ねしますが、彼らが一日たしか五十円の食費でもって、自分のうちに住んでいるのなら、それでも口をのりすることができるだろうけれども、国に帰る旅行の途次、見知らぬところに今待機している。それにわずか五十円の食費で一体生きていけるかどうか。このことは、なるほど生活保護法の規定の建前からいえば、特にこのケースだけ六十円、七十円、八十円にすることはできぬでしょうが、何かもっと、いわば一種の人道上の問題でもあるから、もう少し給与をよくしていただくように、一つお考え願いたいと思います。このことは、帰国の問題、乗船の問題で外務省の御答弁を願い、それから厚生省の方には、彼らの生活上の問題について——実はきょうからハンストを始めるということです。そういう深刻な事態になっております。だからこれについて、一つ人道的な思いやりのある態度で厚生省の御見解をお聞かせ願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/105
106・中川融
○中川説明員 外務省関係についてまず御答弁申し上げますが、国内にある朝鮮人の方が、南鮮に帰られるという方もあり、あるいは北鮮へ帰られるという方もあり、帰りたいという人の間に二種類あるわけでありますが、南鮮の方は、もとよりこれは南鮮の韓国政府が許可すれば自由に帰れるわけでありますけれども、しかし北鮮の方へ帰る分につきましては、これは日本としてはもちろん出国は自由であるという原則に立っているのでありますが、現実の問題といたしまして、韓国側がこれについてはいろいろ反対をしている模様であります。従って便船等の関係が非常にむずかしいのでありまして、現に大牟田に今滞在しております四十七名の方々も、本人方の自由意思に基いて日本から出国するということで大牟田に集まったのでありますが、便船として予定しておりましたイギリスの船が、急に予定を変更して日本に入らないということになったために、その後帰る道がなくて、あそこに泊っているというのが実情でございます。政府が何かこれに援助の手を差し伸べて、そして政府のあっせんによって帰国できるようにしたらいいじゃないかというお話もあるのでありますが、この点につきましては、韓国側とのいろいろな関係から、韓国側としては日本政府が積極的に北鮮の関係について援助するということには、絶対反対という立場をとっているのであります。日本として、もとより韓国の言い分をそのまま聞く必要はないわけでありますが、現実問題といたしましては、日韓関係を何とか打開いたしたい、また釜山に抑留されております七百名からになる日本人の漁夫を、何とか一日も早く帰したいという意味での交渉を今しているところでございますので、韓国側との関係から、日本が積極的にこの帰国について援助するということは、差し控えているわけであります。しかし帰国することは本人方の自由意思で、それぞれの道を見つけて帰国されることは自由というのが政府の立場でございます。なお日赤におきましては人道上の立場から、政府の方針とはまた別に、これに対してできるだけの援助をしたいということで努力しております。この問題につきましては、むしろ国際赤十字の力をかりてやるのが一番早道ではなかろうかということで、日赤では国際赤十字にもその方の援助を求めておるのであります。国際赤十字も原則的にはそれに同意いたしまして、目下日本、韓国及び朝鮮人民共和国との、この三国の赤十字に働きかけまして、何か打ち合せのための会合でもしようという心組みがあるようでございます。われわれとしてはそういう形によって、政治を離れた人道上の問題として、これが赤十字の手で解決されることが一番適当ではないか、かように考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/106
107・尾崎重毅
○尾崎説明員 厚生省関係についてお答え申し上げます。生活保護法は、法の建前からして大体日本国民に適用されることになっております。ただ人道上の問題と申しますか、そういうようなことから、現在相当多数の外国人、特に朝鮮人関係の方が適用になっております。今度の大牟田の場合も、大牟田に集結しまして早々に、生活に因るということで保護を適用している状態でありまして、御指摘の五十円の食費でやっていけるかという点につきましては、実は生活保護法がきめられました基準そのものが、高いか安いかという議論になりまして、その点は私どもも機会あるごとに基準の向上には努めたいというふうに考えております。現行がそうなっております以上、保護法の範囲内でこの五十円の問題を解決するというわけにはいかない。しかしお話のようにできるだけそういう困った方々に対しまして、外国人とはいってもできるだけのお世話をするという趣旨は、まことに私どもも同感でございまして、日赤の方で今まで非常にいろいろお世話をしております。申し落しましたが、五十円の食費で、あるいはまたそのほかの事情でたとえば病気にかかるとかいうような場合には、それにはそれに対する生活保護法上の医療扶助の措置がございますので、私どもとしましては現地の福祉事務所、あるいは福岡県の民生部当局等に連絡をいたしまして、そういう事態が起ればすぐ必要な措置をするようにという連絡はとっておるわけであります。そこで日赤の方でもいろいろ心配をいたしまして、特に八月九日の日でございましたか、診療班を派遣いたしまして、相当詳細にそういう健康状況の視察をしております。その結果は大体入院を要するような患者は今のところない、病気といたしましても大体かぜを引いておる、あるいは水虫にかかっておる、そういう概して在宅で手当をすればなおる程度の病気であるというふうな報告も聞いております。なおそのほか日赤関係としましては石けんやタオル、パンツあるいはシャツ、そういうものを特別に配給をしております。さらにドライミルク一ポンド入り百カンばかりを寄贈してそういう御趣旨に沿った措置をとっておるわけであります。なお今後ともその点は日赤等と連絡をとりまして、御趣旨に沿ってやって参りたいというふうに考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/107
