1955年(昭和30年)3月30日~1955年(昭和30年)12月10日【四島返還論】

鳩山一郎内閣は、衆議院議員・日本民主党総裁の鳩山一郎が第52代内閣総理大臣に任命され、1954年(昭和29年)12月10日から1956年(昭和31年)12月23日まで続いた日本の内閣である。

鳩山内閣 - Wikipedia

第22回国会 参議院 予算委員会 第4号 昭和30年3月30日

○曾祢益君

私は先日本会議で外交問題についで緊急質問いたしましたが、なお十分なる御答弁を得ておらない若干の点についてさらに総理並びに外務大臣から御答弁を願いたいと存ずるのであります。

第一は、私がせんだっても本会議で申し上げましたように、鳩山内閣はほんとうに自主独立な見地から中ソ関係を、国交調整をやる熱意はきわめて乏しいと見られ、選挙目当ての宣伝ではなかったかという疑いが濃厚になりつつあるのでありまするが、まずソ連関係につきましてお伺いしたいのは、総理大臣はヤルタ協定をどういうふうにお考えになっておるか。

ヤルタ協定に基くいわゆる南樺太、千島のソ連帰属の問題は一体日本の内閣責任者としてわが国を拘束するものとお考えかいなかをはっきりと御答弁願いたいのであります。

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○国務大臣(鳩山一郎君)

ヤルタ協定の当事者でないことは明らかであります。拘束せられないと思います。

 

○曾祢益君

私もヤルタ協定にわが国が拘束されることはないと思いまするが、ソ連との平和関係を回復するに当りまして、どうしても領土問題についての日本の基本的な見解が明らかにされなければならないと思いますので、しからば逆にサンフランシスコ平和条約によりますると、御承知のようにこの条約と同一もしくは実質的に同一の条約を結ぼうと、あのサンフランシスコ条約に調印しなかった国から、連合国側から申し出ざれた場合には、日本としてはこれに応ずる準備がなければならない、かような二十六条の規定がございます。

詳細なことは別といたしまして、一体この規定は領土問題にどういう影響を及ぼすものであるか、かりにソ連から、このサンフランシスコ条約においては御承知のように第二条において南樺太、千島の領土権を日本は放棄しておりまするが、その点だけを四月の二十八日までにそういったような内容の条約で日本と国交をしたいといってきたならば、それは一体サンフランシスコ条約と同一の、あるいは実質的に同一の申し出であるから、日本は領土権をソ連に対しても放棄しなければならないというふうにお考えかどうか、この点を基本問題でありますから総理大臣、さらには外務大臣からそれぞれ御答弁を願いたいのであります。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

条約によって解釈していくより仕方がないと思います。

 

○国務大臣(重光葵君)

二十六条には「同一の又は実質的に同一の条件で二国間」——他の国との平和条約を結ぶ場合においては、それは日本はそれに応ずる用意があるということと解釈していいと思います。御質問が少しわからないのですが、要点だけをいま一つ言って下さい。

 

○曾祢益君

総理からも、そういう形式的な条約の問題であるから条約に従って、というようなことでなくて、非常に重要な問題でありますからはっきり伺いたいのであります。

ソ連とあなたは国交調整を早くやろうというお考えであると国民は承知しております。

またそればいいと思うのでありますが、その場合に領土問題があります。

サンフランシスコ条約によれば、この領土——南樺太、千島は日本から放棄した形になっております。

ソ連と話が進んだとして四月二十八日までにソ連がサンフランシスコ条約と同じものに賛成するとは常識上考えられません。

かりに話がついてその話の内容に、千島、樺太だけはサンフランシスコ条約と同様なものを要求された場合は、これは日本としては仕方がない、用意がなければならないから断念しなければいけないとお考えなのか、それとも領土のところだけサンフランシスコ条約を持って来てもそれは二十六条に言う必ずしも「同一の条約」とは認められない、そういう条件ならば必ずしも四月二十八日までに日本が同意しなくてもいいのかどうかこういう点を伺っているわけであります。

 

○国務大臣(重光葵君)

私は後者だろうと思います。

 

○曾祢益君

後者とはどういうことですか。はっきりおっしゃって下さい。

 

○国務大臣(重光葵君)

つまりソ連は四月二十八日までにサンフランシスコ条約に加入の権利があると見ております。加入の権利がある。

加入しないで自分の都合のいいところだけを抜き出して行くという場合においては、これは別個の条約になりますから、その別個の条約は別個の交渉においてこれを処理すべきものだとこう考えております。

 

○曾祢益君

総理大臣は同様にお考えですか。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

さようです。

 

○曾祢益君

そういたしますと、われわれが望んでも、また内閣が望んでも、四月二十八日までに領土問題を含めた日ソ間の話し合いがつくとは常識上考えられませんが、その場合に仮にできたとしても、日本とソ連との間に話しができたとして、ソ連がどうしても南樺太、千島を要求するという場合には必らずしも日本としては、そこだけを、サンフランシスコ条約と似たようなものならば、これに応じなければならない義務はない。

別の内容の条約として新たにサンフランシスコ条約二十六条に拘束されないで交渉ができる、かように考えてよろしうございますか。

 

○国務大臣(重光葵君)

今御説明した通りであります。すなわちそれに拘束されてはおらん。サンフランシスコ条約は、そういう場合には、ソ連に対して日本は拘束されておらんという建前をとっております。

 

○曾祢益君

鳩山総理に伺いますが、総理のこの領土問題に関する質問に対するお答えは非常に不明確であって、最近の衆議院、参議院における御答弁はきわめてその点あいまいでございます。

そこで私は伺いたいのは、総理が一月二十五日ドムニツキーなる人物に会われたときに、向うから何か希望はないかと言われたときに、領土問題がある。

その領問題は歯舞、色丹、それからある新聞では千島までは書いてあるが、南樺太に言及されておりませんが、一体ドムニツキー氏との二十五日の会談においてその通りであったかどうか。

この重要なる会談の領土問題についての点は、その通りであるか。もしそうであるとするならば、何ゆえに南樺太を除外された発言をされたのか、その点を伺いたい。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

ドムニツキー氏が訪問して来ましたときには、国交調整をやりたいという希望だけでありまして、国交調整をやるということについては領土問題、あるいは未帰還の問題、あるいは北洋漁業の問題等がありますが、それは承知してもらっておかなくては困るとだけ言いました。

歯舞、色丹ということは申しましたが、南樺太あるいは千島列島については法律問題があるので僕にはよくわかっておりませんでしたから、歯舞、色丹だけのことを申したのであります。

 

○曾祢益君

この私の手元にある朝日新聞によりますると、私は千島、歯舞色丹などの領土の返還、ソ連に抑留されておる、日本人の帰還などを希望する。

こう言われたように書いてありまするが、ある新聞は千島のことは抜けておりまするが、只今の総理の御答弁のように歯舞、色丹だけで、南樺太は勿論のこと、千島についても言及されなかったという方が正しいかどうかをもう一ぺん御答弁願いたい。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

私は領土問題について問題があるということを示しただけに記憶しております。

そのときに千島を言ったか言わないか、あるいは南樺太は全然除いたかどうかについてはよく記憶をいたしておりません。

領土問題並びに漁業問題、あるいは未帰還の問題等について我々は主張があるけれども、それは承知の上で国交調整をやってもらいたいということを言ったのであります。

 

○曾祢益君

これは総理の御答弁は少し私はどうかと思います。

あえて言うならば無責任、御記憶は調べていただいて正式にはつきりと御答弁願いたいのです。

領土問題がある、それは当り前のことですが、その領土問題があると言われたときに歯舞、色丹だけを言われるということと、歯舞、色丹と千島まで言われるということと、歯舞、色丹、南樺太、千島と言われることでは、これは交渉上きわめて重要な違いだと思う。

それをどう言われたかわからない。

歯舞、色丹まで言ったか千島まで言ったか、あるいは全部言わないで領土問題があるということだけを向うの注意を喚起したということとは、これは非常に重要な、交渉において重要な決定的重要な要素です。

でありますから只今の御答弁ですらあるいは歯舞、色丹だけに言及されたのか、それともほかの地域に言及したかも覚えておらない、そういう御答弁ではわれわれとしては納得できません。

はっきりと記憶を呼び起していただいて、あとでも結構でありまするから、領土問題とはこういう問題だということをどうドムニツキーに言われたか、新聞に発表されたことを伺っておるので、私は交渉の非常にデリケートなことを明るみへ出せと言っているのではございませんから……。

総理みずからがこれは選挙にプラスになるからかどうか知りませんが、ここまではっきりしゃべっておられることだから、明らかにしていただきたいということを申し上げておるのです。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

記憶を呼び起しましたならばお話しをいたします。

 

○曾祢益君

その点に対する総理の御答弁を要求いたしておきます。

先般の本会議における質問でも伺ったのでありまするが、総理は国交調整の条約ができる場合には、少くともその条約の基本条約においては、あるいは平和条約と申しますか、領土問題だけはその条約において徹底的に解決することが必要とお考えであるかどうか。

それとも平和条約ができますね、そのときにはいろいろな懸案もございましょう、戦犯の問題、抑留者の引揚げの問題、漁業問題、通商問題、いわゆる懸案もいろいろあろうけれども、いやしくも日本とソ連との間に平和を回復する条約ができた場合には、他の懸案はしばらくおき、少くとも領土問題だけははっきりと条約の中に出てこなければならない重要な問題だとお考えかどうか、この点。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

お答えいたします。私はその必要はあると考えております。

 

○曾祢益君

もう一つ伺いますが、総理大臣はソ連との国交調整に当り、ソ連が南樺太や千島を日本にただいま返還するような覚悟というか、態勢というか、こういうふうに楽観的にお考えであるかどうか、この点をお伺いいたします。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

南千島と樺太についてですか。

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○曾祢益君

南樺太と千島、歯舞、色丹はもちろんです。さらに南樺太、千島まで返還する用意ありとみておられるかどうか。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

私は歯舞、色丹についてはソ連は承諾するであろうと考えておりますが、千島、南樺太についてはそこまで考えておりません。

 

○曾祢益君

あなたがお思いになったんですか、ソ連がですか。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

ソ連が返してくれるというふうにただいまの状態では考えていない。

 

○曾祢益君

簡単に返すとはお考えになっておらん。

この問題について最終的な点を伺いますが、それらの条約上のいろいろな問題及び予想されるソ連の態度はわかりましたが、一体このソ連との国交調整をやらなければならないことは、われわれも賛成であるし、内閣も熱意をもってやろうとするならば、日本側からどこまで主張するのか、基本的な考えをはっきりとお示し願いたい。

相手もあるのでございましょうが、日本国民の前に歯舞、色丹にとどめるというお考えなのか。

やはり千島も、さらには南樺太も日本は要求する、そしてそのことは決してサンフランシスコ条約に必らずしもそのまま当てはまらなければならないけれども、それを主張してソ連と交渉することがほんとうであるという決意をお持ちであるかどうかということを伺いたい。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

交渉するに際しては、すべて日本の要求すべきものは全部請求すべきものと考えております。

 

○曾祢益君

その要求すべきものには歯舞、色丹のみならず、千島、南樺太を含むと解釈してよろしいかどうか。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

外務大臣から答弁していただきます。法律問題があって、よく私にはわかりません。

 

○曾祢益君

ちょっと待って下さい。

総理にはなはだぶっしつけなようですが、これはこまかい問題じゃなく、基本的な腹の問題でありまするから、できるできないとか、どういうふうに持っていくかということは、これはまた法律論からどうかということについては、これは外務大臣からお答え願うのが順序だろうと思います。

総理大臣は世論の波に乗って、また世論がそれを支持しているわけですから、それで日ソ国交調整をやろう、同時にいかなる内閣といえども、日本に南樺太、千島を永久にソ連に渡すようなことを世論は支持しないと、私は考えております。

しからば総理大臣は、技術論でない腹の問題としては、ソ連との交渉は急がなくてはならない、平和関係克復に努力しなくてはならないが、領土問題については日本国民の基本的な主張に沿う、すなわち南樺太、千島もこれは要求するという決意は持っておられるかどうか、この点を伺いたい。

 

○国務大臣(鳩山一郎君)

それは先刻申しました通りに、交渉するに当っては主張すべきものと思っております。

 

昭和30年4月1日 松本俊一が鳩山一郎首相から日ソ交渉全権代表に起用される

 

第22回国会 衆議院 本会議 第19号 昭和30年5月26日

○大橋武夫君

私は、自由党を代表いたしまして、重光外務大臣のただいまの演説に関連し、日ソ交渉の根本方針について、鳩山総理大臣に対し質疑をいたす次第でございます。

昭和二十年八月、ソ連の宣戦によって日ソ間の平和が破れ、その後わが国のポツダム宣言受諾によって戦闘行為は停止せられましたが、講和条約は今なおこれが締結を見るに至っておりません。

よって、一日もすみやかに日ソ両国間の平和関係の確立を希望することは、わが国民としてもとより当然のことであります。

(拍手)

しかしながら、今日の国際情勢下におけるわが国の外交といたしましては、自由諸国との協力態勢を確立し、自由世界におけるわが国の地位の強化をはかることが根本であって、この線に沿うて全般の外交を進めなければならないということは、わが党の常に強調してきたところであります。

(拍手)

また、現内閣においても、施政方針の演説において、鳩山総理大臣は、きわめて簡単ではありますが、同様の方針を述べられておるのであります。

しかるに、国会における鳩山総理大臣のその後の答弁等を承わりますると、この方針をどこまで守るおつもりであるか、いささか疑念を差しはさまざるを得ない感がいたします。

(拍手)

今日、鳩山内閣は、日ソ両国の関係正常化のための交渉に臨まれることとなったのでありますが、この交渉に際しては、わが方としては、もとよりソ連に対し幾多の主張すべき事柄を持っております。

かかる主張を貫徹するには、自由諸国の完全なる支持によって、わが国の国際的地位の強化されることが最も肝要であると存じます。

(拍手)

ことに、本交渉と時期と同じゅうして、他方において英、米、仏、ソの四巨頭会談が催されまする以上、自由陣営諸国の足並みがそろうということは、交渉の成否に至大の影響があると言わなければなりません。

従って、自由諸国との協調というわが国外交の基本方針の徹底は、日ソ交渉に際して最も大切なる事柄となる次第なのであります。

鳩山総理大臣は、今回の対ソ折衝に当っては、この基本方針をあくまで堅持しつつ行動するという断固たる決意を有しておられるかどうか。

少くとも、交渉の初めに当り、まずソ連がサンフランシスコ条約体制を認めるかいなかを確認してから交渉に入るというだけの用意を持っておられるかどうか。まずこの点について第一にお答えを願いたいと存じます。

(拍手)

第二に、今日、日ソ間における未解決の問題として、未帰還同胞の引き揚げ問題があります。

抑留同胞の引き揚げは前内閣以来逐次実施せられましたが、今なお相当多数の同胞が抑留せられておりますことは周知の事実であります。

しかも、これら同胞の抑留は、ポツダム宣言に違反し、国際の法規慣例にもとり、人道上からも黙視することのできない、明らかなる不法行為なのであります。

(拍手)

従って、この問題は、今日、日ソ交渉の結果、両国間の関係の正常化がなるとならないとに関係なく、一日もすみやかに解決されなければならぬのでございます。

(拍手)

すなわち、この問題こそは全く国交調整以前の問題であると言わなければなりません。

従って、この問題については、当初から国交調整の問題とはこれを切り離して主張すべきものであり、国交調整の問題と関連して取引すべきものでは断じてありません。

(拍手)

私は、鳩山総理大臣がこの未帰還者引き揚げ問題だけはどこまでも今回の国交調整の問題と切り離して解決するお考えであるかどうか、この点を明確に承わりたいと存じます。

(拍手)

第三に、今日、日ソ間においては、国交正常化に際し解決を要する幾多の懸案があります。

領土問題、漁業問題、国連加入問題等がそれであります。

本来から申しまするならば、これらの問題の解決があって初めて国交調整ということになるべきものと言わなければなりません。

しかし、これらの懸案事項は、一つとして解決の困難ならざるものはありません。

従って、そのことごとくが解決しなければ国交を回復しないとするならば、国交の回復は遠い将来の夢物語となってしまいます。

しかし、いやしくも講和条約を結ぶのでありまする以上は、少くとも和議の基本条項たる領土問題だけは解決されなければならぬということは当然でございます。

(拍手)

ことに領土問題につきましては、わが国はソ連に対し当然主張すべき幾多の重要な事項を持っております。

第一に、歯舞、色丹は言うまでもありません。

第二に、南千島については、千島、樺太交換条約以前から長年わが国固有の領土であったものであり、ことに、サンフランシスコ会議においては、吉田全権はこの点を特に演説において明白にいたしておるものなのであります。

第三に、北千島、南樺太については、鳩山総理大臣は返還を主張するということをみずから国会においても述べておられます。

他のすべての懸案が解決しないといたしましても、少くとも講和の基礎となるべきこれらの領土問題についての原則的な了解がなくては、講和の実は全く失われると言わなければならぬと思います。

(拍手)

鳩山総理大臣は、従来、いろいろな機会において、まず第一は国交の回復であり、それができてから、だんだんに懸案の解決をはかるのであるという意味を述べられておりますが、これは明らかに本末の転倒もはなはだしいと言わなければなりません、

(拍手)

今日、鳩山内閣の日ソ交渉に対する心がまえは、交渉に対するわが方の態度として、まず何よりも先に国交の回復をはかり、しこうして後に懸案の解決に進むという行き方をとるか、それとも、まず懸案の解決、少くとも領土問題についての原則的な了解を得て、その上で初めて国交回復をはかるという行き方をとるのか、この点はぜひこの機会にあらためて明確にしていただきたいと存ずる次第であります。

(拍手)

すなわち、鳩山総理大臣は、少くとも領土問題の原則的了解がない以上は漫然たる国交の回復というがごときことは断じてあり得ないことであるということを、果して断言することができるでございましょうか。

第四に、私は、今回の日ソ交渉においては、率直に申しまして、ソ連が、引き揚げ問題をえさにして、わが国に対し使節の交換をはかるのではないか、そして、選挙の公約に引きずられた現内閣が、功をあせるの余り、むざむざその術中に陥るのではないかという点を、心から心配いたしておるのであります。

(拍手)

先にも申し述べました通り、引き揚げ問題は、国交調整以前の問題であって、国交調整ができる、できないにかかわらず、必ず解決しなければならぬ問題であります。

(拍手)

従って、わが国といたしましては、国交調整に当っては、これを引き揚げ問題と引きかえにすべきものでは断じてありません。

(拍手)

少くとも領土問題と引きかえなければ、この交渉に伴うわが方の現実の利益はなかったという結果となるわけでございます。

しこうして、引きかえるべき現実の利益がなくして、漫然国交の回復が行われ、使節の交換を見るに至ったといたしましたならば、その結果はいかがでありましょうか。

ソ連の在外公館は、自由諸国に類例のない機構を備えております。

百人、二百人という膨大な人員を擁し、しかも、そのうちには、正規の外交官及び駐在武官のほかに、ソ連共産党及び国際共産党の指導連絡要員、ソ連国家秘密警察の諜報要員等を含む共産主義活動のための一大諜報宣伝機関であります。

(拍手)

かかる共産活動の一大拠点が国内に出現し、しかも、その多数の要員が外交官の特権のもとに自由に活動することに思いをいたすとき、これに対処するわが国内の態勢は現状のままで果して晏如たり得るか、きわめて憂慮にたえない点であります。

(拍手)

