クライン=仁科の公式

X線を物体に照射したとき、散乱X線の波長が入射X線の波長より長くなる現象があります。

これは物質の電子と入射X線との非弾性散乱(衝突)によって起こる現象であり、X線が粒子性をもつこと、つまり光子として振る舞うことを示します。

可視光など低周波数領域ではトムソン散乱と呼ばれ、X線やガンマ線などの高周波数領域ではコンプトン散乱と呼ばれます。

クライン=仁科の公式

(読:くらいんにしなのこうしき、英: Klein-Nishina’s formula)

束縛を受けていない自由電子による、光散乱の散乱断面積を表す関係式です。

1929年にスウェーデンの物理学者であるオスカル・クラインと日本の物理学者である仁科芳雄により導かれました。

ディラック方程式(量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式を、特殊相対論の要請を満足するように修正した方程式。量子電磁力学による初期の研究成果。)を相対論と量子論の効果を考慮する事で光子散乱の精密な関係式が得られました。

クライン=仁科の公式が導かれる以前にも、電子の発見者でもあるイギリスの物理学者のJ. J. トムソンによって、古典的な力学及び電磁気学であるニュートン力学と古典電磁気学に基づいた散乱断面積の式(トムソンの公式)が導かれていましたが、散乱実験の結果はトムソンの公式では説明が不可能な程の大きなずれがありました。これは、短波長領域では当時まだ知られていなかったコンプトン散乱の影響がトムソン散乱に比べて強くなる為ですが、1923年にアメリカの物理学者であるアーサー・コンプトンによってコンプトン効果による波長のずれを求める公式が示され、後にその公式を考慮に入れて散乱断面積を計算した結果、実験の結果と完全に一致する公式となるクライン=仁科の公式が導かれました。

$$
\frac{\mathrm{d}\sigma}{\mathrm{d}\Omega} = \frac{\hbar^2\alpha^2}{2m_e^2c^2}\left(\frac{\lambda}{\lambda’}\right)^2\left[\frac{\lambda}{\lambda’} + \frac{\lambda’}{\lambda} – \sin^2\theta\right]
$$

$$
\Delta\lambda = \lambda’ – \lambda = \frac{h}{m_ec}(1-\cos\theta)
$$

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