108・須磨彌吉郎
○須磨委員長代理 細迫兼光君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/108
109・細迫兼光
○細迫委員 すでに多くの委員諸君から、いろいろな角度からの質問がありましたけれども、まだ私の気にかかることを一、二質問いたしたいと思います。
さきに田中委員が指摘せられ、高碕さんが同感を表明せられましたように、今日のように日本の外交路線がアメリカ一辺倒的な路線であり、進んでは日本領土に返されたあかつきには、直ちにアメリカの軍事基地になる危険があるという状態のもとにおいては、今日の国際情勢からソ連がどうしても千島を返す気になれないだろう、いろいろな理屈は言っているが、ほんとうの返し得ない理由はそこにあることは、これはもういやしくも外務省に籍を置き、あるいは外務委員会に籍を置く者として、だれしも一点の疑いない判断であると思うのです。この一番のむずかしい問題に何らかの条件をつければ、ソ連の態度も少しは変化を予期し得るではないかということが当然に考えられる。すなわち返してもらったならば、その土地には軍事基地を置かせないのだ、あるいは空も飛行機で飛ばせないのだという行政協定の例外をここに設けることをアメリカとも交渉して、そういう条件になったらば一体どうだということは一本突っ込むべき問題だと私は思うのです。そういうことを表明して交渉したのであるか、そういうことを表明して交渉しても、なお今のソ連の態度が出てきたのであるか、あるいは全く触れてないのであるか、この点の経過を一つ御説明願いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/109
110・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいまの御質問の点は、これは政治折衝としては当然やるべきことだと存じております。しかし重光氏がそういう折衝をしたかどうかということは、まだ公電が入っておりませんから何もかわりませんが、政治折衝でありますからこれは公表しないことだと思っておりますが、これは当然今の御意見等のことは必要な点だと思っております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/110
111・細迫兼光
○細迫委員 千島を返してもらいたいという熱望においては、われわれも人後に落ちるものではありません。でありますから、そういうまだ尽すべきことを尽したかどうかわからない状態において何とか結論をということには、いささかわれわれは未練を感じておるわけでありますから、明確に一つ重光さんがお帰りになりましたらその点をただして、後に御答弁を願いたいと思います。
次にさっき御説明のように、これから再び交渉は開かれるのであります。鳩山さんが行くにしましても、重光さんが行くにしましても、どうにか今度は決着をつけてこなければならない。現在こういう中断の状態になっておりますことは、いわば国論の統一ができていないこと、その内容は領土問題はあくまで主張すべきか、あるいは妥結ということでいくべきか、この点について国民の世論が統一していないだけではなくて、与党の態度が統一していない。これは国民世論のまた一つの反映でありましょうが、一つには楠原さんも指摘なさいましたように、一部のあるいは意識的な偏向した宣伝もないとは限らない。それでありますから、これを何とか決着するには、鳩山さんが行くにしましても、重光さんが行くにしましても、何とか国論を統一していかなくては、あるいは与党の意見を統一していかなくては、また再び同じ轍を踏む危険性があると私は憂えるので、そこにおきまして、政府としてはこの国論統一、ことに与党の意見の統一、これはぜひ日ソ交渉に当ってやらなくてはならない義務だと思います。そこで、果してこれから領土問題はあくまで固執するのだというふうに国民の世論を強めていく方針をとられるか、あるいは妥結ということが何よりも最上位に位すべきものだということでもって、国論統一の処置に出られようとするか、いずれの路線を今後政府としてはとっていかれようとするか、この点を一つはっきりしていただきたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/111
112・高碕達之助
○高碕国務大臣 ただいま全権の意見とそれから与党、閣僚間の意見とが必ずしも一致していないということは、御指摘の通りであります。そういう意見を調整せんがために、交渉中途にして重光全権が今度帰ってくるのでありますから、帰った以上はここではっきりこの方針をきめたいと存じます。しからば、御質問のごとく領土問題を捨てておいても妥結を先にやるのか、あるいは領土問題をどうするかという御質問でございますが、これは重光全権が帰った上において、よくきめた上において御答弁申し上げたいと存じております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/112
113・細迫兼光
○細迫委員 相手のあることでありますから、そういう御答弁もやむを得ないということも私わからないではありません。でありますが、世論を統一していかねばだめだということは確かなことでありますから、ぜひこのことはやっていかなくちゃ、鳩山さんがやっても、重光さんが二度やってもだめでありますから、よくよく御勘考願いたいと思うのであります。
時間もありませんから、国際情勢を一問。韓国問題でございます。事実に属することですから、アジア局長あたりの御答弁でよろしゅうございます。