鳩山総理大臣は、これに対応する国内態勢についていかなる用意ありや、つまびらかに承知をいたしたいと存じます。

第五に、日ソ国交回復は鳩山内閣の選挙題目の一つでありました。

今回の日ソ交渉は、その当然の跡始末であります。

しかし、選挙公約の跡始末としては、現内閣の力に比して、あまりにも問題が大き過ぎるのであります。

日ソ間の平和回復ということは、国内に何人も反対する者はありません。

しかし、この問題は、いかにも大きな問題であります。

従って、この問題を処理するためには、もとより大きな準備が必要となるわけであります。

しかるに、現内閣のやり方は、不用意・無準備であったために、今日までいろいろ遺憾な点がありました。

わが党としては、その都度、慎重に進まれることを要望し、また警告して参ったところであります。

もとより、日ソ間の平和回復は、国民のひとしく望むところであります。

しかし、その平和には、わが方としての現実の利益が伴わなければなりません。

領土問題、漁業権問題、国連加入問題等、平和に際し主張すべきわが国の現実の利益については、政府はどこまでも積極的に責任を持って必ず主張し、誠意を持って必ず獲得すべく努むべきものであります。

今日、国民諸君が、共産主義の脅威を憂えながら、しかも日ソ交渉にあえて大きな期待をいたしておるところは、漫然たる国交の回復では断じてありません。

それこそ、全国民の民族的主張ともいうべきこれらの問題についての現実の国家的利益が交渉を通じて正しく守られるであろうということを心から希望すればこそなのであります。

(拍手)

もしこの希望が裏切られるようなことがあれば、わが方としては、いたずらにソ連の平和攻勢に利用せられ、ソ連の日本中立化政策の術中に陥り、祖国を共産主義の脅威にさらすのみと言わなければなりません。

何分にも、ソ連相手の外交は一筋なわでは行かぬことは、つとに世に定評のあるところであります。

私は、この交渉に臨む以上、政府は、十分なる準備と、不退転の決意と、非凡なる忍耐と、賢明なる努力とをもって、この交渉を実質的にかちとるよう、最善を尽されんことを切に望まざるを得ません。

(拍手)

しかしながら、目的の達成には、内は国民の圧倒的支持と、外は自由諸国の全面的な支持とが必要なのであります。

今日まで果して政府はこの内外の支持を確保する努力において欠くるところがなかったと言えるでしょうか。

出発直前の全権を伴って鳩山総理大臣がにわかにあいさつ回りをしなければならないという今日のありさまについては、政府のすでに深く反省せられていることと信じます。

政府が今さらのごとく日ソ交渉の重大性を認識して他党の協力を呼びかけるに至った気持については、私もある程度理解できるつもりであります。

しかし、およそ一つの問題について他人の協力を求める者の態度として、その事を始めるや、他人と協議しないで独断専行し、困難なる途中に及んで、にわかに、地人に、ついてきて手伝えと言うようなことが、正しいやり方と言えるでしょうか。

これでは、全国民的な支持を期待しても、期待する方が無理だと言うべきであります。

そして、この関係は、ひとり国内だけのことではありません。

いやしくも自由諸国が多大の関心と利害とを有している問題について、不用意に第三国と折衝し、ために自由諸国の疑惑を招くようなことでは、ついには孤立外交の危険に陥るのみであって、他国の支持と協力とを得るゆえんではありますまい。

私は、こうした内外のやり方について、鳩山内閣の謙虚にして真華なる猛省を切に期待する次第であります。

(拍手)

交渉の前途は、おそらくは、遠く、また険しいことでありましょう。

鳩山総理大臣は、この重大かつ困難なる交渉に際して、成功のかぎとなるべき内外の支持を今後いかにして得ようとなさいますか、御所信のほどを明快にお示しいただきたいと存じます。

(拍手)

〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕

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○国務大臣(鳩山一郎君)

大橋君の御質問に対してお答えをいたします。

自由諸国との協力態勢を推進するということを外交の基調とすることは、たびたび委員会で申しましたごとく、これを外交の方針としております。言うまでもないことでございます。

(拍手)

サンフランシスコ条約体制を認めるかどうかを確認してから交渉に入る用意があるかということでありますが、わが国がサンフランシスコ条約の上に立っているということは、ソ連はむろん承知しているのですから、今さら確かめなくても当然わかっていることと思います。

(拍手)

それから、引き揚げ問題を切り離して調整前に解決する用意があるかというような御質問でありましたが、この未帰還の抑留者の問題というものは、全国の人々がだれしも例外なく非常に熱望しておることでありまするから、交渉には、一番先にこの問題を掲げて交渉するということは言うまでもないことでございます。

(拍手)

国内態勢についての用意があるかどうかということでありますが、共産主義者がだんだんと勢力を得るということについて、これを阻止するということは、いろいろの面があると思います。

各方面の意見を聞いて遺憾なきを期するというのが一番いいと思います。

それから、協力問題も、各派の協力を急に私が考えついたというわけでは全然ないのでありまして、各派の協力は自然と得られるものと思っておったのでありますが、事志に反して、得られなくなりそうになったということは、まことに遺憾に思っております。

しかしながら、国内の協力態勢を得るということについて今日まで遺憾の点がなかったとは言えますまい。今後は万全を期しまして、内外の信、支援を得て、所期の目的を達することに力を注ぐつもりでございます。

(拍手、「領土問題、領土問題」と呼ぶ者あり)

領土の問題——つまり、このたびの日ソ交渉というものは、戦争状態終結を目ざして、戦争状態のなかったようにするための国交調整なのであります。

戦争によって起ったところの諸問題、あるいは領土の問題、あるいは未帰還兵の問題とか、北洋漁業の問題だとか、戦争によって起ったところの諸問題を解決するということが国交調整の目的なんですから、そういう目的を達成することに努力するということは、これも言わなくてもわかっておることであります。

(拍手)

 

1955年6月1日
第一次ロンドン交渉
第1回会談 松本全権・マリク全権(日ソ)

第22回国会 参議院 予算委員会 第38号 昭和30年6月30日

○国務大臣(重光葵君)

私どもも、かつて日ソ中立条約が一方的に破られたとそういうふうに思って、非常にこの点を残念に思っておりますが、これは今日その問題を持ち出して、その是非を交渉によって決するということが果して適当であるかどうかということは、私は疑うものでございます。日本は不幸にして、今日から考えてみれば、当時の日本の対外政策の運用を誤まったことは、これはもうどうしても日本としてこれを認めなければなりません。さようなことが累積いたしてソ連との間に戦争状態が起ったのでございます。ソ連としては御承知の通り、その行動について十分これを正当化するだけの理由はつけております。これはわが方としては承認できぬことは、これはもう日本人として当然のことでございます。しかしながら、ソ連としての理由は、これを十分に持っておるとソ連は主張しておるわけでございます。そうして戦争の結果、日本が敗北したこともこれは事実でございます。さような事実を度外視して、単に理論上の闘争をするということならば、これは日ソ交渉はむろん初めからやらぬ方がよろしうございます。しかしそうでなくして、この事実は事実としてこれを認めて、これを一体どうして収拾するかということに実際的な政策はとって参らなければならぬ、こうまあ思うのでございます。これはしかし日本に限ったことではない、どこの国でも同じような場面に向えばそう考えるより道はないと私は思います。そこで日ソ交渉によって国交の正常化をはかるということが日本のために利益である。それで世界の平和の一部分に貢献することができるとするならば、これは非常に有意義であるといって日ソ交渉を始めたわけでございます。しかしながら、その日ソ交渉の目的を達して国交の正常化をするためには、日本は将来に向ってはっきりした保障がなければなりません。それは戦争によって起ったいろいろな重要な問題の整理をしてかからなければなりません。その整理をするための交渉が今開かれておるわけでございます。従いまして、その交渉が妥結をすることに全力を尽して国交調整の目的を達成したい、こう思ってやっておることは、これは申すまでもございません。そこで、それでは交渉をした結果、日本が一方的に考えるがごとく、条約を無視されるものであるという前提をもってやるならば、これは無意味なことでございます。しかしながら、私は平和条約を結んで国交を正常化する目的を達するには、その条約は必ず相手方よりも十分尊重される、こういう前提によって平和条約の締結に努力をしておる、こういうことは、これはもう申すまでもございません。そこでそういう信用があるかないかという理論のつけ方、その他歴史の観察ぶり、こういうのは、私は今の現実の問題としては、これは過去の歴史をどう見るかということについて十分歴史家の批判に問うべきことだと、こう思います。しかし今日の現実の問題としては、今条約がりっぱに締結されれば、それは調印者によって十分に尊重されるべきものである。こちらも尊重する。こういう観点において交渉が進められなければならぬ。またそうでなければ、国交の調整などということを言うことは無意義に思われます。私はさようにしてこの交渉が成功することを希望してやまぬものでございます。

第22回国会 参議院 予算委員会 第38号 昭和30年6月30日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

第22回国会 衆議院 外務委員会 第35号 昭和30年7月23日

○細迫委員 日ソ国交の回復を目ざします日ソ交渉の問題、なかんずく領土問題につきまして質問をいたしたいと思います。
かねて外務大臣は、衆議院本会議その他におきまして、日ソ交渉に当っては、領土問題を含めて、漁業問題、通商問題、未帰還者の問題、その他諸般の問題をもすべて議題とし、請求すべきものは請求する、こういう御発言でありました。この中の領土問題でありますが、過日予算委員会におきまして社会党の河野君も若干触れておりますが、この領土問題というのは、すなわち千島、樺太の問題でありますが、それは何もかも要求すべきものは要求するといって、百般のものを網羅的に主張することも、これは外交手腕上あるいはよいことかも知れません。でありますが日ソ交渉がこう具体的になりました段階においては、もう少し慎重に考える必要があると思うのでありまして、日本の主張はあまりに非常識じゃないかという非難を受ける事柄がありますと、ほかの中心的な目標までもが、その他のわが方の主張までもが、悪影響をこうむるというような関係もないではないと思うのです。すなわち千島、樺太について申しますれば、サンフランシスコ平和条約におきまして、日本はその請求権を放棄いたしておる。これは国際上の明白な事柄である。とすれば、純法律的に申しますれば、日本にはすでに回復請求権なしといわれても仕方ない状況にあるのじゃないか。これを含めて日ソ交渉において強く要求するということは、考えものではないかというように考えるのでありますが、この点についての御所見はいかがでありましょうか。

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○重光国務大臣 私は従来日ソの国交回復の際に、日ソ間に横たわっておる全部の問題を解決しなければならぬと申したことは決してございません。私は日ソの間に横たわっておる、特に戦争によって生じた重要な問題は解決しなければ、平和を再び打ち立てることはできない、でありますから重要な問題は話し合いをして十分妥結した上で、国交の正常化回復という段取りになるのだということを申し上げております。そしてそれではどういう項目がその交渉の題目になるべきものであるかという点につきましても、私と申しますか、日本政府の考え方ははっきりと申し述べて、その点においては私はむしろ国会の御了解を得たと思っております。それについては領土問題のあることは言うまでもございません。
そこで領土問題に入りますが、今のお話によりますと、領土問題では、南樺太及び千島はサンフランシスコ条約によって日本がすでに権利を放棄しておるのだから、ソ連に対しても要求しない方がいいのじゃないかという御意見、またそういう意見もあるというお話かもしれません。これはソ連の意見であります。ソ連はそう言うのであります。しかし私は必ずしもソ連がそう言うからそうとは考えておりません。サンフランシスコ条約によって日本が権利を放棄したということは、サンフランシスコ条約にはっきり書いてあります。しかしソ連はその放棄したものを受け取りたくないという頭でもって、サンフランシスコ条約に調印を拒絶している。ソ連は受け取りたくないというふうに解釈するのは行き過ぎかもしれませんが、日本の権利の放棄をソ連が認めておるわけではございません。これは条約上当然の解釈であります。そこでこれらの南樺太及び千島の問題も、日ソの間においてはまだ結末を得た問題ではございません。これをどうするかという結末がついておる問題ではありません。かような大きな問題について結末をつけなくて、国交の回復ということはちょっと考えられないのであります。それはソ連からマリク全権を通じて提案された中にも、その点ははっきりあるわけであります。これは結末をつけなければならぬ。また結末をつけるべく、日本が日本自身としての要求を当然出し得る問題でありますから、私はこれを出すべきだと考えて、初めからそのつもりで出しておるわけでございます。ただしお話の通りに、日本がサンフランシスコ条約によって——これはサンフランシスコ条約調印国に関する限りは、これは放棄しておるのだ、こういう点は認めざるを得ません。そこでその上は日ソの交渉の俎上に上っておる問題でありますから、日本は主張すべきを主張し、ソ連も大いに主張しておるわけでありますから、さようにして交渉を進めていくということは私は当然のことである、こう考えておるわけでございます。

○細迫委員 私の言うようなことをソ連が言っておるというようなお言葉もありました。そういうようなわけで、私の発言はいろいろな誤解を受けるおそれもあるにかかわらず、私あえて申しておることは、一つにはこの領土問題の主張によって、むしろ日ソ交渉の決裂のチャンスをここに求めようというような動きも見えないではないのであります。また日ソ交渉の中心的なねらいは、かねてから総理大臣、外務大臣が言っておられますように、日ソの正常な国交の回復というところにあるわであろうと思うのであります。私はさように理解しておるのであります。いろいろな問題、ことに重要な領土問題等にあくまで執拗にかじりついていくということは、この中心問題がぼける関係もあると思うのであります。あくまで日ソの国交の正常な状態への回復ということが、中心であるということを踏みはずさないというような意味におきましても、その間の軽重の問題など慎重に御考慮あってしかるべきだと思うのであります。なおまた今のお話でありましたが、ソ連がサンフランシスコ条約に参加していないということは、日本がすでに千島、樺太の領土権その他の権利を放棄しているということとは別な問題であると私は考えております。すなわちこれはいわば連合国に対して放棄しておるのでありまして、それはどこが領有しようかということは連合国相互間の問題ではないかというように思うのでありますが、ともかく日ソ交渉における中心目標を見失わないよいように、題目はあくまで正常な国交の回復というところに置いて、進んでいくべきだということについての御方針は、変っていないと理解いたしたいと思うのでありますが、その通りでよろしゅうございましょうか、御答弁いただきたい。

○重光国務大臣 全くその通りでございますが、私はその問題につきまして、主観々々によって、いろいろ解釈の仕方が違うようになることを実はおそれておるであります。これはあくまで日ソ関係の正常化ということを目標とした交渉でありまして、その目的を見失わぬようにしなければならぬ。こういう意味において全然同感でございます。しかしながら、それならば平和を樹立するためにきまりをつけなければならぬものについても、これを顧みることなく、きまりをつけないで、ただ国交回復、こういうことをしていいかということになると、私はそうはいくまいと思うのです。この議論は国会においてもずいぶん熾烈に戦わされた議論でございます。しかし私は重要な問題についてはあくまで解決を期して、そうして解決するとともに、国交の回復、平和の樹立をしようというこの交渉の方針は、ほとんど国民的に承認をされたもののように感じて、私はそれを打ち立てております。のみならず政府といたしましては今交渉をやっておるのであります。それからちゃんと向うの要求、こっちの要求は出ておるのであります。わが方の要求はこれを貫徹するために、全力を尽していかなければなりません。その交渉の最中に今四国会談のごとき大きな国際上の変化を伴う事件も出て参りました。従いましてこの交渉の結果は私は忍耐強く一つ続けていって、そうしてその方向を十分見定めた上でいろいろまた考えなければならぬことも新たに生じてくると思います。そこで今その問題を右とも左とも特に希望的にと申しますか、主観的にあまりに議論されることは少し早くはないかというふうに考えます。私自身は既定の方針に従って、あくまでその方針を実現するように最善を尽したい、ほんとうにそういうふうに思って進んでおるわけでございます。以上をもって御答弁といたします。

第22回国会 衆議院 外務委員会 第35号 昭和30年7月23日 続き

○穗積委員 すなわちあなたの御答弁は、これを言いかえますならば、これらの問題については何ら悲観すべき材料は出ていないし壁にぶつかっておらぬ、すなわちこれらについては妥結し得る希望と自信と見通しを持ってやっておられるということだと思うのです。最後に残ります問題は、やはり何といいましても領土問題だと思うのでありますが、領土問題について政府の態度を伺いたいのであります。歯舞、色丹並びに千島、樺太と、こうなっております。歯舞、色丹は北海道に付属する小さい島でございまして、千島、樺太とはこれは分けて話をすべきだと思いますが、そういう点についてはどういう態度をもって臨んでおられるか、また臨むつもりであるか、伺っておきたい。

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○重光国務大臣 これは交渉の内容に入りますから、詳しくは私は御説明することを差し控えたいと思いますが、歯舞、色丹が北海道所属の島々であるということは、日本人の、日本人だけではない、少くともサンフランシスコ条約関係者の通念でございますから、それはその通りでございます。しかし千島、南樺太に対しては、それではどういう根拠をもって日本がこれを主張するかということにつきましては、各種の論拠のあることは申し上げて差しつかえございません。千島にいたしましても、全部が一様というわけでもない歴史を持っておる点もございます。しかし、それらのことは、材料はすべてわが全権の頭に入れておりますから、どういう工合にこれを運用して日本の主張を実現するかということは、全権のやり方にまかしておるような状況でございます。これからしばらく交渉を進めてみたいと思います。

○穗積委員 領土問題につきましてこれからあるいは出てくるかもしれぬが、その片りんはすでに日本の軍事同盟不参加の問題として出ていると思うのですが、特に領土に局限して申しますならば、日本国に返しました領土が事実上沖縄、小笠原のように、その領土に対しまする主権を日本が放棄して、そしてこれらの島々が事実上アメリカの統治のもとに置かれ、しかもこれが巨大な軍事基地にされるということについて、ソ連がこれを好まない、すなわちその島の返し方は日本に返したのではなくて、アメリカの基地に提供したことになる結果をソ連は欲しない態度をとることは当然だと思いますが、そういうソ連側の態度がもしありといたしますならば、この態度についてわれわれは当然だと思うが、外相はその態度に対して当然だとお思いになりますか、念のために伺っておきたい。

○重光国務大臣 まだ交渉においてさような意向は少しも表示を受けておりません。交渉を進めていく間にそういうような表示があるかもしれません。しかしそれはそのときによく考えてみます。

○穗積委員 この交渉を向うの出方を待ってやることは当然でございますが、少くとも日ソ間における問題を解決する目的をもって国交を早く回復するということは、鳩山内閣の積極的な政策でもありますから、すなわちこの交渉に当って一番問題になります問題を解決するためには、その解決の糸口というものを積極的にこちらから示す必要があると思うのです。それは今の領土問題については、今申しましたような日本がアメリカその他の側に立つ軍事的な同盟を結ぶということが問題になることは当然でございます。従って現にできております安保条約、特に安保条約が問題ですが、これらについてこちらから糸をほぐさなければ、この問題は解決するはずがないと思うのです。この問題を解決する見通しがつかなければ調印をしないということであるならば、これは初めからやらぬつもりでやっているといって差しつかえない。あなたは今度アメリカへ行かれると先ほども発表なさいました。この前は防衛分担金の問題を主にして向うへ行こうというのでひじ鉄砲を食らって断わられ、今度はわれわれ聞くところによりますと、ソ連との交渉の問題についても、その他広く共産圏との関係、共産主義に対する態度等について、今度アメリカへ行かれて打ち合せをされるということが要綱の中にあるように漏れ承わっております。そういうことになりますと、当然このロンドン会議の問題が出ましようし、そのときにアメリカと話をされる場合においては——この前は防衛分担金で行くということだったが、今度はそういう問題があるから向うでウェルカムしようという、そこでウェルカムされたあなたが向うから逆に、今度はげたを預けられたり、ひもをつけられたり、あるいは日ソ交渉について干渉されたり、あるいはそれに対して言質を与えてこられるというようなことでは迷惑しごくであって、鳩山内閣の政策、しかも独立外交をやるために、積極的にアメリカを説得してきていただきたい、そのためには安保条約の問題を問題にしなければならぬと思います。すなわちソ連との交渉における領土問題解決については、これらの土地にアメリカ側の軍事基地設定をしないことを確保する、それが最小限度でございましょう。さらに進んでは日本における陸上軍の撤退問題だけでなくて、日本国全体の、つまり安保条約をこれからだんだんと解消する方向に向っていくべきだと思うのですが、当然そういうお考えがおありになるだろうと思う。この問題は今申しました通りに、日ソ交渉の一番中心の問題であります領土問題に関連いたしておりますから、それに対してあなたがアメリカへ行って何を言い何をしようとするのか、当然その問題に触れるべきだと思いますが、それに対するあなたの所信を伺っておきたいのでございます。

