光子のエネルギー損失

光子が物質中を移動する際、さまざまな相互作用が起こり減弱されます。

平均自由行程

光子が他の粒子に衝突することなく進むことのできる距離(自由行程)の平均を言います。

線減弱係数(線減衰係数)

線減弱係数は平均自由行程の逆数で、光子が物質中を1cm進む間に相互作用により減衰する確率を線減弱係数と呼びます。

入射する光子の数は、物質中を通過すると指数関数的に減少します。

$$ I=I_0 e^{-μx} $$

I₀:照射された初期の光子数
I:物質を通過後の光子数
μ: 線減弱係数
x:距離

減弱の過程には弾性散乱(レイリー散乱)・光電効果・コンプトン散乱・電子対生成があり、これらを合計したものが線減弱係数です。

$$ μ=μ_R+μ_τ+μ_σ+μ_κ $$

μR:レイリー散乱による減衰
μτ:光電効果による減衰
μσ:コンプトン効果による減衰
μκ:電子対生成による減衰

線減弱係数は物質中の原子番号や電子密度に依存します。

半価層

$$ \frac{1}{2} I_0 = I_0 e^{-μx} $$
$$ \frac{ \rm{ln} 2}{μ} ≒ \frac{0.693}{μ} $$

線減弱係数の断面積

線減弱係数の一般的な式は以下の通りです。

μ = σN

N:物質中の原子数密度
σ:断面積

σは次のように表されます。

$$ σ = 4πr_e^2·f(θ, E)·Z^4·\left(\frac{E}{511\rm{keV}}\right)^{-\frac{3}{2}} $$

\( r_e \)は電子半径
f(θ, E)は散乱関数
Zは原子番号
Eは光子のエネルギー

この式からわかるように、断面積は原子番号Zの4乗に比例するため、原子番号が大きくなると線減弱係数も大きくなります。

線エネルギー転移係数

入射した一次光子の、相互作用によって減弱する過程で生じた二次荷電粒子(電子など)と二次光子(X線や散乱光子など)のうち、二次荷電粒子に転移したエネルギーの量を表します。

光子のエネルギー転移が起こる相互作用には光電効果、コンプトン散乱、電子対生成があります。

光電効果のエネルギー転移

光電効果は、入射光子が原子中の軌道電子にエネルギーを全て与え消滅し、電子が軌道から飛び出る現象です。

このとき入射光子のエネルギーは、衝突した電子が持つ軌道殻の束縛エネルギー(結合エネルギー)を消費し、残った分が光電子の運動エネルギーへと転移します。

さらに、光電子が飛び出した後の空孔に、外側の軌道電子が遷移した際に放出される束縛エネルギーはオージェ電子の運動エネルギーへと転移します。または、このとき特性X線が二次光子として放出されます。

コンプトン散乱のエネルギー転移

コンプトン散乱は、入射光子が電子にエネルギーを一部与えて弾き出し、光子自身も散乱される現象です。

このとき入射光子エネルギーは反跳電子の運動エネルギーと散乱光子(二次光子)に分配されます。

電子対生成のエネルギー転移

電子対生成は、入射してきた光子が原子核の強い電場に吸収されて、電子と陽電子が生成される現象です。

このとき入射光子エネルギーが電子と陽電子の静止エネルギーと運動エネルギーに分配されますが、運動エネルギーとなった分が荷電粒子へエネルギー転移したものとなります。

なお、陽電子は後に対消滅を起こしガンマ線(二次光子)を放出しますが、原子内の荷電粒子にはエネルギーが転移しません。

線エネルギー転移係数と線減弱係数の関係

線エネルギー転移係数μtrは次の式で表されます。

$$ μ_{tr}=μ_{τ光電} \left( 1-\frac{δ}{k_0} \right)+μ_{σコンプトン} \left( \frac{E_e}{k_0} \right)+μ_{κ対生成} \left( 1-\frac{2m_0c^2}{k_0} \right) $$

μ:線減弱係数

k0:入射光子エネルギー

δ:光電効果により生じる特性X線の平均エネルギー
(\( 1-\frac{δ}{k_0} \))は特性X線以外のエネルギー

Ee:コンプトン効果による反跳電子のエネルギー

m0:電子の質量
c:光速
m0c2は電子一個分の静止エネルギー
(\( 1-\frac{2m_0c^2}{k_0} \))は静止エネルギー以外のエネルギー

質量エネルギー転移係数

線エネルギー転移係数は原理的に物質の密度ρに比例する量なので、ρで割ることにより、密度と無関係な量となる。

線エネルギー吸収係数

入射光子の相互作用によって生じた二次電子が、後に相互作用を起こしてエネルギーがすべて転移したとき、最終的に電離や励起によって物質に転移したエネルギーの量を表します。

二次電子は電離や励起を起こすだけでなく、制動X線を放射します(制動輻射)が、これは物質にエネルギーを与えていません。

そのため、線エネルギー転移係数から二次電子の制動X線を放射することによるエネルギー損失(放射損失)の割合を除き、電離や励起によるエネルギー損失(衝突損失)に絞ったものを線エネルギー吸収係数といいます。

μen = μtr (1-g)

μtr:エネルギー転移係数

g:二次電子のエネルギーの内、制動X線に移るエネルギーの割合の平均値

質量エネルギー吸収係数

線エネルギー吸収係数をρで割ることにより、標的物質の密度と無関係な量となります。

まとめ

線減弱係数>エネルギー転移係数>エネルギー吸収係数

カーマ

kineticenergy released per unit mass

入射する非荷電粒子(光子など)のエネルギーが、二次荷電粒子(二次電子など)の運動エネルギーに転移した量を表します。

質量エネルギー転移係数を使う概念です。

衝突カーマ

入射光子の相互作用によって生じた二次電子が、後に相互作用を起こしてエネルギーがすべて消費されたとき、最終的に電離や励起(衝突)によって物質に転移したエネルギーの量を表します。

質量エネルギー吸収係数を使う概念です。

一方、最終的に二次光子(制動X線や特性X線など)に転移したエネルギーの量は放射カーマと呼ばれます。

吸収線量

放射線(荷電粒子も対象)がある物質を通過する時、物質に転移したエネルギーの量

ただし、一定の領域内でのエネルギー転移が対象なので、領域外に出た放射線のエネルギー転移は吸収線量に含まれません。

電子平衡

ある深さから、一定の領域内に入射する二次電子と射出する二次電子の量が平衡状態となり、このような条件を電子平衡(荷電粒子平衡)と呼びます。

この電子平衡状態では、領域外に出たことで吸収線量として計測されなかったエネルギーが領域内に入ってくる二次電子によって補完されるため、吸収線量と衝突カーマは等しくなります。

照射線量

空気に対し光子を照射した際に生じた二次電子が、最終的に生成した電子対の数[C/kg]

衝突カーマはエネルギー転移に注目していますが、照射線量は同じ概念で電子対の数に注目しています。

シーマ

Converted Energy per unit mass

入射荷電粒子のエネルギー損失から二次電子の運動エネルギーの総和を除いたもの。

ターマ

total energy released per unit mass

ターマは放射線治療計画装置に用いられる線量計算アルゴリズム(コンボリューション法・スーパーポジション法)の一次線を表現する量です。

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