現在韓国との間の事柄は、あのままどうも投げやりになっておるようであります。御承知のように韓国からは、堂々と公使館を設けてやってきております。しかるにわが国からは、公使や領事はおろかなこと、公務員一人行っていないのじゃないか。これは御答弁を待つまでもなく、私が答弁すれば、行っていない。こんな屈辱的なことはないと思うのです。しかもそうしておいて漁民を抑留し、あるいはまたああいう不合理な李承晩ラインというものを引いて、漁業のわが権益を乱すといった状態であります。もっと私は、きぜんたる、とまで言わぬでも、平等を要求する、互恵を要求する、こういう態度くらいは韓国に対してとられなくちゃならぬと思うのです。今の状態では、李承晩氏に対しましては全くはれものにさわるがごとく、北鮮に帰国する者に対する妨害ですら、人道問題ですが、それに対してもほとんど一言の抗議もようしないという卑屈な態度ではだめだと思うのです。すなわち平等な権利状況、具体的には公務員、外交官を受け入れせしめるくらいなことを直ちに要求していって、平等状態をまずその形においてでもとるというようなことに出るべきお考えがあるかどうか、この点を一つお伺いしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/113
114・高碕達之助
○高碕国務大臣 日韓問題の解決は、両国だけの関係でなくて、日本が東南アジアそのほかの諸国と友好親善関係を結ぶ上においては、どうしてもまず最も手近な日韓の間の国交を一日も早く調整したいということは、政府が特に念願としておる点でございます。従いまして、今後手近な方面からまずもって解決して、逐次なるべく早い機会において全面の交渉に入りたいということに努力いたしておる次第でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/114
115・細迫兼光
○細迫委員 現在の状態では、さき言いましたように、非常に屈辱的な不平等な状態であると思います。そういうところから、ただ感情的にいけば、日本としてはもっともっときつく反発的態度にも出るべきであると主張したいような気持が率直にはいたします。でありまするが、一方韓国との経済関係が非常に重大であるならば、これまた少しは遠慮すると国民に説明する理由にも相なると思うのですが、一体韓国との間の経済関係、輸出入関係というものはどれくらいの状態にありますか。密輸出入はだいぶあるようでありますが、経済関係はどれくらいの重大性を持っておるのか、一応御説明が願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/115
116・中川融
○中川説明員 元来日韓間は経済的に非常に重大な関係にあると思うのでございます。これは戦後の実績に徴しましても、日本から韓国に対します貿易といたしましては、四、五千万ドルのものが輸出されたのでありますが、いかんせん韓国から日本が買うものが非常に少く、約十分の一の四、五百万ドルが実績でございまして、一対十という関係でありますので、韓国側はその日韓間の貿易につきまして、どうも日本側がいろいろ細工をしているのではないかというふうに疑ったこともあるのでございます。日本としてもできるだけ多く輸入したいということで努めたのでありますが、そのうちに政治的な問題がからんで参りまして、韓国側としては日本からの輸入はぜひ少くする、これは韓国における日本色を払拭するというような思想から、日本からの輸入を押えましたために、現在では輸出入とも約四、五百万ドルというところでおさまっておる、きわめて小さなものになっておるのであります。しかしこれはやはり政治上の関係からこういうことになっておるのでありまして、本質的には日韓間には相当の量の貿易が行われ得るものであるというふうに考えておるのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/116
117・細迫兼光
○細迫委員 聞けば、経済関係もきわめて稀薄なように判断せられます。実際韓国問題につきましては、私山口県でございますが、知事を初めとして非常に心配しております。ぜひともこれはもっと早く熱意を込めて日韓関係を調整していくことに御努力が願いたい。その態度の根本としては、今のようにはれものにさわるような態度ではだめだと思う。どうか決意を新たにして促進していただくことを要望して終ります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/117
118・岡田春夫
○岡田委員 根本官房長官が御出席になりましたので、官房長官に伺いたいと思いますが、大へんおそくなったので簡単に伺います。あなたに来ていただくという理由は、実はこの委員会で再三にわたって鳩山総理、もし鳩山総理が出席せられないという場合には、河野農林大臣に御出席を願いたいという要求をいたして参りました。しかし遺憾ながら今日まで御出席がないわけでありますので、きょうは内閣を代表する立場に立って、根本官房長官から一つ御意見を伺いたい、こういう意味できょう御出席願ったわけでありますから、その立場とその責任の上において一つ御答弁を願いたいと思うのであります。
そのことは、あらためて申し上げるまでもなく、日ソ交渉の問題ですが、最近の日ソ交渉は、重光全権があのように努力したにもかかわらず、今日のような状態になっておる。しかも数日来のダレス長官との会見で事態はますます紛糾した事態になっておる。こういう事態に立って、鳩山内閣は果して日ソの国交回復の公約を実行し得る自信があるのかどうか、こういう点について国民の懸念は非常に強くなっておる。こういう点で問題になっておるのは、何といいましても、これはもうあなたも御承知のように、日ソ交渉の経過の問題じゃなくて、むしろ問題は国内問題にある。自民党の内部にこのような対立、混乱があり、こういう問題が原因となっていまだに妥結ができないということであるならば、政府自身としては、与党である自民党の中をまとめて、ほんとうに日ソの国交回復を妥結に持っていく決意があるかどうか、こういう点についてはっきりした内閣としての責任ある答弁をまず伺いたい。そうして、もし妥結ができないとするならば——というようなことを高碕大臣代理はこの前の委員会でもって答弁されておられるが、そういうことはわれわれとしては、自民党があのように公約しておる限りにおいては、聞くわけにはいかない。妥結ができないというような場合においては、ソビエトに難くせをつけて、ソビエトが悪いんだ、おれたちは悪くないというような顔をして、平然として内閣に居すわっていくというようなことでは、国民は断じて許さないのであるが、こういう点は一体どのような決意を持ってやろうとしておるのか、この点からまず伺って参りたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/118