○重光国務大臣 私の渡米についてまだ準備もいたしていないということは、先ほど申し上げた通りであります。今それに関連して私の所信を言え、こういうことでございます。私は日本の外交は日本独自の見解で進んできておるつもりでございますから……。

○穗積委員 目的を持たないで行くということはない。行くことがきまってから目的をきめるなんということはない。目的があるから行くのですよ。ただわれわれの税金を使ってあなたは遊びに行くつもりですか。何か目的があって行くのでしょう。

○重光国務大臣 そういうことを私は言っているのではないのですよ。私の言っているのは……。

173・穗積七郎
○穗積委員 何の目的を持って行くのですか。

174・重光葵
○重光国務大臣 日米関係の密接な関係をとるために行くのです。だからそのときにどういうことを言うかということはきまっておらぬと私は言っているのです。あなたは私が日ソ交渉についてひもをつけられて帰るだろう、そういう想像をつけられるのは一体どういう理由によるか知りませんが……。

○穗積委員 あなたの方針を言いなさい。あなたがしっかりしておらぬから私どもは心配なんです。

○重光国務大臣 だから日本独自の見解で外交を進めていくのですから、そういう御心配はない、こう言っているのです。まあしばらく待ってみなさい。

第22回国会 参議院 外務委員会 閉会後第1号 昭和30年8月19日

○国務大臣(重光葵君)

私は発表いたしました通り今回渡米をすることに決定をいたしました。

私の渡米は本年の四月以来問題になっておったものでございます。

今回は国会の仕事も一段落をいたしましたこの機会に、その目的を果そうと考えたのでございます。

幸い米国側においても非常に好都合であるということで、八月末をワシントンでダレス長官等と話し合いをする時期に選んだ次第でございます。二十三日に出発をいたしまして、九月八日に帰って参りますことに予定をいたしております。

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私の渡米の意図はどこにあるか。

これは渡米問題が前にも起りまして以来、その意図は今日まで変っていないのでございます。

それは日米の協力関係ということは非常な重要な問題であって、日本といたしましては、御承知の通りに、条約の点からいっても、また政策の点からいっても、そういう点は非常に重要視、少なくとも現政府は重要視しているのでございますから、その政策の線に沿いまして、日米間の全般の問題について十分に意思を疎通することが適当であろう、この際、理解を深めることが諸般の対外施策上重要なことである、こういう見地に立ちまして、私は米国当路の人々と日米全般の輿係について意見を交換し、意思の疎通をほかることやるのが今回の渡米の目的でございます。

そこで、それじゃ何か特別の交渉案件があるかということになりますが、特別の交渉案件を持って参るわけではございません。

また特に今私が渡米をして解決をはからなければならぬ特別の案件もございません。案件はずいぶんたくさんございます。

しかし、これらの対象の案件は、あるいは東京において、あるいは華府において交渉することにこと欠けているわけではございません。

そこでそういう案件は従来通り続けてこれを進行せしめることができる、せしめるつもりでございます。

ただ私は、全般の問題について面接政府の当路者との意思疎通をはかるということは、具体的な問題の解決についても資するところが非常に多いと考え、まして、さような心構えをもって参るのでございます。

アメリカ側に対しては、アメリカ側の対外政策等は、極東方面に対する考え方というものを十分に一つ開いてみたいと考えておりまして、またわが方といたしましては、わが方の考え方は独立完成を希望しておるのであります。

それらのことについて十分日本側の意向をも向うに伝えたい、こう考えております。

しかしながらその間に日米間の問題についていろて妻ことが題目になって話に上ることと思います。

しかし私が今日考えておることは、それらの多くの問題について、たとえば今申されました中共の問題等につきましても、従来本委員会において説明申し上げた意図、もしくは政府の政策の線に沿って話し合いをいたすつもりでございます。

少しも新しいことを今考えておるわけではございません。

中共の問題がお話しがございました。

また日ソ交渉については、日本はどういう意図を持っておるかというような質問が、アメリカ側では、政府筋だけじゃない、いろいろな方面から聞かれるかも知れません。

これらの問題には従来の既定の方針に従って、また従来私どもの考えとして説明申しておったその範囲を出るような新しい説明は今考えておらないのでございます。

しかしながら、さようなこちらの考えを私の口から説明をし、また向うの考えを向うの責任者から聞くということは、全般の日米関係の上からいってみて、非常に貢献するところがあるであろうとこう考えておる次第でございます。

大体私の渡米の意図については、右、御説明を申し上げる次第でございます。

 

○曾祢益君

外相が必ずしも単にいわゆる情勢待ちでなくて、いろいろ情勢に応じて積み上げて努力をされるという方針であられるようで、それは私も一応了とするのですが、どうかその結果がいわゆる日本の進んだ考えの出しおくれにはならぬように、フリー・ディスカッションのときには具体的な提案、たとえばアジア関係国会議というような具体的な提案にはこれはまだいろいろ情勢は整ってないでしょうが、大きな日本の独立と見合って、より正しい日本付近の安全保障の新しい方向はどうだというような話のきっかけはもうやってゆくのは時期が来ておるのではないかと、かように思うわけであります。

そこでそれに関連しても、特にこういうような構想が実現するためにはいろいろな条件が要ります。

なかんずく現在のアメリカと中共との関係ではこれは問題にならぬ。

従って羽生委員の言われたことに蛇足を加えることになるのですが、特に中国問題については今度の機会に十分に、外相は特にその方面に造詣の深い方であるのですから、日本から台湾問題についてはこう、中共についてはやはり中国本土の実権者としての、中国の地位に即した新らしいものの見方に立って、そこに極東の平和、また日本の自主独立の立場を進めるような積極的な話し合いをしていただきたいと考えるわけです。

時間がありませんので、最後に一つ伺いたいのは、私は独立の完成の点からいっても、先ほどちょっと申しましたように、小笠原、沖繩の問題はぜひこの際取り上げていただきたい。さらにこのことは、日ソ国交調整の領土問題とも至大な関係のあることば今さら言うまでもないことだ。私たちはどうしてもこの小笠原、沖繩問題に関してはアメリカが、この日ソ交渉に関係するソ連関係の日本の領土の返還に、大いに日本の立場を強める意味において、この際特に小笠原、沖繩の返還についてはっきりした踏み切り方をしていただきたい、こう期待するわけです。

一その点について外務大臣のお考えを伺うと同時に、日ソ交渉それ自身に即して、先ほど外務大臣から梶、原委員の質問に対するお答えがございましたがどうも私たちが考えておると、このアメリカ関係からも一つの条件づけられておる意もありましょうが、日ソ交渉それ自身から見て、歯舞、色丹だけでやむを得ないというようなもし考え方が政府部内にある、千島、南樺太はこれはやむを得ない、返還されなくともやむを得ない、あるいはこれは未解決のままに平和条約が作られるというようなことは、これは容易ならないことだと思う。

そういう意味からいっても、沖繩、小笠原の問題をこの際ぜひ推進をしていかなければならない。

ただし私は平和条約上からいえば、この領土問題の解決のない平和条約ということは考えられないが、だからといって、もしこの日ソ交渉が、平和条約の問題が、領土問題で非常に渋滞を来たした場合には、日ソ交渉そのものを打ち切れなんということを毛頭言っているのではございません。

この点ははっきりしておかなければならない。別の方法による、他の方法による、平和条約にあらざる国交調整をやっていかなければならない。しかし領土問題が非常に重要でありますので、この小笠原、沖繩と、またソ連関係の領土問題についてのお考えを伺いたいと思います。

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○国務大臣(重光葵君)

日ソ交渉は、先ほども申しました通り、これはもう既定の方針で進みたいと思います。

今、今日の段階において既定の方針を再検討する段階にはまだ達しておらんと、こう考えております。

それから小笠原及び琉球に対する日本の希望及び主張は、これはもう従来ともはっきりいたしておる通りであります。これによって進んでゆきたいと考えております。

ただし、これは従来日本のもう公然たる立場でございます。その公然たる立場を少しでも有利になるように努力をする、これは私は当然と考えます。

 

1955/8/30「四島返還」の訓令

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第22回国会 参議院 外務委員会 閉会後第4号 昭和30年11月18日

○曾祢益君

私は実は本日は外務大臣がおいでになる、並びに総理大臣にも出席の要求が羽生委員から出されておりまして、そういうようなわけで日ソ交渉に関する経過の御説明、並びに今度いよいよ保守合同ができましたについて、いわゆる自由民主党の新政策というものがきめられたわけでありますので、その新政策に基く日ソ交渉の方針というものと、従来の鳩山内閣の方針等の食い違いがあるのかないのか。あるとするならばどういう理由であるか、これらの問題について総理、外務大臣の御所信を伺いたいと思っておったわけであります。

少くともわれわれが新聞等を通じて得た印象からいえば、従来の鳩山内閣の日ソ国交調整に対する積極的な方針、これは完全にくずれ去ったと思うほかはないと思う

まあそれらのことを伺うとともに、あわせて交渉の経過も伺い、さらには今後の交渉に処する方針等について伺いたいと思ったのでありまするが、とうとう両大臣の御出席がないので、政務次官に対してはそれらの問題についてお伺いするよりも、機会を改めまして、総理、外務大臣に御質問申し上げるに当って必要と思われる交渉の内容のきわめて簡単な点だけについて質問をするにとどめたいと思うわけでございます。

それをきわめて集約いたしまして、私一点伺いたいのでありますが、いろいろな情報を総合いたしますると、大体ロンドンの交渉におきまして、八月の上旬にソ連、つまりマリク大使の方から領土問題について、かなり従来の交渉から見れば譲った線、つまり歯舞、色丹について特別にこれを考えよう、こういったような線が出てきたやに承知しておるのであります。

またその後になりまして、政府は訓令によってこれを、おおむね八月の末ごろのことだと思うのですが、歯舞、色丹はもちろんであるけれども、南千島までは返還を要求する。その他の領土については日本を含めた連合国の国際会議、これできめるというような方針を現地に訓令として出されたように私は承知しておるのであります。

そこでこの点に関連して簡単な問題を伺いたいのですが、これはちょうどまあ外相がアメリカに行っておるころだと思うのです。そうするとこの訓令というものは一体だれが出したか、これは外務大臣を兼摂しておった鳩山総理が直接にこれを出された。当然そうだろうと思うのですが、一体そういう点について鳩山総理と重光外務大臣とがほんとうに息がぴったり合っておったのかどうか、こういう訓令を出したについての総理大臣と外務大臣との間の連絡いかん。だれが責任者としてこういう訓令を出したのか、責任者としてというと語弊がありまするが、どなたが外務大臣のときこういう具体的な訓令が出たのか、これははっきりした事実でありまするから、これを一点伺いたいわけです。

それから第二は、南千島返還の要求ということは、これはもとより南千島に限らず、南樺太まで要求する理由はそれぞれ程度の差こそあれ、日本では完全な領土として要求すべきものとは思いまするが、特に南千島だけを取り上げたことについては、もちろん歴史的にいまだかつて日本が南千島については主権を放棄したのはサンフランシスコ条約まではなかったわけですが、そういう理由はわかるとして、やはりしかし南千島と北千島あるいは南樺太を、サンフランシスコ条約の正面からいうならば一つもその地位は変っていない。それにもかかわらず特に南千房だけを北千島、南樺太からはずして主張するについては、何らかやはりサンフランシスコ会議とか、いわゆる日本の歴史的な関係だけではなくして、第二次世界大戦以後の国際的な条約、取りきめ等の関係から特に主張すべき根拠があったからされたのかどうか、この点がどうも私にはよくわからない。

ことにわれわれがおかしく思うのは、その後に――その後にというのは八月末の訓令が出たあとで、われわれはいつそういう問い合せを外務省がされたのか知りませんが、少くとも問い合せの結果として、十月の末になって新聞等を通じて承知したことは、この南千島についてサンフランシスコ会議の際に日本側が何か、あるいは日本側とは言っていないかもしれないが、サンフランシスコ会議の際に南千島については特別な留保をしたかどうかという点をあらためてアメリカに聞いておられるように承知しておる。

ところがこれもずいぶんおかしな話で、われわれは少くとも公けに発表された、日本政府から発表されたサンフランシスコの会議の議事録を見ても、吉田全権が言っておることは全く簡単なことだけであって、「日本開国の当時、千島南部の二島、択捉、国後両島が日本領であることについては帝政ロシアもなんら異議を挿さまなかったのであります。」等々書いてあるだけで、どう考えてもサンフランシスコ会議で日本側が得ておる通常の情報をもってすれば、特に南千島については日本が留保されたことはないにきまっておると思うのです。

何ゆえにこの、ころになってアメリカにそういうことを開かれたのか。

それからさらにアメリカに対する問い合せはこの点だけではなくして、ヤルタ会議の際に南千島は特別に取扱われていたかどうかというような点も聞かれておるように聞いておるわけであります。

最後に国際司法裁判所に訴えた場合に云々ということを聞かれておるわけでございます。

一体どういうつもりでこの時期になって南千島の問題についてこのような問い合せをアメリカにされたのか、どうもその動機といいますか理由というか、われわれにはわからない、全くわからない。

これは政治論になって恐縮ですが、もしアメリカの方と領土問題について交渉し、その交渉を日ソ交渉に有利な方に持っていこうというならば、もっと基本的な問題についての日米間の話し合いが当然になされなければならないと思う。

つまりソ連に対してだけ北の領土の返還を言うことは理由が立たない。

これはどうしても小笠原、沖繩等についてアメリカとの間に相当な交渉が進まれておったこととの対応においてソ連に対しても日本の完全な領土権を主張するということで、初めていわゆるつり合いの取れた正しい交渉になりはせぬかと思うのです。

それは政治論だから別として、この時期に、今くどいようですが、こういったような内容のアメリカとの交渉をされ、またその結果、どうも新聞の伝えるところによれば、その結果あまり思わしい結果でなかった。

そういうことになると、今度はみずからこの南千島を要求せよと訓令を出したはずの総理大臣みずからが、南千島は言ってみるが、だめらしいということを新聞にしゃべってしまった、これは全く交渉としてなっていないと思う。

これも政治論だからお答えいただかなくてもいいのですが、要は、繰り返して申し上げますが、こういう南千島を要求せよという訓令を出された責任者はだれか、その際総理大臣と外務大臣との間に十分な話し合いがあったかどうか、第二点は、アメリカに対して何ゆえにこの時期にこういうような問い合せをされたのか、この二点ついてだけお答をいただけばけっこうでございます。

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○説明員(園田直君)

交渉でわが方が初め歯舞、色丹を要求をして、あとになって南千島を追加をしたということはございません。

これは当初松本全権に通告せしめました訓令にはっきり書いてございますが、領土問題については最初から歯舞、色丹、千島列島、南樺太の帰属に関して隔意のない意見の交換をすることをソ連側に提案をしたわけでございます。

そうしてこの折衝の中に、歯舞、色丹は北海道の一部である。国後、択捉両島はすでに日本の領土としてかつていささかの疑念もなかったこと、こういうこと等を述べて、千島列島及び南樺太の帰属は、日本の関係するいかなる国際文書によっても規定されていないことなどを指摘して、いろいろな意見の交換を行なったのでございますが、その後交渉が進みまして、若干の条件を付して、ソ連側は歯舞、色丹というものは返還してもよいというような点まで話が進んできたわけでございます。

その際わが方では、サンフフンシスコの条約における領土権の放棄ということをもかんがみて、今まで全部主張し、意見の交換をしておったものを逐次狭めてきて、そうして国後、択捉、歯舞、色丹という線まできたのがほんとうの姿であって、決して歯舞、色丹を当初言い出して、あとになって南千島を追加したわけではございません。

なおそのほかヤルタ協定の問題その他の問題等についてアメリカの意見を聞いたということでございまするが、これは当然いろいろな領土の問題の意見を交換する際の参考として、いろいろな打診をしたり、向うの情報を集めたことはございますが、アメリカの意見を聞いて、この意見によってどうこうということはこれは考えておりません。

米国自体も、ヤルタ協定というものはこれを肯定していないという実情でございます。

その他につきましては所管局長、寺岡参事官から御報告を申し上げます。

 

○説明員(寺岡洪平君)

特にもしも御質問がございますれば、具体的に申し上げてもけっこうでございますが、ただいまの政務次官のお答えで私十分であると思います。

 

○曾祢益君

同じ点についてもう一回だけ伺いたいのです。

それはおっしゃる通り、私たちもそう第一点について、何もこのときになって初めて南千島を出したということを私言っているわけではございません。

これは政務次官も言われたように、当然に日本の主張としては、南樺太までそれぞれ根拠があって主張されたことは知っております。

しかし交渉が、相当両方の言い分が出尽したあとで、さてということになって、向うが歯舞、色丹は、これは小千島くらいに言ってがんばっておったのを、とにかく返すことを考慮しようということになった。こちらもやはりしぼったわけです。しぼって歯舞、色丹と南千島だけはこの際平和条約の中で返してもらう、他の領土については国際会議できめるということで、解決をあとに残した形の平和条約を作れという訓令を出されたものだと思うのです。

だから主張したことが悪いというのではないのですが、これはやはり一つの重大なモメントになって、今まではただ主張を主張として述べていた。

今度は日本側の一つの、向うのプロポーズに対する、提案に対するカウンター・プロポーズとして、具体的に平和条約の内容における、いわばこれは最終的であるかどうかということは言うべきでないと思いますが、具体的な日本の提案の形において南千島まではがんばれと、こういうものを出したということが、これがポイントだ。

従ってその点については当然にこれは歯舞、色丹だけじゃなくて、平和条約を作る意味は南千島まではがんばるんだと、こういう主張を出した意味は、これは重大なる一つのモメントがあるんだから、これはやはり鳩山兼摂外務大臣の時代のことであったと思うが、その点についての外務大臣と総理大臣との間の話し合いはほんとにうまくいっていたのかどうか。

われわれはそうでないというような、むしろ鳩山さんの説の、それを発言はしていないにせよ、口裏を通じて感じられるが、その点現在ほんとうにうまくいっているのかどうか、この点を第一点として伺っているわけです。

それから第二点については、これも今の御答弁では完全にその要点に触れていないのであって、何ゆえにこの時期になって南千島についての問題をアメリカに問い合したのか。

当然にもっともっと前にこのくらいのことは問い合せたり、あるいはさらにアメリカ関係の領土についても当然御交渉があって、その上に立ってソ連に対しても領土権を主張すると、これで初めていわゆる自主独立の外交だと思う。

従ってなぜこの時期に南千島についてのこういうようなあれをされたかどうか、そのはっきりしたソ連との交渉の時期に関連して、なぜこういうときにこういう交渉をされたかということについて御説明は全然承わっていない。

 

○説明員(寺岡洪平君)

