RFパルス

 

①基底状態

ペアをつくっていないすべてのプロトンが基底状態にある。

実際には無数のプロトンが存在するが、ここでは便宜上、6つのプロトンについて考えることとする。

上の記事で述べたように、静磁場の中でプロトンは歳差運動を行う。プロトンの磁化ベクトルはZ軸に正の方向となっている。(図1)

図1

・歳差運動をしているプロトンにRFパルスを加えると、励起緩和する。これを磁気共鳴現象という。

RFパルス

RFパルスとは、プロトンの歳差運動と同じ周波数の電磁波であり、①位相を揃える、②プロトンを基底状態→励起状態に変えることができる。

・この下線部の変化は、下図のように片側から順に進行していく。(下図を見てみると、自転軸が左に傾いているものから順に進行していることが分かる)

・RFパルスの強さはフリップ角で定義する。フリップ角とは、RFパルスを掛ける前のプロトンの総和の磁化ベクトル(Z軸方向の正の向き)に対して、RFパルスをかけた後の総和の磁化ベクトルが傾いた角度のことである。(例えば、下の図において30°パルスをかけると、総和の磁化ベクトルは30°傾いていることが分かる)

90°パルスは、ペアを作っていないプロトンの半数を基底状態→励起状態あるいは励起状態→基底状態に変化させている。

180°パルスはペアを作っていないプロトンのすべてを基底状態→励起状態あるいは励起状態→基底状態に変化させている。

磁化ベクトルのx軸y軸z軸はプロトンの歳差運動と同じ周期で回転している。(回転座標系)

90°RFパルス印加

RFパルスを加えると、歳差運動をしていた基底状態のプロトンが励起状態に変化する。(以下では90°パルスを例に考えてみる)

基底状態のプロトンと励起状態のプロトンの数が等しくなるため、磁化ベクトルのZ軸方向成分=0となる。一方で、プロトンの位相が揃い、磁化ベクトルのxy方向成分が最大となる。

90°パルスをかけると、片側からプロトンの半数が基底状態→励起状態となる。したがって、Z軸方向の磁化ベクトル=0となり、磁化ベクトルはxy平面上に移動する。(図2の赤矢印)

図2

この磁化ベクトルは原点を中心にxy平面上を回転する。したがって、 xy平面上にコイルを置くと、コイル内の磁場が変化する。これにより、コイルには磁場の増減を打ち消す方向に自己誘導起電力が発生する(高校物理で習った電磁誘導)。これがFID(free induction decay:自由誘導減衰)信号である。(図3)

 

図3

・上図を見ると、FID信号は急速に減衰することが分かる。これは、プロトンの位相がずれ、xy平面上の合成磁化ベクトルが小さくなるからである。(図4)

(注:際には無数のプロトンが存在するが、説明をしやすくするために下図においては両端にある6つのプロトンについて考える。)

②の状態を表した図
図4:xy平面の成分ベクトルのみを抜き出した図

・このようにプロトンの位相がずれることで、FID信号が減衰していくことをT2*緩和と言い、FID信号の振幅をなぞった曲線が、T2*緩和曲線である。(図5)

図5

・T2*緩和曲線において電流の大きさがはじめの1/eになる時間をT2*時間と定義する。

・T2*緩和曲線の方程式は、y = e^-t/T2* となる。

・T2*強調画像はFID信号を受信することで得られる。

 

180°RFパルス印加

180°パルスを加えると、プロトンのすべてが基底状態→励起状態あるいは励起状態→基底状態に変化する。

したがって、xy平面の成分ベクトルは以下のようになり、(90°パルスを加えてから180°パルスを加えるまでの時間をαとすると)180°パルスを加えてからα時間後に位相がそろう。このときに得られる信号をエコー信号と言う。

 

エコー信号の最大振幅はFID信号の最大振幅よりも小さくなる。これをT2緩和と言い、FID信号の最大振幅とエコー信号の最大振幅を結ぶ曲線がT2緩和曲線である。

・T2緩和曲線において電流の大きさがはじめの1/eになる時間をT2時間と定義する。

・T2緩和曲線の方程式は y = e^-t/T2 となる。

・T2緩和時間は必ずT2*緩和時間よりも長い

 

90°RFからの180°RF【再収束の話】

RFパルスによって磁化ベクトルを倒す。赤色→青色  

再収束に関しては、横磁化ベクトルについて考えます。90度パルス印加直後から、磁場の不均一により直ぐに拡散していきます(図2)。

90度倒された磁化ベクトルは倒された瞬間から直ぐ図のように左右に広がって行きます(黄色矢印)。

早く広がるものとゆっくり広がるものがあります。(濃い青色は早い拡散)(薄い水色は遅い拡散)

磁化ベクトルの拡散
90度パルスを印加後横磁化は拡散を始める。図2

 

ここで、180パルスを赤線方向に対して印加するとします。そうすると赤線を軸に反対側へ磁化ベクトルが倒れ、ゆっくり広がっていた磁化ベクトルが早く広がる磁化ベクトルを追い越した位置になります(図3)。

全ての磁化ベクトルの位置が反対となり、その後時間と共に早く広がるベクトルとゆっくり広がるベクトルが、同時に収束します(緑色矢印)。

これで拡散した磁化ベクトルが再収束します。180度パルスを印加することで再収束して大きな信号を得ることが出来ます。これがスピンエコー法の原理です。

 

190度パルスを掛けることで反対側で再収束する。図3
wikipediaより引用
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