119・根本龍太郎
○根本説明員 政府といたしましては、終戦十一年の今日、ソ連との間において正常なる国交が結ばれないということは、世界平和のためにも日本の存立の安定の意味からしてもこれは好ましくない。そういう意味におきまして、日ソの間の正常なる国交を回復いたしたい、こういう念願には変りはないのでございます。しかし外交交渉でありまするがゆえに、日本の主張とソ連の主張とが歩み寄りをいたしまして、そこに妥結をするということが外交交渉でございます。早期妥結と申しましても、日本の主張を一切捨てて、ソ連の言うことを無条件に受け入れるということの立場はとり得ないということは、これはあなた方も同感だろうと思うのでございます。従いまして、今日まで日本の主張を十分に説明し、また国民もこの主張を支持しておるということは一般の情勢だと思うのでございます。現在の段階はそういう状況でございまして、政府としてはどこまでも日本の主張をも入れつつソ連との間に妥結をすることは、依然として変りなく念願しておる次第でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/119
120・岡田春夫
○岡田委員 もうすでに領土の問題の交渉を始めてから約二十カ月近い期間がたっている。しかもその間において最も慎重論といわれた重光外務大臣が行ってさえこのような状態である。こういう状態になってくると、領土の問題だけを中心にしてあくまでもがんばるといっても、これは相手のあることですから、そういう相手に対して納得のできる場合とできない場合がある。そういうことになってくると国交の回復はできないということも出てくるわけです。しかも日ソの国交回復の重要性は、あなたのお話の通りに、これは世界の平和のために、日本が国際的な一員として、ほんとうに一本立ちをしていくために最も重要な問題です。しかも国連加盟の問題もある、引き場げの問題もある、漁業の問題もある。これらの問題をあわせて考える場合において、領土の問題が必ずしも十分な目的を達せられない場合においても、国交の回復を即時行うということが、日本の国家百年の大計の道であるとわれわれは考えるのだが、こういう考えまで幅を持ってそういう交渉をされるという決意があるのかどうか。こういう点についてはまだまだ日本の希望を交渉してみてということを言っても、これは話の通らないときと通るときとあるのであるから、やはり見通しを立てた御意見を伺っておかなければならない。それだけの幅を持って交渉をされるのかどうか、この点が第一点。
第二の点は、そういう交渉をやるとするならば、当然これは鳩山総理大臣がソビエトを訪問して、これによって問題を解決するというようなことが、最近新聞に再三出ているわけであります。この鳩山総理がモスクワを訪問して解決をするというところまで踏み切ってでもやられる努力を現在やっておられるのかどうか、この点も重光外務大臣が帰って参りましてからよく相談いたしましてというようなそういうなまはんかな態度で今重光待ちをやっているのかどうか。内閣としては鳩山総理をやっても解決をするというところまで準備を進めているのか、この二つの点を御答弁願いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/120
121・根本龍太郎
○根本説明員 御指摘のように現在の日ソ交渉の問題は、主として領土問題の意見の全面的対立がその難点になっておることは事実でございます。しかもこの問題は日本国民の世論といたしましても、領土問題をソ連の言う通りにのむべきだという世論ではないとわれわれは考えております。政府もそう考えておるわけでございます。社会党その他の御意見においても、今ソ連の領土問題に対する一方的主張を全面的にのめという御議論でもないようでございます。従いまして、集約的に申すならば、この領土問題は非常に重大な問題でありますがゆえに、今直ちにソ連の提示したあの案だけでのむというわけにはいかないという態度をとるということは当然のことではないかと考えておる次第でございます。
なおこの日ソ交渉の問題を解決するために、鳩山総理がみずから出馬してその任に当りたいという意思表示は先般出されたようでございます。しかしこの問題については、ただ行ってできなければ決裂するというような簡単なことでもございますまい。従いまして、向うの方においても九月一ぱいは首脳者が休暇をとるというような関係もあり、しばらくこの問題は両方とも国内の情勢をも考えて、さらに若干の時間を置いて継続するということにおいては同意しておるようでございますから、その間において国家の重要な問題でございますから、慎重な考慮をしてさらに継続の態勢をとるということが、政府として当然のことではないかと考えておる次第でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/121
122・岡田春夫
○岡田委員 ちょっと不明確ですが、鳩山総理をおやりになる、鳩山総理を出してその交渉に当るという考えはあるのかないのか、それはそういう点も含めて考えておるのか、どういうことを考えておるのか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/122
123・根本龍太郎
○根本説明員 総理が自分がこの難局に当ってよろしいという意見は述べられております。しかしこの問題についてはまだ閣議において具体的に決定いたしておりません。先ほど申しましたように、現在の段階におきましてはソ連側においても若干の期間を置いてさらに継続するという意図もありますので、その間十分に検討の上に最後的に決定すべき問題だと考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/123
124・岡田春夫