事務当局の方から……。当時私が事務当局におりましたので、いささか当時の事情につきまして御説明しておきますが、第一に政務次官から、当初日本側が南樺太、千島、歯舞、色丹全部を要求したと言われましたが、実は正確に申しますと、占領軍の撤退ということを申しておりましたが、それは要するに、これはまだ日本領であるという建前で、同時にこれはサンフランシスコ条約の当事国でございませんから、ソ連がサンフランシスコ条約の当事国でございませんから、その意味で日本側の主張をそういうような言い方にしておったのでございます。

しかるに、その場合の言いました動機は、要するに歯舞、色丹とかあるいは千島とか分けましても、これはいたずらにサンフランシスコ条約によって得ましたところの日本の権利義務ということにこだわる向きがございましたので、全体の地域についてソ連側の撤退を求めるというふうにしたわけでございます。

しかるに歯舞、色丹につきましてソ連側が譲歩をしてきたという段階になって参りますと、歯舞、色丹と南千島、あるいは北千島、南樺太というものと分ける必要がございませんので、それは同時にサンフランシスコ条約の対象になった地域につきまして、日本側で特に留保した歯舞、色丹を除きましたので、そこでもっと具体的にいたしまして、ソ連側には具体的な要求をしたというのが経緯でございまして、これにつきましては外務大臣と総理大臣との間には全然意見の相違はなかったと私申し上げて差しつかえないと思っております。

それからアメリカ側に連絡した云々の件でございますが、これは新聞情報が実は誤まり伝えておりましたので、その意味は、実は新聞情報を基礎にしてお考えのように私は考えるのでございますが、この交渉は事務的にずっと前からしておりましたことでございまして、これは事務的に行なっておって、何も急にそのときに出てきたことでもないので、その点は御了承願っておきます。

 

○曾祢益君

私はまあこれ以上御質問申し上げませんが、ただ誤解を避ける意味において申し上げたいと思うのですが、私は決して、特に旧自由党の諸君のように、領土問題等に非常な厳重な条件をつけることによってこの国交調整そのものを事実上引き延ばすとか、あるいはデッド・ロックにぶっつけるという、いささかも挫折させるつもりではない。

ただ、その交渉のやり方について納得し得ないものがあるので申し上げ、伺ったのであって、私たちの立場から言うならば、やはり日ソ国交調整というものも日本の平和安全のために、さらには日本のより自主独立の外交の立場を築く上に大局的見地からこれを推し進めて、そうしてなるべくすみやかにこれを妥結しなければならぬ、こういう基本的な考えに立っております。

でございまするけれども、また同時に領土問題について日本国民の希望ということを考え、その主張の正当性を考えるならば、またある意味では領土問題について、いわゆる返らざる領土というものについて、完全に未来永劫に発言の機会を失うような、そういう形と内容における平和条約というものも、これは非常に考えものじゃないか。

従ってそういう行き詰まりがもし今後予想されるならば、むしろ暫定的な平和取りきめといいますか、要するに戦争状態の終結を確認して、国交を回復し、そうして大使を交換して、国交調整は取りあえず、やむを得ず平和条約によらずして国交調整はすみやかにやるように、切りかえるように、われわれとしては統一社会党の前から両派社会党は主張している。

いつ切りかえろということは申しませんが、そういう展望のもとに主張すべきものは主張する。

しかし大局を見失わないようにすべきだと、こういう見地から、しかしどうも南千島が出てきた状況に必ずしも納得し得ないものがある。

ことに総理と外務大臣との意見の食い違いが、総理みずからのしばしばなる発言によってあまりにも明らかである。

さらに最近の自由民主党の新しい政策というものは、どう考えてもいわゆる国交調整の大局を失うような、きわめて世論を領土問題等であおって、そうしてむずかしい条件、たとえば引き揚げの問題は必ず平和条約の前にやるのだ、あるいは南千島についてはこの領土要求が貫徹しなければ平和条約はいつまでも結ばないというようなことを、これはもう新党の政調会長が党々と新聞紙を通じて言っておるのです。

 

第23回国会 衆議院 外務委員会 第1号 昭和30年11月30日

○穗積委員 今の問題についてはきょうは時間がありませんから、これ以上追及しません。次の機会に私はもう少しお尋ねしたい材料がありますから、その機会にいたしたいと思います。続けて外相のお考えをお尋ねいたしたいのは、領土の問題が今日の日ソ交渉の大体の焦点になっていることは、自他ともに認めるところであると思うのです。それに対して新聞発表によりますと、あなたは南千島の返還をロンドン会議で妥結をしたい、最終決定をしたい、こういうような御意見のようでございますが、それが真実であるかどうか、第一にお尋ねいたします。もしそれが真実であるならば、それはいかなる条約上の根拠によってそういう主張をされるのか。実は私どもに対するフルシチョフの発言というのは、そばにブルガーニンがおりまして、フルシチョフ君の発言は全部政府の意見であるとして聞いてもらいたいということでございますから、政府の発表としていいと思うのですが、これらの考えは、条約通りに参りましょう、これは繰り返し言っております。領土問題については、条約通りに参りましょうということです。従ってロンドン会議を促進しようとするならば、この領土問題に対する条約の解釈並びにそれに対する具体的な考え方がなければ、これ以上ロンドンに松本全権をお送りになっても、こちらの考えがはっきりきまっていなければ交渉はさっぱり進まない。向うの非難するごとく、一にかかって日本側の態度にあるという非難がそのまま当る結果になりますから、領土問題に対するあなたの具体的な考え方を知らしていただきたい。なお念のためちょっとお断わりしておきますが、ロンドン会議での話し合いは、お互いに発表しない約束になっているということをいっておりますが、これはマリクの口からは発表はございませんが、ブルガーニン、フルシチョフは、今領土問題に対するそれ以上の責任者でございまして、それが明瞭に、われわれに対してまたは世間に対して、プラウダを通じて発表しておるわけですから相手が発表しておることに対しては、こちら側もそれに対応するだけの意見は、発表して何ら差しつかえないと思いますから、この際隠蔽されることなしに、率直に一つ聞かしていただきたい。

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○重光国務大臣 領土問題について、モスクワでわが議員団とお話がいろいろあった。領土問題は条約通りにやろうじゃないか、こういうことを向うが言われた。これは交渉の内容じゃないか、こう言われますが、これは理屈になるかもしれぬけれども、交渉の内容でも何でもない。第一議員団はどういう権限を持って交渉をされるわけであるか、交渉の権限はない。

○穗積委員 交渉したとは言いませんよ。向うの責任者が発表したのです。しかも歯舞、色丹と具体的に言っておりますよ。条約通りにやるということは基本的態度です。交渉したとは言いません。向うの発表した意見のことを言っておるのです。

○重光国務大臣 これは交渉じゃないけれども、こういうつもりだと政府の責任者なり党の責任者なりが言うことは、私は大いに参考になると思う。これはその通りだと思います。そこで内容になりますが、今あなたは千島のことを言われた。私はこれは……。(穗積委員「先方の態度はわかっているから、こちらの態度を聞いているのです。」と呼ぶ)僕の言うことを聞かないのですか。私はそのことだけについて議論をするならば、私もそれに賛成をします。条約通りやるのだ。それは少しも差しつかえないが、条約通りにやるということはどういうことであるかというと、日本はソビエトに対しては千島をどうするという条約は今までない。どんなにもない。それだから千島をどうするかということは、これから交渉してきめることが今日差し迫った問題であります。それをきめよう、こういうのが私どもの態度であります。

〔穗積委員「どうきめるつもりですか、これを聞いている。南千島に限ったのはどういうわけです。」と呼ぶ〕

○植原委員長 穂積さん、外務大臣の意向を聞いてあとで質問願います。

○重光国務大臣 どうきめるということは、交渉の方針によってきめます。そして党においてはこういう考え方を持っている、そこで私は与党の考え方には賛成だ、こういうのです。(穗積委員「それはどういうことですか。」と呼ぶ)南千島は日本の国有の領土として主張する、こう言っている。条約通りといっても、条約は日本とソ連との間に何もない。これからきめるのです。

 

第23回国会 衆議院 本会議 第2号 昭和30年12月2日

○鈴木茂三郎君 鳩山総理の所信に対しまして、日本社会党を代表して若干の質疑を行います。(拍手)
この臨時国会は、革新と保守の二大政党の形態、形だけではありますが、形ができて、国民の民主政治に対する期待が大きくなっております今日、私どもの責任はきわめて重いと考えまして、私は、第二次から第三次への鳩山内閣の政権の授受と関連して、鳩山総理の議会政治と民主政治に対する信念をただし、次に、日本の自主独立を達成するための立場から、日ソ、日中の国交回復に関する総理の外交方針をたださんとするものであります。(拍手)
第一の、議会政治と民主政治に関する総理の信念について、私は五つの問題をお尋ねしたい。
第一点は、第二次鳩山内閣の総辞職の理由であります。わが党は、去る八月二十三日に、憲法第五十三条に基き、成規の手続によって、第二次鳩山内閣に臨時国会の早期開会を要求し、その後九月と十月に再び三たび政府に開会を督促しております。わが党の臨時国会開会の目的とするところは、国民の切実に要望しておる地方財政の窮乏とか、災害の復旧とか、当面の緊急な事態に対処するに必要な財政措置を織り込んだ補正予算や、行き詰まった日ソ交渉、中共関係や、日比賠償等の外交問題を妥結して推進するために、国会の審議を緊要と考えたからであります。しかるに、鳩山総理は、ここにようやく臨時国会を召集したにかかわらず、卒然として総辞職と首班の指名を行い、臨時国会の目的たる当面の緊急措置に関する方針、政策は何も示さないで、所信とはいえ、憲法改正とか、行政整理とか、税制の問題とか、国民がパンを求めておるときに、政府は砂をかませるようなお題目を与えておるのであります。(拍手)申すまでもなく、第二次鳩山内閣は、鳩山氏の私的な内閣ではないはずであります。二月の総選挙による国民の総意に基き、比較多数の少数党ながら、政権授受の民主的ルールに従って堂々と成立した第二次鳩山内閣でありますのに、どういう理由で総辞職したのか、国民にも国会にも何ら理由を示しておらない。つまり、第二次鳩山内閣は暗やみの中で消え去ったわけであります。責任内閣の民主政治の今日、内閣がやみからやみへ国民の前から消えてなくなったというようなことは、私は民主政治においてあるまじき奇怪なできごとであると思う。(拍手)鳩山総理の所見をただしたい。
第二点は、総辞職の理由を鳩山総理がいかように理由づけられようとも、前回の第二十二回の特別国会において、第二次鳩山内閣は少数党内閣として国会を乗り切る能力がなかった。しかも、進んで国会を解散する気力もかかった。言いかえると、第二次鳩山内閣は、総選挙に当って国民に公約した政策の実行はできなかったのであります。総理は、本日、憲法の改正その他の、できそうにない三つの政策を御提案になっておる。これも例によって政策の空手形となることは明らかでございましょう。平和憲法を改正して軍国主義を復活せんとするような憲法改悪は、社会党が二大政党の対立物としてここに厳存する今日、断じてできないはずであります。(拍手)国民が期待しているのは、そういう雲かかすみか呉か越かといった、ぼうばくとした遠い将来の政策でなく、第二次鳩山内閣の古い公約を実行し、歳末を控えたきょうあすの緊急な措置に対する具体的な対策を国民は政府に要求しておるのであります。(拍手)従って、第二次鳩山内閣が総辞職した理由は、かように国会の運営と政策の実行の行き詰まりにあったことが、現実に照らして明々白々であるのであります。かかる場合、鳩山総理のとるべき当然の道は、総辞職をして野に下り、新たな総選挙を通じて、国民の審判を待って次の首班をきめるという政権授受の民主的ルールの道を選び、国民にその政治的責任を明らかにすべきであった。総理はこの点に関してどう考えられるか。
第三点は、鳩山総理は、自由民主党ができて与党の基盤の変ったことを総辞職の理由としているようにも推測できる。確かに、総選挙によらないで、国会内における人為的な議員の集合によって与党の基盤に変更があったことは、その通りであります。しかしながら、自由党と民主党は、前回の選挙で、その方針も政策も全く対立した二つの政党として国民の審判を受けてきておる。(拍手)選挙後は引き続き与党と野党という対立の関係にありました。従って、よしんば合同したとしても、私は国会を解散して国民の審判を受けるのが当然であると思う。総理の所信をただしたい。(拍手)
第四点のお尋ねは、政権授受の民主的ルールに関する問題でございます。ききに、第一次鳩山内閣の成立の当時、日本社会党から鳩山民主党総裁に、政権授受の民主的ルールは、国会を解散し、選挙による国民の審判の結果に基いて行うべきであると、かように提案したのに対して、鳩山総裁は、自分もその通りであると思う、社会党の提案はまさしく天の声として実行すると確約されておる。(拍手)こうして、初めて政権授受の民主的ルールができて成立したのが第二次鳩山内閣であったはずであります。鳩山総理は、さきには、こうした政権授受の民主的ルールを天の声として聞き、今回は、こうした天の声を聞こうともしないで、さきに作った民主的ルールを踏みにじったのはどういうわけであるか、承わりたいのであります。(拍手)
第五点は、革新と保守の二大政党の形態の民主政治のあり方に関してであります。総理は、今回の形式的な二大政党の形を見て、あたかも英国型の民主政治ができたかのような印象をしいて国民に与えようとしているようである。しかし、私の信ずるところによれば、革新と保守の二大政党の対立を通じて民主主義の確立と建設的政策の行われる二大政党の本質的な意義は、政権が、保守から革新へ、あるいは革新から保守へ、与党から野党へ、あるいは野党から与党へと、人為的な作為なしに、政権がなめらかに受け渡されること、ここに二大政党の本質的な意義があると思うのであります。(拍手)英国において、野党たる反対党を予備的な政府といい、また陰の内閣というのはこれがためであって、かくてこそ二大政党の民主政治と言うことができるのであります。総理は、政権授受の二大政党の民主的なルールをじゅうりんして、そうして、みずから不明朗な政治的かけ引きによる保守合同を行い、保守派の陣営に政権を永久に独占しようとはかって、政権たらい回しを行った。(拍手)
二大政党の本質に関しまして、以上総理の所見をただし、私は次に外交問題についてお尋ねをいたします。
日ソ交渉の開催に先だって、重光外務大臣は、五月二十六日の議場の演説において、今回の交渉の目的は、日ソ両国の国交の正常化、すなわち、戦争状態を終結し、平和条約を締結し、もって国交を回復して外交使節を交換すること、これが目的であるとして、次いで平和条約の骨子となる諸条件を明らかにし、さらに、北海道所属の島々、千島、南樺太の領土問題その他の愚案についても、極力その解決に努力する所存なる趣旨を述べられております。これを要約すれば、政府の日ソ交渉の目的は、まず国交を正常化して外交使節を交換することが先決だということが明らかにされておるのであります。これは外相の演説がさように解釈できるだけではありません。総理が国民に今日まで与えてきた印象もそらくみ取られ、また、私もそう信ずべき根拠を持っている。総理の方針はこれと今日変りないと了解してよろしいか。
次に、かかる方針によってロンドンで進められた日ソ交渉の経過を見ると、新しく取り上げられた南千島の問題が交渉の障害となっているようであります。この南千島の問題に関連して、さきに政府はアメリカ政府に何らかただされた。その回答が到着いたしました際に、鳩山総理は、南千島の返還はむずかしい、保守合同の実現する前に両党で話し合わなければならないとの、いわゆる鳩山発言なるものを、国民はきわめて重要な総理の発言として今日受け取っております。総理は今日なお当時と同一の意見と了解してよろしいか。私がここでかような総理にだめ押しのようなお尋ねをいたしますのは、今日まで鳩山総理と電光外相の間に外交の方針上重大な意見の相違のあるこどを私はよく知っているからであります。私は、日本の国際的地位を高め、外交交渉を有利に、また円満に解決するために、総理と外相の間の意見の相違を遺憾とし、憂慮いたして参ったものでございます。
さらに日ソ交渉について一点お尋ねいたしたいことは、総理は、今日まで、日ソ交渉を保守合同の犠牲としないということ、並びに早期解決をはかるということを、国民に対してもしばしば表明されてきております。総理の言う早期解決とは、領土は一応歯舞、巴丹の線にとめ、本格的な領土問題とは直接に関連のない平和条約をまず早期に締結したいとの趣旨であると私は了解をいたしております。ところが、南千島の問題について、保守合同の実刑する前に話し合いたいと語り、話し回った上で保守合同をやったことは、明らかに日ソ交渉を保守合同の犠牲とし、さらに早期解決をおくらせた結果ともなり、国民を欺瞞したことになるのではないか。(拍手)総理の良識はこれをどう考えておるか。
外交問題について次にお尋ねいたしたいことは、中国との国交を正常な状態に回復して貿易の伸張その他の諸懸案を解決したいとのさきの総選挙における鳩山総理の公約が今日いかようになっておるかという点であります。(拍手)私は、今日、外務大臣の報告を受け取りました。日本の隣の国の巨大な中国の問題に一言も触れておらない外交方針が何の役に立ちますか。日中両国の領事による会談は今日頓挫しておる。日中の関係は今日めんどうになっておる。総理も、また外相も、日中関係がめんどうになり、頓挫しておることは確認されておるところであります。私は、これは政府の重大な日中外交上の明らかな失態であると思う。こうした失態を、米ソの関係が悪化した、国際情勢が変化したという外的な条件だけで弁護しようということは許されない問題であります。しかも、重光外務大臣は、さきに、アメリカに出立されるに際して、アメリカより帰国後は中国に対して何らかの手を打ちたいということを、ある機会に明らかにされております。しかるに、外相は、アメリカから九月八日に帰国して以後、何ら外交の手を打っておらない。ただ手をこまぬいて、日中間の関係が次第にめんどうになることをながめているだけじゃありませんか。(拍手)これは鳩山総理も同じことである。最近日本を訪れたアメリカの国務次官フーヴァー氏に、総理は、日中間は、アメリカと違って、友好関係が日本のために必要であるとの日本の特殊な立場を説明されたやに私は承知いたしております。しかるに、総理もまた、中国に対して適切な措置をとるべく何ら努力されていないではないか。そういうことで、総理は日中の関係を今後どうしようというのか、明確な、しかも具体的な方針を承わりたいのであります。
最後にお尋ねいたしたいことは、こう見てくると、総理も外相も日ソ、日中の外交その他日本のために必要と考えられる外交を何もやっておらないのでありますが、一体これはどうしたことか。何者かが総理や外相の外交の自由を制約しているのではないか。これは国民のだれでもが今日持ち続けてきた深い疑いであります。いや、今日では、もう疑いではない、外国の何者かが日本のための日本の外交を制約していると国民は信じて疑わない状態が現実となっているのであります。(拍手)私は、日本のための外交——中ソとの国交の正常な回復、東南アジア諸国とのアジアのための真の友好関係を樹立するためには、それを妨げるための日本の外交に対する他のあらゆる制約を排除しつつ、日ソ、日中その他日本を有利にする外交を強力に推進して、国際的日本の地位を高め、平和と安全の道を切り開いていくこと、私は、このことは、同時に日本の自主独立を達成し、完成する道と同じ一筋の道であると思うが、総理の所見はいかがでありましょうか。(拍手)
また、これと関連して起っている、まことに慨嘆にたえない問題は、外国のために土地を取り上げられようとして、同じ日本民族が血で血を洗うような軍事基地拡張の問題のあることでございます。(拍手)政府は、防衛費の総額は前年度のワク内にとどめ、駐留軍の撤退を期するという国民への公約に反して、砂川だけではなく、原水爆基地や、オネスト・ジョンの発射のような重大な問題が今や全国的な問題となっております。総理は政府の首班として権力を持っている。警察力を握っている。従って、祖先伝来の土地を外国のために無慈悲に取り上げられようとしている国民に対して、総理の政府は強権をもって弾圧を加えることができましょう。しかし、強権や弾圧は民主政治ではありません。友愛政治ではありません。そういうことをしてだれが喜ぶと思いますか。総理。(拍手、発言する者あり)私は、総理は、外国を喜ばせるかわりに、土地を無慈悲に取り上げられる国民のために、外国に考え直してもらうこと、私は、これが政治である、これが外交であると思いますが、どうでありますか。自主独立の達成や完成は、言葉では言いやすく、行うことはむずかしいことであるに相違ないが、政府が国民のためにそれをやらないで、だれがやりますか。それを国民にやらせるような外国のための強権と弾圧の政治が引き続き行われる結果は、民主主義に反する重大な事態を引き起すことを私は総理が静かにお考えになることをお勧めして、私の質疑を終ります。(拍手)
〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕

