電子対生成
光子(γ線)が原子核に衝突したり原子核付近のクーロン場に入射したときγ線がエネルギーを失い、電子(β-)と陽電子(β+)が生成される現象です。
電子対は、光子が1.02MeV(電子・陽電子の静止エネルギーの和)以上のエネルギーがないと生成されません。
また、1.02MeV以上の余分なエネルギーは運動エネルギーになります。
(電子と陽子の運動エネルギーの和)=(入射する光子のエネルギー)-(電子と陽子の静止エネルギーの和(1.02MeV))
電子対消滅
陽電子が周囲の電子と衝突し消滅する現象です。このとき2個以上の光子(γ線)が発生します。
2本の消滅γ線が発生する場合(二光子崩壊)、γ線は正反対方向に発生し、エネルギーはそれぞれ0.511MeV(電子と陽子の静止エネルギーの和(1.02MeV)の半分)となります。
実際には、消滅相手である電子の運動量が大きいほど、放射されるγ線のスペクトルは0.511MeVからずれていきます(ドップラー効果)。物質が観測者に近づいている場合には光子の周波数が高くなり、遠ざかっている場合には低くなります。
ポジトロニウム
電子対消滅の過程の一つに、陽電子と電子からポジトロニウムが生まれ、これが2本や3本の光子(γ線)を放出して崩壊するものがあります。
ポジトロニウムは、電子と陽電子がクーロン力で束縛された状態の原子です。
基本構造は水素原子と同じですが、結合エネルギーは水素原子のおよそ半分(6.8eV)です。これは、陽電子は質量が電子とほぼ等しく、水素原子の陽子と比べると引力が弱くなるためです。
電子対生成の条件
真空中にどれだけ高いエネルギーの光子を入射しても電子対生成は起こりません。
電子対生成を起こすためには運動量保存則と相対論的なエネルギー保存則を満たすための、標的となる粒子が必要です。
静止している質量Mの粒子にエネルギーEの光子をぶつけ、衝突後には質量mの粒子と反粒子(質量は同じ)が新しく生まれたことを考えます。
この場合、運動量保存則と相対論的なエネルギー保存則を満たす条件に当てはまる最低エネルギーEは
$$ E =2mc^2 \left( 1+\frac{m}{M} \right) $$
となります。
標的の粒子が原子核の場合、電子の質量mに比べて原子核の質量Mははるかに大きいのでm/Mが0に近づき
$$ E ≒ 2mc^2 $$
となります。
このことから、原子核に対して2mc2(電子2個分の質量)に相当するエネルギー以上の光子線を当てれば対生成が起こることが分かります。ちなみに、余ったエネルギーは粒子の運動エネルギーに転化されます。
一方、標的の粒子が電子の場合、M=mなので
$$ E = 4mc^2 $$
となります。
このことから、電子に対して4mc2(電子4個分の質量)に相当するエネルギー以上の光子線を当てれば対生成が起こることが分かります。このとき軌道電子を反跳させると三電子生成となります。
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