○岡田委員 それではそういうことがきまるのはいつごろですか、たとえばあなたの今の御答弁によると、九月中はソビエトの方も休みだからというのは、これは重光外務大臣がロンドンで言った話、ところが高碕外務大臣代理は九月中でも交渉し得るという発言をしておられる。こういう点になる、その時期のおくれるというのはソビエトの責任ではない、日本の態勢がまとまらないからそういうことになっておる。日本の態勢を一体いつまでにまとめるのか。特に自民党の内部がまとまらないからこの体たらくになっておる。自民党内部の態勢をどのようにまとめるか。しかも鳩山総理を出して、そこでまとめるという見通しなり時期を持ってやっておられるのか。重光外務大臣が帰ってこられてから鳩山総理をやっていいかどうしようかというようなまるで他力本願な、そういう形でもって政府の態度をきめようとしておるのか。公約でありますから、もっと責任を持って国民に対して実行するという決意をあなたは明らかにされなければならないと思う。閣議できまってないということは私は知っております。しかし鳩山総理が行きたいという限りにおいて、総理大臣が言っておるのですから、あなた方がどのように言われようとも、総理大臣の方針に従って行動するのが現在の内閣制度の一つの建前でなければならないと思うのだが、そういう点においても、鳩山総理をやっても日ソ交渉を妥結に導くという決意があるのかどうなのか、その点を国民が聞きたいわけであります。こういう点をもっとはっきりと率直にお話をいただきたい。ソビエトにいわゆる中断の責任があるのではない。日本に責任があるのだという点で、はっきりお話を願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/124
125・根本龍太郎
○根本説明員 政府与党の意見の調整をいつまでやるかということの御質問でございますが、これは重光全権が帰られましてから、十分にその重光全権の意見をも徴し、でき得るだけすみやかに政府与党としての態度を決定いたしたい、こう思っておるのでありますが、いつという期日を今明確に申し上げることは困難だと思います。
それから総理が決意したらそれでいいじゃないかというような御意見でもありますが、しかしこれはただいま申しましたように、言外にあなたの方では、とにかく領土問題はもう仕方がないからのめというような意図のようでありますが、政府はその態度をとっていないのであります。御承知のように政府与党といたしましては、日本の固有の頭上についてはどこまでもこれは主張いたしたい。しかもその理由としては、重光全権がソ連代表と交渉の際に明確に示したように、大西洋憲章その他いろいろなことにおいて言っておるのであります。従いまして、今直ちに政府が領土問題についてソ連側の言うことをそのままにのむという決意はいたしていない、こう申し上げるほかはございません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/125
126・岡田春夫
○岡田委員 時間があまりありませんから進めますけれども、あなたのお見えになる前に南千島の所属問題については与党の植原さんからもはっきりいろいろ意見があったわけであります。われわれも今さら言わなくてもはっきりわかっていると思うから言わないのだけれども、これは日本がサンフランシスコ条約その他において、南千島も含めて放棄しているということについては、国会の答弁の速記録の上においても明らかになっておる。こういう点を事実を無視して今固執しているということは、日ソ交渉を妥結するのじゃなくて、日ソ交渉をぶちこわすための魂胆でやっているとしかわれわれには考えられない。しかもそういうことに対して、ダレス長官があと押しをしたりするというようなことで、問題はむしろアメリカが日ソ交渉を妨害しているというような国民の感情か生まれつつあるわけです。こういう意味においても日ソ交渉を早く妥結しなければならない。日ソ交渉を早く妥結するということは、日本がほんとうに独立をして世界の平和のためにやっていくということのためにも重要であるわけです。しかもここでぜひ申し上げなければならないのは、国民感情がなかなか承知しないであろうと、こう言われた。それがですよ、国民感情を作ったのは一体だれですか。これは政府自身じゃありませんか。さっき申し上げたように、吉田内閣の当時において、いわゆるサンフランシスコ条約が締結されたころにおいては、南千島は残念だけれども、これは千島列島の一つとして放棄したのであるということを言っておりながら、今になってから南千島は日本の領土であるというようなことを言い始めておる。しかもこういう事実があるのです。これはあなたはあとでお調べになって、ぜひあとのときに御答弁願いたいと思うのです。こういう事実がある。去年の八月の二日に、私はこの新聞で今調べたのでありますが、八月二日、八月の九日には、ロンドンでマリクと松本全権の日ソ交渉の会談が行われた。この会談の内容はあまり詳細に新聞に発表されておらない。ところがこのときに、実は八月の二日にマリク全権は歯舞、色丹は場合によっては譲ってもよろしいという旨のことを言っておる。八月九日の正式会談においては、その点が相当はっきりした形で言われている。ところがどうですか。八月の十三日に、朝日新聞で申し上げましょう、重光外務大臣は記者団会見を行なって、こう言っておる。歯舞、色丹諸島などの領土の問題について、これらの地域をソ連が占領している状態を変えまいという態度については変っておらない、こう言っておる、これはどうですか。ソビエト側は歯舞、色丹を譲るということを言っておるのに、日本の国内には政府はこれを発表しないで隠しておいて、そうして重光外務大臣がわざわざ歯舞、色丹についてはまだ返すということは言っておらないということを十三日に発表しているじゃありませんか。八月の十三日ですよ。そうしてソビエト側の提案というものをごまかしておいて、八月の二十日になって何と言っておる。八月の二十日になってから日本政府の態度は一歩譲って、歯舞、色丹と南千島だけはどうしても守らなければならない、北千島と南樺太はそのかわり放棄してもよろしいという。こういういわゆる陰謀をやっているじゃありませんか。