○国務大臣(鳩山一郎君) 鈴木君の御質疑に対して答弁をいたします。
総辞職をいたしました理由は、与党の基盤が変ったからであります。総辞職をいたすのを妥当と考えました。鈴木君の、政権の移動は総選挙によるべしとする民主的ルールについても、鈴木君の御意見には、私は原則としては賛成であります。むろん、チャーチルがイーデンに譲りましたような場合は、この原則の例外をしておりますが、原則としては鈴大君の意見に賛成です。しかしながら、このたびのは政権の移動ではないのであります。この民主的ルールの適用は受けないと考えます。(拍手)このたびの第二次内閣が第三次内閣になったのが政権の移動でない限りは、政権たらい回しというあなたの御議論は適用はないのです。これは間違っております。(拍手)
日ソの交渉につきましては、日ソの国交の正常化、すなわち、戦争状態終結確定の自体を作るということが日ソ交渉の目的であることは当然であります。日ソ交渉の目的が変更したということはございません。戦争のない状態にするのには、抑留者の帰還とか、あるいは領土の問題とか、占領されておる土地の返還とかいう問題は、この正常にするという問題の中に当然含まれているのでありまして、決して目的を変更したというわけではございません。(拍手)
第三に、基地の拡張についての御意見がありましたが、これは安保条約の義務の履行をやるのでありまして、しこうしてまた日本防衛の必要上やるのでありまして、実施について国民を圧迫しないように、できるだけの骨折りをするということは当然なことであります。(拍手)
〔国務大臣重光葵君登壇〕

○国務大臣(重光葵君) お答えいたします。私に対する御質疑は、外交問題、日ソ交渉及び中共の問題であったと思います。
日ソ交渉については、今鳩山総理からお答えした通りに初めからやっております。(拍手)私は、今言われたように、問題を解決せずして国交の回復だけをやるというようなことは、全く言ったことはございません。そして、それは初めから御存じの通りであります。それから、中共の問題について、しきりに中共に対して手を打てと言われる。何の手を打て……。(発言する者多く、議場騒然)おそらく中共を承認しろということであろうと思いますが、私は中共を承認することは日本の地位の上からできないということを申し上げておきます。
〔発言する者多し〕

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第23回国会 衆議院 予算委員会 第1号 昭和30年12月6日

○北澤委員 質問の第三点は、日ソの交渉の問題でございます。自由民主党の結成に際しまして、新党の緊急政策として発表されましたものの中に、日ソ交渉についてわが方が堅持すべき主張を掲げました。特にこの重要な抑留者引き揚げ問題及び領土問題につきましては、抑留邦人を即時完全に帰還せしむること、歯舞、色丹、南千島を無条件に返還せしむること、その他の領土の帰属は、関係国間において国際的に決定することを明記しております。この点は、保守合同を実現するための旧民主、自由両党の間のいわば条約ともいうべきものでありますからして、政府におきましては、これを十分に尊重されまして、一つ不退転の決意をもってあくまでこの主張を貫徹するまで交渉を継続すべきものと思うのでありますが、一つ念のために鳩山総理及び外務大臣の御所見を伺っておきたいと思います。

○重光国務大臣 政府は、交渉に当りましては、むろん政府の方針で参るわけでございます。しかしその政府の方針は、今言われました党の発表の政策もそれに含まれる、こう考えまして、すなわちその趣旨は少しも異存がない、それによってやることにいたしております。それに向っては、主張すべきはあくまで主張して進んでいきたい、こう考えております。

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第23回国会 衆議院 予算委員会 第2号 昭和30年12月7日

○重光国務大臣 ソ連との領土問題を交渉するためには、いろいろな材料を整備しなければなりません。そうして御承知の通りにソ連側はヤルタ協定等も議論に引用するわけでございます。それでありますからヤルタ協定というものはどういう性質のものであるかということは、米国側に十分問い合せをいたしました。その結果、日付はよく記憶をいたしませんけれども、先方の解釈も参っております。ついでながら、その解釈はどういうことであるのかという大要を申し上げます。ヤルタ協定はソ連との間に日本の領土について話し合いをしたけれども、それがはっきりと千島はどういう範囲の島々が千島だということじゃない。ただぼんやりと千島ということで話し合いをした。従って、その千島をどういう工合に解釈して交渉をするかということは、日ソ両国の間の問題であるというような大要の話でございました。これは大体話としてはわかる話でございます。その見地に立って、領土問題についてはわが方の信ずるところをもって交渉に臨んでおるわけでございます。

第23回国会 衆議院 予算委員会 第2号 昭和30年12月7日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

○鳩山国務大臣 たびたび申しました通りに、国交を正常化するということは、つまりソ連との戦争状態のなかったような事態を持っていきたいということなのであります。そこで戦争中に生じた日本固有の領土の占領等は、当然に解決しなければならない問題になりますし、なお戦争によって生じた未帰還の人々の抑留をも、できるだけ早く帰さなくちゃならぬ、これらの問題が国交調整の材料になることは言うまでもないことであります。それらの問題を解決して、平和条約を結んで国際関係を正常化したい。これは最初も今日も同じなのであります。歯舞、色丹でもって満足しますということを私言った覚えはありません。とにかく、領土問題についても解決しなくてはならない問題の中に入るということだけは言ったことはあるのですが、その要求する島は歯舞、色丹だけだということはかつて言ったことはないのであります。今日もどれだけの島をとらなければいけないということは、私は知らないのですが、とにかく外務省において適当にやっておるわけであります。

第23回国会 衆議院 予算委員会 第2号 昭和30年12月7日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

1955年 12 月7日の衆議院予算委員会

1955年11月の保守合同による自由民主党の結党に際して決定された緊急政策の中で、日ソ間の領土問題については「歯舞、色丹、南千島(北方四島)を無条件で返還せしめる」及び「その他領土の帰属は関係国間において国際的に決定する」との方針が定められた。

1955年 12 月7日の衆議院予算委員会において、「上述 1955年11月の保守合同による自由民主党の結党に際して決定された緊急政策」における方針を踏まえつつ、歯舞群島及び色丹島の二島返還で妥結する可能性等を問われた鳩山内閣総理大臣は、「戦争中に生じた日本固有の領土の占領等は、当然に解決しなければならない問題」と述べた。

http://fxtrader.wp.xdomain.jp/?p=727

第23回国会 衆議院 予算委員会 第2号 昭和30年12月7日

022・水谷長三郎 (検索語が含まれています。)
○水谷委員 それでは二月の総選挙に鳩山総理大臣が天下に声明されました日ソ国交調整の方式と、ロンドン会議におけるところの日ソ国交調整の方式とは、変ったとわれわれは解釈していいのですね。——そうですが。そこで私はあなたに聞くのです。今度のいわゆる保守合同において、従来あなたの政策というものは、犠牲にされたかされないかということを私は聞きたいと思うのです。そこであなたは今度の本会議におきましても、でき得る限り早期妥結の方向に持っていくということを言っておられます。それから外務大臣は抑留邦人の即時送還とともに、領土問題についても、歴史上常に日本の領土であった諸島の返還ということを主張されております。さらにまた自由民主党の緊急政策を拝見いたしますと、一は抑留者の即時返還、二は歯舞色丹、南千島の無条件返還、その他の地域については国際的な決定に待つということを言っておるのであります。この自由民主党の緊急政策というものを拝見いたしますと、あなたが二月に天下に声明されました日ソ国交調整方式というものは、こっぱみじんに粉砕されたと言わなくてはならぬと思うのです。そこであなたにお聞きいたしますが、このロンドンの十五回にわたる交渉におきまして、自由民主党の緊急政策にうたわれておる抑留者の即時返還であるとか、歯舞、色丹、南千島の無条件返還であるとか、その他の地域については国際的な決定に待つということが、たやすく従来の交渉において実現できる問題であるとお考えになっておるかどうかということをお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/22

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023・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 なるたけ早くしたいという希望を持っておるのでありますが、それがいつごろきまりますかは予見はできません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/23

024・水谷長三郎
○水谷委員 いや、私は早期妥結の見通しを聞いておるのでなしに、その自由民主党の緊急政策である三つの問題が、ロンドンの会議の十五回の交渉においてどのように取り扱われたか、そしてそれはあなたの見通しにおいて−は、たやすくそれが貫徹できるという工合にお考えになっておるかどうかということをお聞きしたいのです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/24

025・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 その見通しはつきません。希望は持っておるということを申したのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/25

026・水谷長三郎
○水谷委員 そうすると何ですか、望みなきにあらずという御答弁ですね。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/26

027・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 そうです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/27

028・水谷長三郎 (検索語が含まれています。)
○水谷委員 それは小説の言葉ならばそれでいいですけれども、議会の答弁としては私はきわめて不完全であろうと思うのです。だれしも交渉するのに希望を持たない交渉というものはありません。しかし十五回も交渉を重ねて、しかもソ連の第一書記の言葉をかりて言えば、それは茶飲み話だというようなことを言っておる。さらにまた最近の訪ソ議員団に対して、ソ連の第一書記が答えた点は、抑留者というものの返還ということは、これは間違っておるかどうか知りませんし、また人道上からいってもけしからぬ問題であると思いますが、これはやはり何らかの協定ができた直後でなければ返還はできないということを言っております。さらにまた領土問題に関しては、すでに訪ソ議員団に正式に声明したところによれば、これはもう両条約——ヤルタ協定、あるいはソ連が最後まで参加はしなかったけれども、サンフランシスコの平和条約においてもはっきりきまっておるのだ、ただ歯舞、色丹だけは——小千島は日本に非常に接近しておるから恩恵的にお返ししてもよいというようなことをはっきりと言うておるのです。現に松本全権もロンドンから帰りました直後におきましては、日本人は大きな誤解を持っておる、ソ連案を、いとも簡単に歯舞色丹を返すと言うたように誤解を持っておる、しかしそうではない、これはこういうようないきさつで言ったのだと申しておりますから、日ソ交渉の一番中心であるところの抑留者の即時返還、そしてまた領土問題ということに関しましては、相当むずかしい見通しをわれわれは持たざるを得ないのです。われわれは野党におるといえども、党の幹部の一人といたしまして、日ソ交渉に対するいきさつというものはある程度知らされております。総理大臣の鳩山さんは一から十までよく御存じであろうと思いますが、この三つの緊急政策というものが、あなたの総選挙当時に唱えられましたまず何よりも暫定協定、さらにまたこのたびの本会議において述べられましたように、でき得る限り早期に妥結するというような立場に立ちまして、これはどういう見通しを持っておられるかどうかということを私は率直にお聞きしたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/28

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029・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 今までの答弁で御推察を願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/29

030・水谷長三郎
○水谷委員 それでは総理大臣はおそらくこれは外交の機密にわたるから、もうこれ以上聞いてくれるなということだと私は拝察いたしまして、それではあなたの意を体して、これは私は私なりに推察したいと思います。ただあなたの立場といたしましては、二月選挙にあれほど天下に声明いたしましたいわゆる日ソの国交調整をまずやらなくてはならない。そのためには平和条約よりも先に戦争状態終了宣言をやるべきだという方式が、今度の合同におきましては根本的にくつがえされたことは、あなたのために非常に遺憾であるということだけをお悔みの言葉として申し上げておきたいと思うのです。
そこで私はあなたにお聞きするのでございますが、今度松本全権がロンドンに帰りますが、帰りましたあとにおきまして交渉を重ねて、特に領土の問題につきましてソ連は歯舞、色丹以外は返すことができないという従来の立場を変えなかった場合、すなわち領土問題におきまして壁にぶち当った場合におきまして、日本政府はどういうような決意と処置をおとりになる考えかということをお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/30

031・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 その問題についてただいま意見を発表する時期ではないと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/31

032・水谷長三郎 (検索語が含まれています。)
○水谷委員 これは国民としては非常に心配しておるのです。これは国民の政治的意識というものも新聞、ラジオその他を通して最近は非常に高まっておりまして、日ソ交渉というものがいかようにむずかしいものであるかどうかということは非常に心配しておるのです。また遺家族は遺家族の立場からこれも非常に心配しておることは、あなたもよく御存じであろうと思うのです。そこでこれは私の考えというよりも党の考えでありますが、日ソ交渉の見通しといたしましては、大体三つしか私は想像ができないのではないかと思うのであります。その一つは、日本が主張すべき主張を譲らないでついにそれが決裂に終るという、決裂かどうかということが第一の問題であろうと思います。第二の問題は、日本がソ連の言いなりほうだいになって何らかの協定、条約を結ぶのかどうかということです。第三は、とりあえずまず暫定協定を結んで、そして抑留者を帰してもらい、領土問題その他の懸案は大使の交換その他を通してこれをゆっくりやるかどうかという、この三つの方式しか残されておらないと思うのであります。わが日本社会党はその政策といたしまして、ソ連の問題に関しましては、日ソの国交調整は戦争状態の終結と平和国交の回復を主眼とする簡素な平和条約の締結によるものとする。領土についてはアメリカ関係の小笠原、沖縄の返還と関連して歯舞、色丹、千島、南樺太の返還を要求する。このアメリカ関係の小笠原、沖縄の返還と関連してということは、これは大事なことでございまして、今の日本のように単にソ連に向って領土だけを主張するという立場と日本社会党とは根本的に違っておると思うのでございます。(拍手)さらに第三におきましては、万一平和条約の交渉が遅滞する場合は、とりあえず両国間の暫定協定によって戦争状態の終結を確認し、即時戦犯及び抑留者の帰国を実施するとともに、代表部を交換し引き続き平和条約の締結その他の諸懸案の解決をはかるというこの三つの考え方にしぼっておるのであります。今や日ソ交渉は松本全権のロンドンへ帰ることを契機といたしまして、この三つを日本政府がそのいずれを選ぶべきかということを私は決意せねばならぬと思う。この日ソの国交調整問題というものは、ひとり鳩山内閣だけの問題ではございません。これはわれわれ野党の立場からいたしましても、でき得るならばお助けしたいところの問題であり、また全国民的の念願であることは言うまでもないと思うのです。私は今や松本全権がロンドンへ帰ることを契機といたしまして、日ソ交渉はこの三つのうちいずれをとるべきかということに追い詰められる段階がもうそう遠くないと思うのです。あなたは早期解決ということを言われておりますが、失礼であるかどうかしれませんが、四月には総裁の公選も行われるというようなことになるのです。もし総裁の公選が行われて、万々一あなたがおからだの都合によりまして、政界を引退されるというようなことになれば、あと日ソ交渉がどうなるかということは、われわれは非常に心配せざるを得ないのです。従って好むと好まざるにかかわらず、あなたが早期解決を言われる以上は、常識から言えば三月一ぱいにはこれを何とかせねばならないというところに追い詰められていることは言うまでもないのです。このいわゆる三つの点に関しまして、あなたはどう考えられますか、あなたは二月選挙の場合におきましては、第三の暫定協定ということを盛んに言われておったのでございますが、今はロンドンで交渉を重ねましてこの三つのうちにおいてどの方式をもってやらねばならないか、その点を率直にお答えを願いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/32

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033・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 先刻申しましたように、現在わが国の主張すべきことをできるだけ主張したいということを考えておりまして、それがどういう場合にはどうするかということを今日申すべき時期ではないと思います。御遠慮いたしたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/33

034・三浦一雄
○三浦委員長 暫時休憩いたします。
午前十時五十九分休憩
————◇—————
午前十一時四十四分開議
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/34

035・三浦一雄
○三浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
水谷長三郎君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/35

036・水谷長三郎
○水谷委員 午前中私は質問をやっておったのですが、ちょうどナイターのラッキー・セブンに電気が消えたようなもので非常に何ですが、さきに日ソ交渉問題に関しまして総理と私との質疑応答につきましては、外務大臣も最初からお聞きのことであろうと思うのでございます。そこで外務大臣に二点伺いたい。まず第一点は、日ソ交渉に非常に参考となる西ドイツの問題、いわゆるアデナウアー方式に対しまして、日本政府の外務大臣といたしまして、どういうお考えを持っておられるかということをお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/36

037・重光葵
○重光国務大臣 御質問の趣旨が私よくわかりかねますが、ドイツはドイツとしての立場をもって独ソ関係に処しておることと思います。日本は日本としての立場をもって日ソの交渉を今開始しているわけでございます。ドイツにおきましても、ドイツ現政府のソ連に対する交渉のことについて、非常に国内に議論があるということも私はよく承知をいたしております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/37

038・水谷長三郎
○水谷委員 そんな東は東、西は西というような答弁を私は要求しているのではございません。ドイツのああいうアデナウアー首相がやりました点に対しましては、いろいろ批判もありましょうが、しかし今同じくソ連を相手に交渉しております日本の立場から、そして日本の外務大臣から、ああいうような交渉のいきさつ、結果に対して、どういうようなお考えを持っておられるかということを私は聞いておるのであります。だからその点に関しまして私の質問に対しまして、的をはずさないように御答弁を願いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/38

039・重光葵
○重光国務大臣 私は少しも的をはずしておりません。日本は日本の立場をもって進まなければならぬ。ドイツはドイツの立場をもって進んでいたことである、こう私は観察をしております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/39

040・水谷長三郎
○水谷委員 日本の外交が日本の立場でやらなくてはならぬということは、幼稚園の子供でもわかっておるのです。しかしやはり交渉の相手が同じならば、他国のことも参考になることは言うまでもないと思うのです。そこで私は、さきに鳩山総理大臣におきましても日ソ交渉の結論は大体三つの方式しかないということを私は言っておるのでありまして、現にソ連の第一書記は訪ソ議員団の北村団長その他の人に、ドイツの例を引いて、そうして日本はこれと反してロンドンにおいて友好的にお茶ばかり飲んでおるというようなことを言うたことも、これは事実なのです。だから私はドイツのああいうような交渉の結末のつけ方、これは私がさきに申しました一、二、三の第三の、いわゆる暫定協定ということに入っておるのですが、ああいうことに対しまして、重光さんといたしましては、ああいう行き方は賛成なのか反対なのかどうかということを端的に聞いてもけっこうです。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/40

041・重光葵
○重光国務大臣 モスクワにおきまして先方の首脳部の一員が日本の視察団に対して、ロンドン会議はお茶を飲んで過しておると言ったことがあるということも、私は承知をいたしております。しかしながら、ソ連はロンドン会議を少しでも結末をつけていきたい、進渉させたいという希望を持っておると私は判断しております。それは間違いないと思います。従ってさようなロンドン会議がふまじめなものでないということも、ソ連もよく知っておることだと思います。私はさような場合においては、そういうふうなことで日本は交渉に臨んでおるのじゃないということを、はっきりソ連側にも言っていただきたかったのであります。しかしそれはそれにしておきまして、今三点を言われました。社会党の政策は、暫定協定をして、あとのことは領土のことでも何でもみんなあとでよろしい、国交が回復した後でよろしい、今解決するに及ばない、こういう御議論であるということを十分今御説明によって私も承知をいたしました。私どもの立場、すなわち政府の態度は、たびたび私からも、また特に鳩山総理からも本日の席において申し上げた通りに、日ソ間における重要なる懸案、問題は解決をして、そうして平和条約をこしらえてそれによって国交を正常化する、こういうロンドン交渉において日ソとも合致した方針のもとに、交渉を進めていくということにあることを繰り返して申し上げる次第でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/41

042・水谷長三郎 (検索語が含まれています。)
○水谷委員 外務大臣は実に驚き入ったデマを飛ばされるので驚いた。社会党の態度は懸案を一切がっさいあと回しにして暫定協定でいい、そんなことは私は申しませんよ。それはあなた、よくお考えにならなくちゃいかぬでしょう。私はこの社会党の政策を読んだときに、できれば第一はいわゆる平和国交の回復を主眼とする簡素な平和条約の締結をやる、目印型のああいうような平和締結でもいいがやる、とにかくできれば平和条約をやる、これはあなた方と同じ意見ですよ。そして領土問題に関しては、これはあなたのようにソ連にばかりに主張するのじゃなしに、社会党はアメリカに対しても小笠原、沖縄の返還を要求する、それに関連して歯舞、色丹、千島、南樺太の返還を要求する、こういうことをはっきり主張している。しかし相手のあることですから、万々二平和条約の締結が遅滞する場合においては、とりあえず両国間の暫定協定によって、戦争状態の終結を確認し、即時戦犯及び抑留者の帰国を実施するとともに、代表部を交換して引き続き平和条約の締結その他の諸懸案の解決をはかる、万やむを得ないときにはそうせいということを言っておる。決裂よりもそれの方がいいというのが社会党の立場なのです。ところがあなたのおっしゃることは、社会党の立場はそういうようないわゆる暫定協定を何でもやるんだというようなことを言われるならば、それじゃ私はあなたに聞きますが、うまくいかなければ決裂しようというのがあなたの本旨ですか。日ソ交渉がうまくいかなければ決裂しても差しつかえない、むしろ暫定協定を結ぶよりも決裂の方がいいんだというのがあなたの考えですか。その点はっきり答えて下さい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/42

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043・重光葵
○重光国務大臣 その点はこれはまた繰り返しはっきり申し上げておる通りであります。今日においては、わが主張を十分貫徹すべく最善の努力を尽します。今日からその主張が通らないことを予期して暫定協定を結ぶとか、決裂せしめるとかいうことは、私当局者として申し上げるわけには参りません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/43

044・水谷長三郎
○水谷委員 当局者として申すことができなければそれでよろしい。しかし他党の外交の基本方針をあなたが先ほど聞いておったにかかわらず、社会党はこういうような態度だというようなとんでもないことを言うことは、これは外務大臣として慎しんでいただきたい。これはお取り消しを願います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/44

045・重光葵
○重光国務大臣 私はそういう工合に了解しますが、しかし私は社会党の政策を私の口からかれこれ申し上げる地位にはおりません。それは社会党の方から十分に、私の解釈が間違っておるなら間違っておると言われて少しも差しつかえございません。私は今日領土問題についてソ連と交渉しようというのであります。アメリカとはすでに平和を回復しておるのであります。ソ連これから平和を回復するために最善の努力を尽そう、こういうわけでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/45

046・水谷長三郎
○水谷委員 私は外務大臣の頭を疑わざるを得ない。私が社会党のいわゆる政策は一、二、三カ条繰り返し読んだにかかわらず、今の社会党はそういうような懸案はあと回しにしていいんだ、そうしてとにかくも暫定協定をすればいいんだというようにお考えになることは、これは大きな問題です。これはやむを得ない場合で、一、二、三とあって、一もできなければ二もできない、そうしてやむを得ない三の場合はこうだということなのです。あなた方は一体何を聞いておるのですか。そういうようなことをいつまでも言う必要はないと思うのでありまして、これは大臣としては非常に大きな誤解であって、よろしく考え直していただきたいということを考えております。
それからさらに外務大臣にお聞きしますが、十月二十一日午前に新聞の報ずるところによれば、アリソン大使から外務省の谷顧問に対しまして、ヤルタ協定に関する問い合せの回答が来たということを新聞は報じております。それは事実でございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/46

047・重光葵 (検索語が含まれています。)
○重光国務大臣 ソ連との領土問題を交渉するためには、いろいろな材料を整備しなければなりません。そうして御承知の通りにソ連側はヤルタ協定等も議論に引用するわけでございます。それでありますからヤルタ協定というものはどういう性質のものであるかということは、米国側に十分問い合せをいたしました。その結果、日付はよく記憶をいたしませんけれども、先方の解釈も参っております。ついでながら、その解釈はどういうことであるのかという大要を申し上げます。ヤルタ協定はソ連との間に日本の領土について話し合いをしたけれども、それがはっきりと千島はどういう範囲の島々が千島だということじゃない。ただぼんやりと千島ということで話し合いをした。従って、その千島をどういう工合に解釈して交渉をするかということは、日ソ両国の間の問題であるというような大要の話でございました。これは大体話としてはわかる話でございます。その見地に立って、領土問題についてはわが方の信ずるところをもって交渉に臨んでおるわけでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/47

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048・水谷長三郎
○水谷委員 外務大臣は日付を忘れたと申しておりますが、各新聞の報ずるところによれば、十月の二十一日、これは正確に間違いないと思います。そこで、いわゆるこの回答が参りましたが、この問題の問い合せは、外務省は一体いつ時分にアメリカにされたのか、ちょっとお聞きしたいのでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/48

049・重光葵
○重光国務大臣 問い合せの日付は、私は記憶いたしておりません。しかしこれは日ソ交渉が始まった以後において、この交渉の準備をいたすために問い合せをいたしました。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/49

050・水谷長三郎
○水谷委員 日付はわからないが、日ソ交渉開始以後に問い合せをした。私はそれはよく知っております。これは実に驚き入った外務省の怠慢であると言わなくてはなりません。いやしくも今度の日ソ交渉の眼目である領土問題に関しましては、すでに交渉の始まる前に、外務省としては万般の準備をしてかからなくてはならぬことは言うまでもないのです。しかもその日ソ交渉の領土問題が議論されている最中にアメリカに問い合せをして、しかもその返事があの程度の返事をいただくということは、結局はソ連を有利にする以外の何ものでもないと私は思います。一体外務大臣といたしまして、日ソ交渉をやり、領土問題が中心になっておるときに、交渉が始まって後にああいうような問い合せをアメリカにして、それであなたの職責が勤まると思っておるのかどうかをお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/50

051・重光葵
○重光国務大臣 その御批評は御批評として、私は少しもこれを反駁することはいたしません。私は、この問題につきましては、むろん交渉の方針をきめる前に十分検討いたしました。しかし、問い合せはその後にいたしました。これは私の記憶でございます。しかして、その問い合せの結果が、従来の交渉の方針を変えなければならぬ結果に陥ったかというと、そうではなくして、従来の交渉方針で少しも差しつかえない。これはむしろ交渉方針の間違いでなかったことを確めた状態になっておりますから、私は少しも差しつかえないものと考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/51

052・水谷長三郎
○水谷委員 いやしくも外務省の考えは、おそらくアメリカは日ソ交渉における日本の立場をば支持してくれるような回答を期待して、あの問題が発せられたことは、私もよく知っておる。それに対して、いわゆるパンのかわりに石のような返答が来たことも、これまた事実なのです。そういうようなことは、外務省としてはきわめて怠慢であり、手ぎわが悪いということを私は言いたいのであります。
いつまで繰り返しておっても切りがございませんので、最後に、日ソ交渉の締めくくりとして、鳩山総理大臣の決意を聞きたいと思うのです。二大政党が対立いたしました今後の議会の運用のかなめといたしまして、政策を通じて十分争いたいことは事実であり、また言論を通じて争わなくてはならないことも事実でございますが、できるならば事外交に関しましては、与党といわず野党といわず、一致して日本の国難に当らなくてはならないというのが私の考え方でございます。こういうような考え方によりまして、日ソ交渉に関していろいろ聞いたのでございますが、総理大臣の答弁といい、外務大臣の答弁といい、私を満足せしむることができなかったことは、きわめて遺憾でございます。しかし私の見通しによれば、日ソ交渉というものはいつまでもがんばれ、しかし決裂はいかぬというようなことでは、日ソ交渉は進むわけには参らぬと思うのです。やがていつかはさきに私が申しました三つの方式、決裂か、あるいはソ連の言う通りになるか、あるいはまた暫定協定を結んで懸案を解決するか、この三つの一つを選ばなくてはならないと思うのです。私は将来しかるべきときに、政府が断固として日ソ交渉に関して結論をつけて、それを国民とともにやっていくということをやっていただきたいと思うのです。われわれも及ばずながら、もしその結論が妥当であるならば、皆さん方とともに協力してこの国難に当ることはやぶさかでないと思うのです。今日の段階におきまして、日ソ交渉の見通しに対し、さらにまたその結論に対して、言うべき段階ではない、言えないということは一応了としますが、しかし将来しかるべき時期に、あなた方は、単に鳩山内閣としてでなしに、ほんとうに全国民とともにこの問題を解決する、一体そういう決意があるかどうかということを最後にお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/52

053・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 外交問題の根幹につきまして、超党派的に日本の外交政策を推進したいということは、非常に希望しております。そういう目的を抱いておればこそ、民主党時代においては三党主に対して日ソ交渉の大体のお話をしてきたわけであります。ところが最後にどの方針をとるのかということは、先刻申しました通りに、私の意見を発表する時期ではないと思います。今日においては、できるだけわが方の主張を貫徹できるように努力をいたしますという以外には、答弁することができません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/53

054・水谷長三郎
○水谷委員 次に重光外務大臣にお聞きしたいと思いますが、去る二日の本会議の席上におきまして、わが党の委員長の鈴木茂三郎君が、中共に対して何も手を打っておらないじゃないかというような質問をいたしましたときに、重光さんは、まことに勇壮活発に僕らを驚かすような態度で、一体手を打つというのは何だ、それはおそらく承認であろう、しかし今の日本の立場として承認はできないという工合にひとりぎめで答弁されたことは、御記憶に新たなことであろうと思うのです。しかしながらわれわれが中共に手を打てということは、ある場合単に承認ということを言っているのじゃない。承認の前にいろいろ打つべき手があるということを鈴木茂三郎君が言っておったにかかわらず、あなたはそれを承認として片づけて、ああいうような勇壮活発な答弁をされたことは、きわめて遺憾であろうと思うのです。今日本の外務大臣として、この中共問題に関しましてどういうようなことをお考えになっておるかということをまずお聞きしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/54

055・重光葵
○重光国務大臣 本会議の答弁につきましては、外務委員会でも社会党の委員の方からお話がございました。本会議の鈴木君の御質問は繰り返し繰り返し聞きました。それは中共とは国交を正常化すべきじゃないかという趣旨において繰り返し御質問がありました。それであるから私は中共に対して打つ手は何かと——手がないじゃないかということは鈴木君が聞いたのでございます。それですからそういう手は何かというと、それは鈴木君の質問の趣旨から見ると、承認——国交を正常化するということは承認ということでございます。(「積み上げていくんだ」と呼ぶ者あり)それが結局そうなる。そういうことはできぬことだ、こういつて私はお答えをしたのであります。私はそれが不穏当であるとは考えておりませんが、それについていろいろ疑問とするところがあったら詳しく申し上げてさしつかえない。しかし中共に対しては、国際義務の範囲内においてできる限りのことはしたい。一国に対して二つの政府を承認するように仕向けることはいかぬ、これは当然のことで、国会の意思できまったことであります。そうでありますから、私は国会の意思に従ってそういう政策をとることが当然だと思う。しかしながらそれは後の事情の変化もございます。従って国際義務に反しない限りにおいて、でき得るだけ近隣諸国との関係は、なだらかにいくように努めなければなりません。だからそういう方向において貿易の問題も処置して今日まで参ったのでございます。さような趣旨でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/55

056・水谷長三郎
○水谷委員 ただいま外務大臣が言われたように、今の日本の立場として直ちに中共を承認できないということは、これは鈴木君もよく知っております。知っておるから私はそういう質問をしたのです。ただ問題は、私見ておりますと、引き揚げ問題というものは三団体にまかせきりだというような状態、さらにまた貿易の問題、文化の交流あるいは漁業問題というようなものは、今日主としてみな民間がやっておる。外務省は何をやっておるかというと、あとそれに対してぶつぶつぼやき漫才のように小言をいうことだけしか今やっておらないというような状態なのです。私はこの中共問題に対して、日本政府はもう少し自主性を取り戻していただきたいと思うのです。あれほどソ連と中共と区別して中共ぎらいのアメリカにおいても、やはり大使の会談というものが行われておる。私は中共承認の前のいろいろの積み重ねにおいて、政府は従来の民間にまかせきりであったものを、国の責任においてそろそろやるべき時期に来ておるのじゃないか、それを鈴木君が言うたということに私は解釈しておるのです。そこでこれまで民間にまかせきりであったものを、一体政府の責任でおやりになる考えはあるのかないのかということを私は聞きたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/56

057・重光葵
○重光国務大臣 中共がいわゆる積み重ね方式でもって承認に導こうとしておるということは、これは周知の事実であります。これは世界的に今そういうふうに共産国側の政策を判断しております。これを一括して平和攻勢ともいったときもございます。政府は関係ないのだから、承認問題とは関係がないじゃないかという立場をもって、民間との間にいろいろな約束をして、そして積み重ねていって政府をそこに引っぱり込もう、こういう政策をとっておるということもこれは周知のことで、私もよく承知をいたしております。しかし政府といたしましてはこの全局の関係から、今承認していない国との関係ははっきりと承認していない。政府は関係しないという立場をとらなければ全局を害します。これは反共国だけではありません。共産国に対してもなしくずしでものが何でもできるということならば、交渉はかえってこちらに不利になります。そうでありますから政府がさようなことには関係しない立場をとることは国家のために当然利益である、こう考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/57

058・水谷長三郎
○水谷委員 政府ではそういうような不都合があるからというならばそれはそれとして、それでは民間でそういうようなことを自由に今後やらすかどうか、積極的に推進するかどうか。このごろ外務省の意見は、旅券の問題その他から申しましても、そういうことを全然制限するというような方向に来ておる。政府もやらなければ民間にもやらさないというような方向になっておる。政府の立場は、あなたの説明を一応了として、民間の方でこれらの交流問題をやることを、あなたは推進される意向があるかどうか。政府もやらなければ民間の方もとめるというような方針でいかれるかどうか、その点を一点はっきりお答えを願いたい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/58

059・重光葵
○重光国務大臣 私ははっきり答えております。政府としてはやらない、こういうことでございます。それで政府が民間にやらせるか、こういうことは政府が関係しないという建前でございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/59

060・水谷長三郎
○水谷委員 私の言う点は政府が民間にやらすということではない、これは政府がやるということと同じである。だから民間がやることを政府はじゃませないかどうかということを聞いておるのです。あなたはじゃましますかどうしますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/60

061・重光葵
○重光国務大臣 これは民間がやり得べきことはおのずからきまっております。見聞でやり得べきことは民間でやるがよろしい、政府はこれについては関係しない、こういうように考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/61

062・水谷長三郎
○水谷委員 重光さんの答弁はよほど忍耐が強い者でなければ困るのでありまして、大体それ以上のことを期待することはできません。
時間が来ましたので簡単に私は最後に鳩山総理にお聞きして、私の質問を終りたいと思います。実は経済問題に関しまして大蔵大臣、通産大臣、それから経審の長官に対する用意をしてきたのでありますが、私に与えられた時間が一時間で、ちょうどもう一時間になりましたから約束は守りたいと思いますので、ただ一点だけ鳩山総理に聞きたいと思うのです。あなたは憲法改正のために憲法調査会を政府部内に設けて、その草案ができ次第解散をして民意に問うということを言っておられる。そこで私はお聞きするのですが、その際今の選挙法に一体どうされるかという一点だけを聞きたいと思うのであります。最近代行委員の緒方さんが、岡山でございましたか、やはり小選挙区制をぶっておられます。また代行委員の三木さんが、香川県においても同様なことを言い、また大野さんも病気になられる前、岐阜へ行かれたときにもその点をぶっておられるのであります。そこで私の聞きたいのは、今度憲法改正の是非を国民に問うときに、あなたは今の選挙区制を改革して、いわゆる小選挙区でやるつもりであるかどうかということをはっきりお答え願いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/62

063・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 憲法改正と選挙法改正との関連について考えておりません。両方ともに、憲法改正案がいつごろできるかもわかりませんし、選挙法の改正案がいつごろできるかもわかりません。その両方の関係についてどちらを先にするかというようなことは考えておらないのであります。選挙法も選挙法改正の調査会で決定をすることになっております。いつごろそれができるかということは、ちょっとまだ目当てがつかないのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/63

064・水谷長三郎
○水谷委員 私は間違いがなければ代行委員は四人だと思うておるのですが、その代行委員の三人までがその点をはっきり言っておられるのです。あなたお一人だけがそういうようなことを言っておらない。あなたの腹の底もおそらく他の代行委員と同じではないかと思うのです。と申しますのは、鈴木委員長と本会議で申しましたように、今の選挙区のもとにおきましては、あなたがどういうような草案をもって是非を天下に問われましても、既成保守政党において三分の二以上を確保することは木によって魚を求むるようなものであります。従ってもし憲法改正をやろうとするならば、これは正直に三人の代行委員がおっしゃっておるように、小選挙区制を断行いたしまして社会党の勢力をファッショ的にたたくという以外に道がないと私は思うのであります。そこであなたはここをはっきりさしていただきたい。そういうようなあいまいな答弁ではなしに、小選挙区制をほかの三人の代行委員が言っておられるのだから、その通りであるならある、あるいはないならない、研究とかなんとかいうことは一あなたも長い間政党政治家として選挙を何べんもやっておられるのですから、選挙区制というようなものは、今さら選挙法改正の調査会の答申を待つまでもなしに、あなたの頭に、あなたのポケットにちゃんと用意されていることはこれは火を見るよりも明らかなのであります。だからそういうようなあいまいなことでなしに、ほかの三人の代行委員も言っておる——私は代行委員のうちで一番人のいいのはあんたやと思うんです。一番正直なのはあなたであると私は思う。ほかの三人の代行委員がはっきりと言っておるにかかわらず、一番正直なそして一番人のいいあなたがそういうようなずるい答弁をせないで、小選挙区制をやるならやる、やらぬならやらぬということをはっきりとお答えなさい。憲法改正をやるという決意があるならば、小選挙区制をやるのかやらないのかということをはっきりと男らしく答弁しなさい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/64

065・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 小選挙区制がいいかどうかについてはっきりした答弁はできるのです。私は小選挙区制はいいと思うのです。けれどもそれがいつごろできるかということはなかなかそう容易には言えません。ただいまここでもわが党においても小選挙区制は反対というふうに、なかなか党内をまとめるのにも——小選挙区制というものもなかなか欠点も持っておりますし、そうしてずいぶん長い間中選挙区制あるいは大選挙区制に似たる中選挙区制で来たもんですから、一つの基礎ができてしまいまして、その基礎をこわす結果になるのであります。党内の意見をまとめるのにも一苦労だと思うのであります。それですからそう簡単にいつごろできるということは言えません。それは実情です。これは正直なところです。(笑声)
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/65

066・水谷長三郎
○水谷委員 それほど正直に御答弁されるならば、もう一ぺん正直に答弁していただきたいと思います。今のあなたの御答弁は小選挙区制は賛成であることは事実だ、しかしいつできるかどうかということはわからぬということですね。そこで私はしぼりまして、今度の憲法改正の是非を問うところの総選挙においては、従来通りの選挙区制でやるのか、あるいは小選挙区制でやるのかということだけをはっきりと答弁して下さい。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/66