ソビエトが譲ると言っておる点を隠しておいて、歯舞、色丹を返せ返せと八月十三日に言っているじゃありませんか。こういうインチキをやっておる。国家統制です。国民の世論をこういう形で誤まった方向に向けつつあるじやありませんか。こういう事実を政府がやりながら国民感情が承知しませんというのは、あなた自身たちの責任なんです。それ以外にどうです、今度の場合にだって大体外交交渉の発表というものはコミュニケ以外は大体発表しないことになっておる。これは慣例だ、こういう慣例にもかかわらずどうですか、モスクワの交渉において、コミュニケ以外において重光外務大臣の演説要旨は全部発表しているじゃありませんか。ところがシェピーロフ外務大臣の演説要旨を日本政府が発表したことがあるか。国民感情をこういう形であなた方が作っているじゃありませんか。こういうことをして国民感情を作らしておいて、そうして国民が承知しないからこれはまとめないんだというのは、あなた方が無責任で、国民に責任を転嫁しているのじゃありませんか。こういう事実は幾つでもある。ダレス長官の記者団会見においても、あなたは連絡はなかったと言っておる。しかしダレス長官は数回にわたって連絡したと言っておる。先ほど高碕外務大臣代理は連絡があったかどうかははっきり知らないけれども、個人的に話があったかもしれないという、あなたっ自身の連絡がなかったというそのうそを暴露されているじゃありませんか。こういううそで国民をだましつつある。日ソ交渉をこういう形でぶちこわそうとしておるアメリカの言うなりに動いておる。アメリカはうしろからひもをつけて国民を引っぱっておる。そうして国民感情は納得しないから日ソ交渉は妥結しなくてもやむを得ないといって、公約を裏切ろうとしておる。こういう事実に対してあなた方は国民感情は納得しないからよりも、さっきから再三私は言っているのだが、国交の回復をするというのは領土の問題ではなくて引き揚げの問題もある。この冬の引き揚げの問題を考えてごらんなさい。漁業の問題もある。十一月の安保理事会における国連加盟の問題もある。その他貿易通商の問題もあるではないか。こういう意味で日本のほんとうの将来を考えるなら、政府は断固として、自民党の中で旧吉田派が反対するなら切ってでもやりなさい。それが国民が期待している道なんだ。それをあなたは断固としてやる決意があるかどうか、この点を最後に伺っておきたいと思います。この国民感情を捏造させた政府の言論統制、この事実に対しましてもお調べの上でぜひとも適当な機会に御答弁を願いたいと思います。コミュニケの問題につきましてもお調べの上で御答弁を願ってけっこうであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/126
127・根本龍太郎
○根本説明員 まず第一に、日本が固有の領土を放棄しないという立場は、これはあなたも御承知のように、サンフランシスコにおける調印の際、日本の全権が明確にこれは宣明しておる次第であります。(「そんなことを言っていない」と呼び、その他発言する者あり)従いましてその点には変りはないのであります。
それからもう一つ、国民世論を政府が作って、そうして今国民世論の名において責任転嫁しておる、こういうような御議論でありました。(「締約国が認めておりますか、南千島を」と呼ぶ者あり)国民世論ということは現在民主的な今日において政府が自分の都合のよいように世論を指導しようとすることは不可能です。そのように思う通りにすることはできません。国民はいろいろな政府の意見あるいは政府の政策を自由に判断し、国民みずからの主権者としての国民の判断において意見立てるわけでありますから、政府は政府の考えておることを国民に知らしめるということはこれまた政府として当然でございます。従いましてこれは意見の相違でございますから、私はここで政府が陰謀をやったとかなんとかということは全然ないということだけを明らかにしておきたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/127
128・岡田春夫
○岡田委員 あなたは今非常に重大なことを言われております。が、陰謀云々という事実よりも、私は日付を明らかにしているんだから、これは客観的に事実であるかどうかを見ればはっきりわかるでしょう。あなたはこういう点をお調べにならないとおっしゃるのですか。私は事実に基いて調べておる。松本全権が帰ってきてから言っておることと、その当時の新聞記事とを対照して見ればわかるのです。こういう事実をあなたはお調べになるおつもりはないのですか。それを調べてみただけでも、あなた自身が国民をだます気持はないにしても、客観的にだますという結果になっている事実だってないということは、あなたは否定できないでしょう。こういう事実について、あなたお調べ下さい。それからサンフランシスコ条約において固有の領土としてはっきりしているというが、あなた、それじゃ、そこでサンフランシスコのときの吉田総理の発言のあれをお持ちですか。読んでごらんなさい。そんなこと書いてありますか。どこに書いてある。はっきり読んでごらんなさい。そんなことはないんですよ。ないから、当事の西村条約局長が日本に帰ってきて、当時の農民党という党の高倉定助君——これは北海道の人だ。この人の、南千島は千島列島に入っていないと解釈すべきではないかという質問に対して、西村条約局長は、南千島は千島列島の中に入っていると解釈すべきですと答弁しているのです。しかも、クーリール島というのは南千島を除いた島だけで、いわゆる北千島、中千島を言うのではないかと高倉君が重ねて質問した。これに対して西村条約局長は、クーリール島というのは千島全列島をいうんだ、南が入るんだと言っていた。そのときに吉田総理がふちにおったんだ。私は傍聴していた。吉田総理はそのときに何にも、一言も言っていない。違うとは言っていない。しかも吉田総理は何と言ったか。詳細のことにつきましては西村条約局長に発言をさせまして、これによって御了解を願いたいと言っているじゃないか。吉田総理は否定をしていないじゃありませんか。