067・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 政府はそれについてほんとうに考えていないのです。(「うそをつけ」と呼ぶ者あり)うそはつきません、ほんとうに考えておりません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/67

068・水谷長三郎
○水谷委員 鳩山総裁も腰かげたままであるから気持がのんびりとされておるのか、あるいは絶対多数の上に立たれておるからあぐらをかいておられるのかどうか知りませんが、非常にずるい答弁をされておるのです。しかし今日あれほど憲法改正の問題と関連して小選挙区制の問題が三人の代行委員に言われ、また岸幹事長も言っておるにかかわらず、肝心の総理がそれに対してはおかぶりであるというようなことは私は承諾をすることはできない。それならそれで小選挙区制をいつやるかわからぬというならば、ついでに憲法改正もやるかやらぬかわからぬという工合に答えられれば私は満足です。しかし憲法改正は調査会を設けてやるのだ、しかし小選挙区制はやるかやらないかわからぬということは、これで鳩山さんの看板の正直というものは台なしになったと思うのであります。これは私は非常に遺憾であると思う。
予算総会の質問でありますから、さらに経済上の問題に関して、たとえば来年度の予算において公債が発行されるかどうかという問題、あるいはまた国際経済の見通し、日本の貿易の見通し、さらに経済企画庁が十月三十日に出しました試案に対しての質問等用意をしておりますが、時間が過ぎましたので私はこれでやめます。しかし私はきょうの鳩山首相を中心とした答弁、重光さんの答弁というものを——これは主として外交問題でございますが、口では超党派外交、超党派外交と言いながら、いまだ超党派外交をやるというような誠意も決意も政府側にないということを発見したことはきわめて遺憾であり、日ソ交渉の前途また寒心にたえないということを強く申しまして、私の質疑を終ることにいたします。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/68

069・三浦一雄
○三浦委員長 暫時休憩いたします。午後一時より再開いたします。
午後零時二十九分休憩
————◇—————
午後一時二十七分開議
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/69

070・三浦一雄
○三浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
武藤運十郎君。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/70

071・武藤運十郎
○武藤委員 私はまず日韓関係の問題につきまして総理並びに外務大臣に質問をいたしたいと思います。
けさのある新聞によりますと、政府では憲法第九条の解釈を一定をいたしまして、万一韓国の方で実力を行使する場合には、日本もこれに対して実力を行使することができるのだというふうな解釈に一致をしようとしているような話でございますけれども、万一の場合には日本の軍隊——私は軍隊と言っていいと思うのですが、これが出動をして交戦をするということになるのでしょうか。憲法九条の解釈はそれでいいのでしょうか。その点をまず伺いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/71

072・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 ただいまおっしゃるような事実を政府できめたということはむろんありません。私個人の考え方としては、そういうようなことは自衛の範囲外だろうと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/72

073・武藤運十郎
○武藤委員 日韓関係は非常に緊迫をしておるようであります。しかるに政府では手をこまぬいて何らの方法もとらないように見えます。あるいはアメリカの仲介を希望するというような他力本願のやり方をしておるようです。むしろそんなことを言っておらないで、日本もりっぱな独立国だと言われておるのでありますから、外務大臣みずから乗り込んででも、この問題を早期に解決をするという意思はありませんか。この点を伺いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/73

074・重光葵
○重光国務大臣 日韓関係の今の緊張を解きほぐしていって平和的解決をするということについては、全力を尽すことはもちろんでございます。それがために、私が乗り込んでいって解決を見るという形勢になるならば、少しもそれは辞するところではございません。今日すべてのやっておることは発表はできませんけれども、私は決してこれが日韓の衝突になるような事態になることは今日見通しておりません。これは必ず平和的外交交渉によって事態を収拾することができる、こういう見込みを持って進んでおります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/74

075・武藤運十郎
○武藤委員 あらゆる手段をとることにやぶさかでないと言われますし、あるいはまたやっておるのだけれども、全部はっきり言えないんだというようなお説でございますが、一般国民は、政府が何らの手を打たない、これはむしろ李承晩に一つ一戦争をやらせて、そうしてそれを口実にして日本の再軍備を促進しよう、そういう意図ではないかというふうに考えておるくらいでございますが、私は、やっておるけれども言えないとか、やる気があるとかいうのでなくて、具体的にやることを、すぐやらなければならないことはどういうことであるかということを伺いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/75

076・重光葵
○重光国務大臣 やっておること、またすぐそれを促進しなければならぬことは、すなわち外交交渉でございます。これですべてをやろうと思っております。政府は、この問題を使って軍備の問題にひっかけたり、そういうことは少しも考えておりません。もしそういうことを考えておるとすれば、それは危険なことです。そういう危険なことはやらぬということを申し上げておきます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/76

077・武藤運十郎
○武藤委員 その次には、憲法問題について鳩山総理大臣に伺いたいと思います。申すまでもなく現憲法の三大原則は民主主義、平和主義、人権尊重主義、これが新しい憲法の三つの柱だと考えます。このことは、新しくできました自由民主党の政策の中にもりっぱに織り込んで高く掲げられておるわけであります。この三つの原則はぜひとも守っていかなければならないものであると考えますが、これに対する総理のお考えはいかがでしょうか、伺いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/77

078・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 ただいま言われた憲法の平和主義、民主主義あるいは人間の基本権利、これらのことを尊重すべきことは言うまでもないことであります。ただ平和主義あるいは平和主義の目的の達成ということが、憲法が規定せられるときに考えられた無防備ということだけで貫徹できるかどうか、これは問題だと思うのです。私の考えでは、今日の平和は、決して無防備ではその目的を達成することはできないと思います。今日の平和は力による平和でもあり、力によって世界の平和は保たれているわけでもありますから、そういう時代に無防衛、無防備だけでもって平和主義の目的が達成せられるということは、これは考え違いであると私は思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/78

079・武藤運十郎
○武藤委員 そうしますと、首相のお考えは、平和主義はいいけれども、憲法九条に現われておる無防備といいますか、戦争放棄といいますか、その点は別な方法によって解決をしなければならぬ。言いかえますならば、九条は改正をして、日本に軍備を持って、力によって日本の防衛をしなければならない、平和を保たなければならない。そういうふうにお考えになっており、その方向に向って憲法の改正をなさろうという御意思でございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/79

080・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 それも憲法改正の一つの大きなる目的であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/80

081・武藤運十郎
○武藤委員 私どもの考えるところでは、やはり憲法九条というものはほんとうに平和主義を高く掲げたものであり、世界におきましても一番りっぱな条文であろうと考えます。従ってこの条文を変えるということは、とりもなおさず平和主義を捨てることであり、憲法の一つの大きな柱を折ることであるというふうに考えておるのであります。しかしこの点は見解を異にしますので、次の質問に移ります。
第二の民主主義、言いかえますならば主権在民の主義、国会を国権の最高機関とする考え方、この憲法の第二の一番大きな考え方でございますが、先般十二月三日に緒方竹虎氏が大阪方面を旅行をされまして、そのときにこういう談話を発表いたしております。「現行憲法では国会は国権の最高機関であると規定されているが、これは多分に行き過ぎの観がある。第一次大戦後のヨーロッパ諸国の憲法改正の傾向を見ると、政府の権限強化が新しく規定されている。日本の例でいうと臨時国会の召集は国会の要求によって開くことになっているが、ヨーロッパ諸国では政府の権限で召集するようになっており、国会よりも政府の発言力が強くなっている。日本としてもそのように改正する必要があると思う。」こういう談話を発表しております。これは各紙とも同じようなものですから、おそらく口頭ではなくして、文書で発表された談話ではないかと思うのであります。これは首相の談話ではございませんが、緒方氏は四人の代行委員の一人でありますし、それから旧自由党の代表的な人物であろうと思うのであります。この人がこういうふうな談話を発表して意見を述べておるわけでありますが、鳩山首相は憲法の改正に関連をしまして、この意見と同感でありますか反対でございますか、伺いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/81

082・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 私は緒方君の談話のようなことを考えたことがありません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/82

083・武藤運十郎
○武藤委員 そうしますと、そういう意見には賛成ができないというふうに伺ってよろしいのでしょうか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/83

084・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 抽象的には、せっかく達成できました民主主義を破るようなことはしたくないと考えておるのでありまして、国会の召集について政府の発言権を重しとするかどうかというような事柄については、いまだ考えたことがないということだけを申し上げます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/84

085・武藤運十郎
○武藤委員 その次に、私は憲法改正に関連をしまして、日本の現状の認識に関する首相のお考えを承わりたい。御承知の通りサンフランシスコ講和条約によりまして、アメリカ陣営とは講和ができましたけれども、ソビエト陣営とはまだできておらない。国際法的に言えば交戦状態にあるということでございます。またこのサンフランシスコ講和条約並びに安保条約などの一連のアメリカとの協定によりまして、六百カ所以上の基地にアメリカ軍か駐町田をいたしております。そのために日本は莫大な防衛分担金をアメリカ軍に支払わなければならない義務を負っておる。そうしてまたその防衛分担金がきまらなければ日本政府の予算が組めない、こういうふうな実情にあるのでありまして、私は、日本の現状というものは名前は独立国になったと言われまするけれども、実際においては完全に独立をしておらないと思います。こういうふうな諸般の事実から見まして、総理大臣は日本の現状をどのように認識されますか、伺いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/85

086・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 日本は三年前から完全に独立をいたしたのでありますが、従来の諸制度の欠陥により、あるいは条約の欠陥によって、いまだ自主独立の完全なる姿を獲得したということは言えないだろうと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/86

087・武藤運十郎
○武藤委員 総理大臣は、去る二日の国会における所信の表明におきまして、その第一は憲法の改正である、わが国を真の独立国家に立ち返らせるためには、まず憲法を国民の総意によって自主独立の態勢に合致するよう作りかえることが大切である、こういうように述べておられるのであります。憲法を改正する大きな理由といたしまして、この憲法は占領中に、すなわち全然独立というものがなかったときにできた憲法でよくないのだから、これを改正しなければならないという意味ではなかろうかと思うのであります。そうなりますると、今総理の御答弁がありました、日本の国が必ずしも完全に独立をした形ではないという状態にありますとすれば、やはりかりに今憲法の改正をいたしましても、程度の差においてよい憲法は、日本の自主独立の憲法というものはできないのではないかというふうに私は考えます。たとえば憲法九条の問題でございまするけれども、占領当時、この憲法ができました当時におきましては、あるいは日本の軍備というものがアメリカ軍に不利益であったというそういう動機から、軍備の廃棄ということがアメリカの要請によって憲法に盛られたのではないかと考えます。いわゆるマッカーサー憲法といわれるのはこのためであると思うのであります。しかしながら今日本が完全な独立の状態にないときにおきまして憲法の改正をいたしましても、あるいは軍備については、今度はアメリカの要請によりまして憲法九条を改正して軍備をやる、正式な軍隊を固くというようなことになってしまうのでありまして、日本の基本法である憲法がつねにアメリカの意向によって左右されるという結果にならざるを得ないのであります。従いまして今ここで、このような状態のもとで憲法を改正することは、やはりほんとうの自主独立の憲法というものはできないと考えますけれども、これに関する総理のお考えはいかがでしょう。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/87

088・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 今の憲法はとにかく占領時代にでき上った憲法である。占領時代に憲法を作ることはできないとする外国の例すらあるのでありまして、占領時代においては完全なる自由を国民が持っておるとは思いません。それですから、今日におきましては、その占領が解けて独立の体面を獲得した後でありますから、占領時代とは全く違うと思います。われわれは憲法を作るのに十分な自由を持っておることと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/88

089・武藤運十郎
○武藤委員 国が完全な独立をしておるかどうかということは、対外関係において言うものであろうと思います。独立の体面を保っておるというようなことだけではないと考える。ただ単に憲法だけを形の上で作ってみましても、実質的にそれによって独立国家となるというものではないのであります。自主独立の獲得というものは、むしろ形の上で今憲法を改正するというよりも、今まで作られておる安全保障条約、行政協定というようなものをこの際まず解消をしていく、そうしてそれが完全な独立を獲得するゆえんでもあり、その後においてこそ、かりに憲法を改正するとしても、首相の言われるような自主独立の憲法ができるのではないかと思うのであります。むしろ憲法の改正よりも安保条約、行政協定など一連の、日本をただ単なる形の上における独立国にしておく諸条約を改正すべきものであると考えますが、いかがでありましょうか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/89

090・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 日本の防備は全く今防衛力がないのであります。それが安全保障条約あるいは行政協定によって日本の防衛が達成できておると思いますが、この防衛についてアメリカが協力をしておるということは、われわれの自由を束縛しておるということには直ちにならないと思っております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/90

091・武藤運十郎
○武藤委員 その次には重光外務大臣に伺いたいと思います。主として防衛分担金についてであります。御承知の通り安全保障条約前文の趣旨は、概略を申しますと、日本に当時防衛力がないから日本は暫定措置としてアメリカ軍の日本駐留を希望する、第二に、しかしながら日本は自国防衛のために漸増的に自衛を増強する責任を負う、こういうことであろうと思うのであります。これに応じまして、行政協定二十五条は、暫定的なこの米軍の駐留費用に対する日本の負担金であろうと思うのであります。こういうふうに解釈してよろしゅうございましょうか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/91

092・重光葵
○重光国務大臣 私も大体そう解釈をいたしております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/92

093・武藤運十郎
○武藤委員 そこで伺いたいのは、アメリカ軍の暫定的な駐留が日本の暫定的な自衛力の増強に見合うものであると思うのでありますけれども、そうでありとしますならば、自衛隊が増加される分だけは、第一にアメリカ軍は当然撤退すべきだと思います。それから第二には、防衛庁費とか施設提供費とかいうような日本の増加分というものは、当然二十五条に定めてある分担金から全額減額するのが当りまえではないかと思いますが、いかがでしょう。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/93

094・重光葵
○重光国務大臣 ちょっと必ずしもそうはいかぬのじゃないかと思います。防衛力の漸増ということはやらなければなりません。どこまで防衛力が必要であるかということは、これは心の問題でございまして、そこが問題であろうと思います。だから防衛力が漸増するだけアメリカの軍隊を引け、こういうことはちょっと言えないだろうと思います。そこでどれだけの軍隊が必要であるか、どれだけの防衛力を増強すべきかということについては、十分検討をいたした上で、それを標準にして話が進むべきだと考えます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/94

095・武藤運十郎
○武藤委員 私が申し上げておりますのは、漸増と漸減は相対的なものではなかろうかと言っておるわけです。日本の防衛力というものが最高度に達して、そのときまでは全部駐留をし、そのときまでは全部の費用を負担し、そのときに全部アメリカ軍が撤退するというのではなくして、漸増と漸減とが相対的な関係においてなされるのが当然ではないかということを申し上げておるわけであります。もう一度御意見をお伺いしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/95

096・重光葵
○重光国務大臣 大体観念としてはそういうふうに申しても差しつかえないかと思いますが、その次の御質問をよく伺ってそれにお答えしたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/96

097・武藤運十郎
○武藤委員 観念としてはけっこうだけれども、外務大臣としての能力は別であるというような御趣旨ではないかと思うのでありますけれども、やはり観念として外務大臣がそういう信念をお持ちでありますならば、その通りに外務大臣として行動をいただければけっこうではないかと思うのであります。行政協定二十五条2の(b)に、防衛分担金につきまして定期的再検討の結果締結される新たなる取りきめの日まで一億五千五百万ドル、すなわち五百五十八億円を支払うということになっておりますけれども、伺いたいのは、新たなる取りきめというのは何でありますか、またこの取りきめのための検討をやったことがあるのでしょうか、これを伺いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/97

098・重光葵
○重光国務大臣 これはよほど文面がこんがらかっておるので、昨年度もずいぶん議論をしてきた問題であります。そこで同じことをお答え申すほかはございません。毎年この検討をやっておるわけでございます。そして今年ももちろんこの検討をやろう、こういうことになっております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/98

099・武藤運十郎
○武藤委員 少しまじめに答弁してもらいたいのでありますけれども、今までもやっておるし、これからもやろうと思うというようなことでなくて、この防衛分担金の問題は去年——今年の初めでありますけれども、防衛分担金の折衝がきまらないために閣議決定が十日以上も延びたというような事情もあるわけです。というのは、この金額の折衝がきまらなかったからだと思うのであります。行政協定はとっくにで一きておりますし、二十五条の2項の(b)にはこういうことがりっぱにうたわれておりますのに、このことを一向に問題にしないで、ただ漫然ともう少し負けてくれないかというようなことであるから、私は折衝がうまく行かないのだと思うのであります。再検討をし、新たな取りきめを行うという条文がりっぱにあるのでありますから、どうしてもっと早く具体的にこの取りきめというものはしないのであるか、できなかったのであるかということを伺いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/99

100・重光葵
○重光国務大臣 そういう規定になっておりますから、その規定によってきわめてまじめにやっておるのであります。そして、これは予算編成期まではどうしてもやらなければならぬことであります。しかし、それは何カ月前にちゃんとやっておかなければならぬということではございません。その時期にちゃんと間に合うようにやればいいのであります。またそういう時期になって初めて双方とも交渉ができるのであります。それを今やっておるわけでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/100

101・武藤運十郎
○武藤委員 日本の防衛計画というものがいろいろ検討をされているそうでありますけれども、長期の防衛計画五年ないし六年の防衛計画というものができているのでしょうか、いないのでしょうか。またあなたが先般アメリカへ行かれたときには、この長期の日本の防衛計画というものを持って行かれたと聞いておりますが、外務大臣の答弁と船田新防衛庁長官の答弁といささか食い違っているような感じを持っております。これはいかがなものでしょう。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/101

102・重光葵
○重光国務大臣 防衛計画を今検討していることも全くその通りでございます。政府としてこれをどうしても具体化しなければならぬと思って検討をしているのでございます。しかしまだその計画は、六年計画とかなんとかいうようなことが言われておりますが、はっきりとそれが、できておりません。それから過般私が渡米いたしましたときには、政府の考え方をできるだけ向うに説明して、向うに納得せしめるようにしたい、こういう考えをもちまして、防衛庁の試案でもいいから、どういう考えであるかということを聞いたのでございます。ところが防衛庁の方では、こういうふうな考えを一応はしているという話で、それは伺ったのでございます。しかし私は、それを持っていって、防衛庁の試案がこれであると言ってみてどれだけ向うに印象を与えるかということも考えまして、その試案そのものは私は何も向うでは使いませんでした。しかしその試案を持っているくらいでありますから、政府としては、防衛力についてはあくまでこれを増強する決意である、意向であるということを強く説明をして、先方はそれを非常に可としたわけでございます。交渉については、私は自分でやったことを申し上げたのであります。防衛庁の考えにつきましては、防衛庁長官にお聞きを願えばよろしいのではないかと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/102

103・武藤運十郎
○武藤委員 長期の正式な防衛計画はできておらないが、試案はあるということです。そして近いうちにこれを作るというお話でございますが、長期の防衛計画ができますならば、必ずこれに見合う防衛分担金の漸減方式といいますか、減額方式といいますか、これができなければならないと思います。一体政府では、こういう場合におきまして、一般方式として年次的に減額をきめるという方式でいくお考えでございますか、それとも毎年々々個別に折衝をして解決をしていく方針でありますか、仄聞するところによりますと、閣内で意見が二つに対立しているということでございます。これは総理、外務大臣並びに大蔵大臣にも御意見を承わりたいと思うのでありますが、どういうような方針でありますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/103