否定をしていない人が、サンフランシスコ条約において反対したなどということは、どこに客観的な証拠がありますか。あるならあると言ってごらんなさい。具体的に出してごらんなさい。言葉のやりとりだけで言っているのでは話にならぬですよ。はっきり客観的にも、国際的にもこれは筋である、道理である、こういう点がはっきりしているんだという点ならば、私も勇敢にそれをやりましょう。あなただって勇敢にやるべきだ。しかし国際的に筋が通ってないことを日本にやれといったってやれないじゃないかということを言っているんだ。筋の通るようなお話ができるならここでなすってごらんなさい。先ほどの固有の領土云々、サンフランシスコにおいて云々ということについて、あなたがそこにそういうものをお持ちならば、はっきりとお読み下さい。それから、八月二日、九日、十三日、二十日の関係については、あなたはお調べになる考えがあるかどうか、この点についてもはっきりお答えを願いたい。コミュニケ以外に重光外務大臣の演説だけは発表して、シェピーロフ外務大臣の演説は発表しないということは、これは国民感情をこういう形で指導しようとした、いわゆる新手の言論の国家統制です。こういう手を使いつつあるということと、あなた自身は、どういう事情によって重光外務大臣の演説だけを発表したか。コミュニケ以外を発表するというのは、これは日ソ交渉の過程において、ソビエトに対しての不信行為であります。こういう不信行為をなぜやらしたかということについても、あなたはお調べになる考えがあるのかどうか、こういう点についてもはっきり御答弁下さい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/128
129・根本龍太郎
○根本説明員 私が先ほど申したのは、サンフランシスコ会議において日本全権は、日本固有の領土を放棄せずと言明したという、それだけのことを私は言ったのであります。それから、今のコミュニケの問題でございますが、これは重光全権から、日ソ交渉の経過についてはコミュニケに双方の主張を全部発表しようと提案したのであります。しかるに先方は拒否して、かつ、各自が勝手に自己の主張を発表しようとするのは差しつかえないという了解のもとにやっているのでありまして、全然これはあなたの解釈とは違っているのでございます。決して陰謀をやったのではございません。
それから新聞の点は、これは当時において重光外務大臣がどういう情報に基いてやったかについては、私当事者でないからわかりませんから、調べることは調べてもいいのでありますが、この問題に関してどういう意味において、マリク・松本会談の話し合いと外務大臣の発表との間にそういうふうな相違があったかについては、これは当事者がその経緯を説明することが最も適切であると私は考えます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/129
130・岡田春夫
○岡田委員 私はだから政府の代表者としてあなたに聞いているんじゃないですか。最初にあなたにお断わりしたでしょう。私は鳩山総理が来たら鳩山総理に聞くつもりだったのですよ。鳩山総理が来ないからあなたに聞いているので、これについてお調べになって発表して下さいというのなら、あなた発表していただきたいと思うのです。なぜ発表できないのですか。そういう事実関係を発表する——日にちは何日にあって、どれがどうであったというのは、何も重光外務大臣に聞かなくたって、外務省の方を調べればすぐおわかりになるじゃないですか。私は外務省に聞いたんじゃないのです。新聞記事を前のとあとのとをずっと合せていけばこういう結果になるのですよ。新聞というのは、われわれはそのときだけを記憶しているが、系統的に調べてみるとそういうボロが出てくることがあるんですよ。政府はそのときだけをごまかしたつもりでも、そういうものは印刷に残っているから、調べてみればわかる。お調べになったらどうです。こういうことを調べるのは簡単じゃありませんか。ロンドン会議の第一回目に何があって、その次に何があって、その次には重光外務大臣の記者団会見があって、その次には二十日に何があったというようなことを調べるのは簡単じゃありませんか。あなたが内閣官房長官としてこういうことをお調べになる——重光さんにやらせるというのは、あなた自身そういう権限がないとおっしやるのか、あるいは能力がないとおっしゃるのですか、どういう意味なのですか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/130
131・根本龍太郎
○根本説明員 これは私が先ほど申したように、重光全権が、ロンドン会議のいろいろな報告に接して、どういうふうに判断してこれを処理し、またそれについて意見を述べたか、これは私が今そんたくするわけにも参りません。事実は、あなたが調べて事実ならそれでいいでしょう。それを重光大臣が何ゆえにそういうふうにしたかということが問題です。それに関連して政府が謀略をやったとかなんとかいうことでありますから、その点は重光大臣に聞くことが正しいことで、今その点について、その当時相談を受けていない私が言うことは正確でない、こういう意味であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/131
132・岡田春夫
○岡田委員 それじゃ、私がこれを調べているならそれでいいでしょうとおっしゃるならば、これは正確なものであるということをあなたが確認されるという意味ですね。あなた自身はお調べにならないで、私が言っているのはいいでしょうというなら、これは正確であるとあなた確認される意味でしょう。あなたお調べになるつもりはないんですから、いいのですね。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/132
133・根本龍太郎
○根本説明員 それは違うわけです。調べはいたしましょう。調べても、あなたはその調べることを問題にしているのではなく、それは事実であるから、こういう事実に基いて政府が国民世論を、一方的に引き曲げるために陰謀をやったというから、私はその点については、その当時の責任者でないからわからない。ただし事実を調べることは、調べてけっこうです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/133