104・重光葵
○重光国務大臣 防衛分担金の交渉に関係する問題でございますから、私からお答えをいたします。防衛分担金は——先ほどの御意見も御趣旨はその点にあったと思います。私は、これはもうなるたけ早く防衛分担金のないように進めていくことが望ましい、こう考えます。そこで毎年これについて検討を加えなければならぬのは当然のことでございます。それは先ほどの御説明の通りでございますが、しかし、たとえば年々防衛分担金が少くなっていって、すみやかになくなるような方式でも考え得ますならば、その方式によって差しつかえないし、またそれが一番けっこうだ、こう考えておるのでございます。さようなことをいろいろ検討いたしまして、アメリカ側と話し合わなければなりません。そういう考え方で進んでおるわけでございます。これについては閣内において意見の不一致は少しもございません。それが当然の努力目標でなければならぬ、こう考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/104

105・武藤運十郎
○武藤委員 先ほどのお説によりますと、防衛分担金の折衝は、必ず間に合うようにするというお話でございました。大へんりっぱなお言葉でございますが、先ほども申しましたように、私ども予算委員としますれば、三十年度の予算編成に当りましてもなかなか間に合わなかったわけでございまして、非常に迷惑をした次第でございます。ことしの折衝は、いつごろまでに妥結をする見込みであるか、またどのくらいで妥結をする見込みであるか、これを伺いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/105

106・重光葵
○重光国務大臣 その見込みは今立てるわけに参りません。しかし私の申し上げましたことは、予算編成期に間に合うようにあらゆる努力をして進んでいきたい、また進んでいっておる、こういうことを申し上げたのでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/106

107・武藤運十郎
○武藤委員 大蔵大臣に伺いますが、防衛関係費を一千四百億以内に押えてきまるという見込みがございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/107

108・一萬田尚登
○一萬田国務大臣 防衛庁費につきましては、今事務当局で具体的に査定をやっておるのでありまして、これは全体の予算額との割合といいますか、全体の予算がこのくらいだから防衛庁費はこのくらい、そういうふうなワクの関係もございます。さらに分担金がどういうふうになるか、これは相当の減額を期待しております。そういうことがすべてまだ確定いたしませんから、どういうふうになりますか、私としては防衛庁費はできるだけ少くということを希望することは申すまでもありません。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/108

109・武藤運十郎
○武藤委員 防衛庁費関係はそのくらいにしまして、基地の問題について外務大臣に伺いたい。
第一に、第三国人の日本の米軍基地における訓練の問題でありますが、一時非常に問題になったのでありますけれども、第三国軍人の訓練の問題はその後どうなりましたか、経過並びにその後の交渉があるとすれば伺いたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/109

110・重光葵
○重光国務大臣 今質問されました問題は、米軍基地において米軍が第三国人を訓練しておることがあるだろう、そのことはどうなっておるかという御質問のようでございます。少数の第三国人が米軍のやり方を見学に来たことがあるので、これは日本との友好関係にも顧みて、これには故障を申し入れませんでした。つまり差しつかえないということでそれを認めました。しかしそれがあまり長期にわたるとか、もしくはあまり多数になるという場合では、こっちは困りますから、その旨を申し入れたところが、それは中止になっております。その後相当数の第三国人に見学を許したい、こういう話し合いがございましたから、これはどういう性質のものであるか、またその規模及びその方法等について問い合せをいたしまして、それが共同防衛等の精神によって協力して差しつかえないことであるかいなかということを今検討いたしております。そうしてそれはいろいろ手続の問題があり、また施設を使用する等の問題もございます。法律関係もございます。そのことを十分検討いたしまして、差しつかえの有無を今調べておるところでございます。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/110

111・武藤運十郎
○武藤委員 今外相の言われた見学と訓練とをどういうふうに解釈するか、だいぶ問題だと思います。限界がむずかしいと思うのでありますが、見学の名によって訓練が行われるというようなことはわれわれはもちろん反対であります。聞くところによりますと、今年の夏、七月ごろのアメリカ軍の申し込みというのは、期間が二週間ないし六カ月、それから人員は、国府が四百人、タイが三百五十人、インドネシアが四十人、フィリピンが十人、合計八百名という多数の軍人の訓練であって、三十年の七月から向う一カ年実施をしたいというふうな申し込みだということを私は聞いておるのであります。今断わられたというのは、この申し込みを断わられたわけでございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/111

112・重光葵
○重光国務大臣 断わったというのはその問題ではないと思います。その前の問題です。そこで新たに向うからこういう規模の第三国の見学と申しますか、訓練と申しますか、それを申し込んできたのであります。それを今検討中なのでございます。その規模及びその方法等を十分に検討してみなければ結論が出ませんが、それを今やっているわけであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/112

113・武藤運十郎
○武藤委員 検討中だと言われますが、米軍に提供した施設、区域を特別な取りきめをしないで第三国人に使用させるのは、安保条約、行政協定に違反するものではないか、手続の問題でありますが、私どもはもちろんそういうものの駐留には全部反対であります。かりに今の安保条約、行政協定で行うといたしましても、何らの取りきめなしにこれを置いておくということ、承認をするということは、これは協定違反になると考えます。そうでないとするならば、法的な根拠はどこにあるのかということを外相に伺いたいのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/113

114・重光葵
○重光国務大臣 この問題は、さような第三国人が日本に来る場合において、そのいろいろな取扱い等において法規関係が起ってくるのでありますから、当然それを検討しなければなりません。しかしながらそういうことを米国との関係において日本が承認するかどうか、こういう問題は、私は安保条約の条文では解釈ができぬと考えております。これは条文の問題ではなくて、国と国との関係である、こう考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/114

115・武藤運十郎
○武藤委員 そうしますと今のお話は、新たなる協定を結ばない限りは、先ほど私が申し上げたような人数、期間による訓練はできないのだという外相の御見解であると承わってよろしゅうございますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/115

116・重光葵
○重光国務大臣 これは双方の外交問題で、その折衝の結果を待つべき問題だと考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/116

117・武藤運十郎
○武藤委員 基地問題に関連をいたしまして、第二にお伺いしたいことは、いわゆるロケット砲のオネスト・ジョンの問題でございます。私どもが聞いておりますところでは、オネスト・ジョンというロケット砲は、最初はただ持ってきておくだけだという話であったと思うのであります。そういう意味で十月の半ばにこれをみんなに見せる、日本人に展示をするということでやっておった。そのときまで私どもはやはり持ってきておくだけであるというふうに考えておった。これでも私どもは反対でございますけれども、そんなふうに理解しておった。ところが十月の末になりまして、試射の申し込みがあったということでございます。それで第一回の試射は富士で行われた。いろいろな反対がありましたけれども、押し切って富士で行われたようであります。しかしそのときには射程は二十キロ以下である。しかもこの日本における試射は一回限りだというふうなお話であったということを聞いておるのであります。ところがその七日にカヴァデールとかいう准将がきまして、これからはもっと射程を延ばすんだ、あるいは試射の続行を、これからはあちこちでするんだということを言明されまして、引き続いて十一月二十九日には北海道島松ですか、ここで第二回の試射が行われたというような実情でございますけれども、大体この米軍の兵器の持ち込みの限度、これはどういうことになっておるか。そしてまたその根拠はどこに求めるわけでありまするか、伺いたいと思うのであります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/117

118・重光葵
○重光国務大臣 米軍の駐留を条約上認めておることは御承知の通りであります。米軍の駐留を認めておる以上は、普通兵器は当然付随したものでございますから、普通兵器は軍隊とともに日本に持ち込むことは認めなければなりません。そこでオネスト・ジョンの問題でございますが、私もこれは新兵器だと思って干そういうことを前に聞いたことはございませんでした。いろいろ理論は前からあったそうでございます。そこでこのオネスト・ジョンが新兵器であるかないかというよりも、普通兵器であるかないかということを検討しなければなりません。そこで専門家の検討を経て、これは普通兵器である、攻撃的の兵器でなくして防御兵器である、こういう見解になっております。従いまして、これが射撃試験というようなことも、その範囲において許さるべきことに相なっております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/118

119・武藤運十郎
○武藤委員 普通兵器か特別兵器かという区別を今伺ったのです。また普通兵器というのは防衛兵器だというお話でありますけれども、なかなか私にはわかりません。防衛兵器と防衛兵器でないものとの区別を一応参考に伺っておきたいと思います。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/119

120・重光葵
○重光国務大臣 防衛兵器と攻撃兵器との専門的の定義は私にはちょっとできません。しかし国防上、防御のために主として使われれば防御的の兵器だと私は考えております。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/120

121・武藤運十郎
○武藤委員 どうもはなはだ満足できません。このロケット砲の弾頭には、今のところ試射にはコンクリートを使っておるそうでありますけれども、これは必ず原子弾頭が入るものと私は考えます。しかも正確に二十キロか三十キロ行くということでありますから、これは今の外務大臣の話から伺いましても、防御兵器とは言えないと思います。こういう兵器をどしどし持ち込むということになりますと、水爆も原爆も幾ら持ってきてもかまわないということになりまして、境がつかないと思うのでありまするが、いかなる御見解でありまするか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/121

122・重光葵
○重光国務大臣 私どもは水爆、原爆は普通兵器とは考えておりません。普通兵器のカテゴリーに属するものは、これは当然軍に付随したもの、こう考えておる次第であります。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/122

123・武藤運十郎 (検索語が含まれています。)
○武藤委員 どうも満足すべき答弁ではございませんが、まじめを欠いておりますので次に移ります。
先ほどわが党の水谷委員からも、日ソ交渉についていろいろ総理に質問がございましたが、私も一点質問をいたしてみたいと思います。日ソ交渉もだいぶ長いことでございますが、顧みますというと、これに関する旧民主党の政策というもの、基本的態度はいわゆる早期妥結ということであったと思うのです。つまり領土問題は歯舞、色丹だけでも、とにかく早いこと締結しようじゃないかというお考えであったように考えております。ところが反対に旧自由党の基本的な態度というものは、いわゆる慎重論でございまして、早期妥結には賛成をしない、つまり領土問題は千島あるいは南樺太というものも解決をすべきであるというようにいっておったと思います。言いかえますならば、その焦点は早期妥結といいましても、あるいは慎重論といいましても、問題は領土問題でありまして、その範囲をどこまで広げるか、どこできめるかということではなかろうかと思う。新しくできました自民党のこの問題に関する政策を見ますると、講和条約では、まず歯舞、色丹はもちろんだけれども、南千島もこの際きめたい。北千島や南樺太は後の国際会議にまかせてもよいけれども、この南千島だけは、この際歯舞、色丹とともに入れるべきものだ、これができなければ、これを限界として妥結をしなければならないという政策だと思いますけれども、これは今まで早期妥結、国交の早期回復ということだけを考えてきました第二次鳩山内閣と民主党の政策が、変質をしたのではないかと思いますが、首相はいかなる御見解でおられますか。
発言のURL:https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/102305261X00219551207/123

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124・鳩山一郎
○鳩山国務大臣 私は水谷君の質問に答えました通りに、今日においても、第二次内閣の当時においても同じように、ソ連との国交を正常化したいと思って、ソ連と交渉をしております。

 

第23回国会 参議院 予算委員会 第3号 昭和30年12月8日

○青木一男君

領土の非併合ということは、国連憲章の根本精神でございます。またポツダム宣言に引用してあるカイロ宣言を見ましても、領土拡張の意思なきことが明記してございます。ヤルタ協定のごときはわが国としては終始関知せざるところでございます。

南千島のごとく、当初から一貫した固有領土を回復するということは、国際法上当然の要求であり、またわが国民一致の要望であるのでございます。

一部には国交を回復した後にあらためて領土問題を交渉せよという説もあるようでございますが、かくのごとき手続はソ連の不法占領の現状を是認したことになるのでございまして、領土の回復は全く不可能に帰することは明瞭でございます。

従ってかかる説は結局領土権を放棄せよということにひとしいと思うのでございますが、政府の見解はいかがでございますか。

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○国務大臣(重光葵君)

領土の返還を要求する要求を持ち出しておる根拠につきましては、今お話しの点のような事柄をわれわれはやっぱり考えております。さようなわけで、日本の正当な領土として要求すべきものは要求しておるわけでございます。

そこでこの国交回復等のことについて実現するために、暫定協定をして、領土問題等はあとに残した方がいいじゃないかという御議論が昨日衆議院の予算委員会の方でございました。

一つのお考え方だろうと考えます。しかしながらこの戦争によって起った大きな問題、特に日ソの間における主要な案件は解決をして、そうして平和条約を作って国交の回復をしようという段取りに今、日ソ交渉は進んでおるのでございます。

それは日本だけではない相手方のソ連もそういう考え方で今交渉を進めておるのでございますから、私はあくまでその方針の筋によって主張すべきは主張し、わが正当な主張の実現をはかるために、全力を尽して交渉に当るべきだと、こう考えて進んでおるわけでございます。

 

第23回国会 衆議院 外務委員会 第5号 昭和30年12月8日

○菊池委員

ヤルタ協定は日本の関せざるところでありますけれども、このヤルタ協定の対象について、外務省当局は米国にただしたということがちょっと新聞に出ておりましたけれども、そのときにこの南千島、歯舞、色丹はこのヤルタ協定の中に入っていたのでしょうか、どうでしょうか、その点…………。

 

○下田政府委員

ヤルタ協定は、御承知のようにクーリールはソ連に引き渡さるべしとありまして、クーリールというだけでありまして、北千島、南千島、中千島と区別はしていないはもとより、本来の日本の領土であります歯舞、色丹については何らの言及をいたしておりません。

 

第23回国会 衆議院 外務委員会 第6号 昭和30年12月9日

○菊池委員

きのうお伺いしたのですが、どうもさっぱりはっきりした御答弁が得られなかったのでありますが、ヤルタ協定の中には、当時の協定国が言っておるクーリール・アイランズの中には、南千島とか歯舞、色丹とか、そういう島もみな含んであるのですかどうですか。

 

○中川(融)政府委員

クーリール・アイランズといいました場合にどういう島を含むかということは、これは島の名前が列挙してあればわかるのでありますが、島の名前が列挙してない場合には、事実上の問題としてこれを考えなければならぬのでありますが、日本から考えてみまして、明治の初めに日露間で協定ができました際には、これは島の名前は列挙してあったのでありますが、その際にはクーリール・アイランズと書いてありましたが、カッコをして書いてある島には、南千島は入っていないのであります。

従ってわれわれは、ロシヤとの法律関係、条約関係におきましては、クーリール・アイランズという場合には、南千島は入っていないと解釈しておるのであります。

その立場から日ソ間の交渉を続けておることは御承知の通りでございます。

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○菊池委員

サンフランシスコ条約において日本が放棄したのは、南樺太とウルップ以北、つまり南千島、歯舞、色丹は含んでいないというわけでございますか。

サンフランシスコ条約のときに、その島の名前ははっきり明示して放棄したのですかどうですか、その点ちょっと……。

 

○中川(融)政府委員

御承知のように、サンフランシスコ条約には島の名前は書いてないのでありまして、先ほど申しましたように、事実上の解釈によってきめることになるわけであります。

日本としては、伝統的な日露間の協定に基くクーリール・アイランズには南千島は入っていない、こういう解釈をただいまとっておるわけでございます。

 

第23回国会 衆議院 外務委員会 第7号 昭和30年12月10日

○松本(七)委員

その説明は、今までの何回もの御説明で政府の考え方というものはわかっておるのですが、私の今聞いておるのはその点ではないのです。

千島の問題はただ対ソビエトだけの問題ではないのではないか。というのは、御承知のようにポツダム宣言において、カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びにわれらの決定する諸小島に局限せらるべし、こういう宣言によって今後のすべての領土問題というものは決定されるのです。

ですから、かりに日本が本来の領土であるから当然返してもらうべきだという主張を掲げてソビエトと交渉するとしても、こういうポツダム宣言のあれがある以上は、これは対ソビエトだけでは済まないのではないか。

今度は米国とソビエトの間柄で千島の問題をどうするかは一応別として、日本としてはこういうポツダム宣言がある以上は、ソビエトに交渉すると同時に、やはりこのポツダム宣言に基いて、連合国に対しても、ここで規定されている以外のそういう諸小島についての帰属はやはり話し合いをしなければ最終的な決定はできないのじゃないか。

それだから、少くともソビエトに交渉する以上は、並行して連合諸国とも何らかの話し合いをする必要があるのではないか、その点をお伺いしておるのです。

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○重光国務大臣

よくわかりました。ソビエト以外の今日日本と平和を回復しておる国々との関係は、これはサンフランシスコ条約で決定をしておるわけであります。

そこでサンフランシスコ条約はポツダム宣言を受諾したことから出ておるのでございますけれども、平和を回復するためにすべての条文は平和条約に規定されておるのでございます。

そうでございますから、領土問題もこれらの国々に対しては、サンフランシスコ平和条約の規定に従って処理されるべき問題だと思います。

サンフランシスコ条約によれば、千島南樺太という地域に対する領土権は日本は放棄しておるのでございます。

しかし歯舞、色丹のごとき北海道直属の島々に対する領土権はむろん放棄しておるわけではございません。これはアメリカ初め平和条約調印国もはっきりそう申しておるのでございます。

さて問題は、千島とは何ぞやという問題になります。千島とは何ぞやという問題は、明確に条約上に規定はございません。明確にございません。どう解釈するかという問題に結局帰着いたします。

南千島というのは・日本からいえば千島じゃない、こういう解釈をとっておるのでございます。

南千島は従来千島として取り扱われておらぬ、これは北海道として取り扱われておるのだ、日本とソ連との千島、樺太交換条約にもこれは規定がないのだという歴史をたどってそういうふうに定義をいたしておるのでございます。

そこで、それじゃサンフランシスコ条約による千島というのはどうであるか。米国はどういう解釈をそれにしておるか。米国は千島をソ連に譲り渡すというような意味のことをヤルタ協定なんぞでもやっておるようだが、一体どういう地理的な保障になるかというようなことをたださなければなりません。

米国側の考え方は、クーリールといううちには、日本がそう主張する日本固有の領土がこの中にあるというふうには考えておらぬのだ。

日本がそう主張すると、南千島は固有の領土だとして返還を主張するということにはアメリカもこれは異議はない。

しかしヤルタ協定で千島というものはどこからどこまでというような、はっきりした地理的の地図で線を画したことはなかったのだ、こういうふうな大体の説明がございます。

そうでありますから、日本は日本として南千島はクーリールのうちに入っておらぬのだ、こういう建前でこの主張を強くするということには、国際的の故障は少しもないと私は思います

そこで、その他の千島、中部以北の千島と南樺太という問題については、これはサンフランシスコ条約にはっきりと日本は放棄したということになっておるのでありますから、この問題については国際的の関係が起ってくる、こう思います。

何となれば、サンフランシスコ条約によって領土の放棄を日本から受けた国は条約調印国であります。その調印国はこれに対して利害関係を持っておる、こういうことだ相なるからであります。

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本政府の四島返還要求はいつから起こったのだろうか。

1955年12月7日衆議院予算委員会で鳩山首相は「今日もどれだけの島をとらなければいけないということは、私は知らないのですが、とにかく外務省において適当にやっておる」と答弁している。

2日後、12月9日の衆議院予算委員会で、中川(融)政府委員は「日露間の協定に基くクーリール・アイランズには南千島は入っていない」と答弁。

更に翌日、12月10日、重光外相は「ソ連に対しては、日本の固有の領土、いまだかつて問題に従来なったことのない領土については、国交回復の際にこれは返してもらいたい、こういうことは日本の主張としては私は正しい主張じゃないか、こう思います」と答弁。

以上のことから、1955年12月7日は四島返還論は政府内で決まっていない、12月9日は、ほぼ間違いなく四島返還論になっている、12月10日には明白に四島返還論になっている事が分る。(ただし、外交は交渉ごとなので、外務大臣重光葵がこの段階で四島返還要求に固執していたとは考えられない。)

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