134・須磨彌吉郎
○須磨委員長代理 岡田君に申し上げます。簡単に願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/134
135・岡田春夫
○岡田委員 だからそれが陰謀であるとかなんとかいうことは、あなた方の判断もあるでしょう。私たちは客観的にこういう判断をすることもあるんだから、こういう事実をお調べになるという点は、私わかりました。問題は、しかしお調べになっても、これが事実であったとかどうとかいうことを委員会か何かの機会において発表されないと、あなただけはわかっておったって、国民はわからないわけだ。私はこれは事実だと思って調べている。これが事実だといって、たとえば新聞に出たとする。あなた方もこれを調べて発表しなかったならば、私の言っているのが事実であるか事実でないかというのは、国民はわからないわけでしょう。だからそれを委員会を通じて御発表下さいと私は言っている。それが客観的に陰謀であるとかどうとかいうことは、その事実であるかどうかを見てから国民が判断し、われわれが判断するんだから、その事実をお調べになるのはぜひ一つお願いしたい。それと同時に、委員会を通じて御発表願いたいということを私は申し上げているのですから、その点は一つはき違えのないようにして、御発表下さるようにお願いをしておきます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/135
136・根本龍太郎
○根本説明員 これは外務省でいつどういう報告に接し、どういうふうこれを受理し、そうしてこれに対する処置をしたかということでございますから、これは政府に対する要求でありますけれども、これの事実を調べることは外務省でやることが本来の職務でございます。従ってこれは外務省において、この事実について、しかるべき時期に外務大臣から報告することが正しいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102403968X06319560830/136
137・穗積七郎
○穗積委員 根本官房長官が見えて非常に重大な発言が多いので、私も内容にわたってお尋ねしたいのですが、きょうは時間がありませんから割愛いたします。そしてただ一点だけ要望して長官の御答弁をいただきたい。
それは重光外務大臣が帰られて早々の時期に臨時国会を開くという問題です。実はこの日ソ交渉は単なる外交問題の中のワン・オブ・ゼムのささたる問題ではございません。国民全体に重大な影響を持つとともに、内閣にとってもこれは生死を決定するほどの重大な責任のある問題でございます。そしてそれを先ほどからのお話によりますと、国民の感情または世論云々ということを決定のかぎに置いておられる傾きも——それが全部ではないが、決定のかぎの一つをそこに求めておられるようですから、従って先般からわれわれが、もうすでに参議院選挙が済んだ向後から臨時国会を開いて、その他の問題もあるけれども、この日ソ交渉の交渉中に国会を通じて国論を統一してかかるべきだ、そうでないと失うところ多くして得るところがないということを指摘して参りましたが、果せるかなその杞憂が実際になって参ったのです。国論の統一、その統一も錯覚や錯誤で無知によって築き上げられたる感情論が非常に多いのですから、そのことを基礎にして内閣が責任のある決定をしようとしても、それ自身にひっかかってしまって、自殺的に自縄自縛というか、そういうようなことで実は抜きさしならぬような格好になっている。ですから、今からでもおそくはないわけですから、どうぞ重光さんが帰られたならば直後、政府並びに党内のこの報告なり相談が済まれるならば数日にして国会を開くことができるとわれわれは常識的に考えますから、ぜひともこれを開いていただきたい。そうすれば根本官房長官は、国会の審議をわれわれは妨害するものではない、それは外務委員会なりその他の所管の適当な委員会で審議してもらったらいいじゃないかということをおっしゃるかもしれませんが、実はこの問題は、われわれの言いがかりではなく、客観的に見てあなたの腹の中でもおわかりでしょうが、もうこれは外務大臣ひとりの問題ではなくなってきています。内閣の責任者、党の責任者としての鳩山総理の決断の問題になってきている。鳩山総理の判断と決断に一にかかってきているわけでありますから、そういう意味からいたしますと、休会中の委員会では、これは国会を代表する審議にはならぬし、またあなたの方の解釈では、休会中の委員会には総理は出ななくともよろしいということを固持して、今までこの重要なる問題を審議する委員会に総理は出てこられない。河野農林大臣、この人は農林大臣ですが、日ソ交渉については重大なる焦点に立っている人です。十一日の閣議における発言等から見ましても、シェピーロフ案をのむかのまぬかということに重大な影響を持つのは、河町農林大臣とブルガーニンとの会談の内容だということが伝えられておる。その人すら出てこないというような状態ですから、これでは国会がその審議権の責任を果して十分この問題を審議することもできなければ、それを通じて国論の結束、統一をすることもできません。そういう意味で私の党からすでに与党または内閣に対して臨時国会召集の手続を正式に踏んだ上で要求いたしておるのですけれども、われわれは専門の委員会の良心と責任から判断いたしましても、これを臨事国会に移して本会議または内閣全体の総動員のもとにこれを審議して、世論の帰趨もきめていかなければならぬ、こういうふうに思いますから、われわれは外務委員会の野党の理事の立場において——これは与党の理事の諸君も委員長もおそらく賛成だろうと思うが、そういう立場において重ねて強く要望いたしまして長官のお考えを伺っておきたい。
1956年(昭和31)10月19日 日ソ共同宣言
1956年(昭和31)10月19日に署名され、12月12日批准書が交換されて発効